第122話 【神子元編】最近流行ってます
川奈を出て、海岸沿いを南へ進む。
俺の横にはキンメダイ。
後ろにはキントキダイ。
イトヨリは...
「泳ごう!泳ごう!私は元気〜♪泳ぐの大好き!どんどん行こう♪!!」
「...」
少し前を泳いでいる。
「順調っすねー!」
「まだ全然進んでねえけどな」
「旅は始まった瞬間が一番楽しいっす!」
「お前だけ完全に旅行なんだよ」
しばらく泳いだところで、前方の海面が騒がしくなった。
小魚が跳ねる。
その下を回遊魚が走っている。
ナブラだ。
「おー、ナブラっすね!」
「朝から元気だな」
そのまま横を通り過ぎる。
少し進む。
また海面が騒がしくなった。
小魚が逃げる。
回遊魚が追う。
海面が沸く。
「またっすね」
「今日は多いな」
そのまま通り過ぎる。
さらに進む。
また。
「…………」
「またっすね」
「多くない?」
さっきからナブラばかりだ。
「まあ、回遊魚なんだからいる時はいるか」
通り過ぎようとした。
「…………ん?」
一匹の回遊魚が、小魚を追うのをやめた。
海面近くまで上がっていく。
何をするのかと思ったら、磯の方を見ている。
「面舵いっぱーい!!!」
「…………」
「速度を維持して、航路を磯よりに!」
群れの中に戻っていった。
また小魚を追い始める。
「今あいつ、何て言った!?」
俺も上を見る。
釣り人がいた。
回遊魚たちが一斉に小魚を海面へ追い込む。
さっきより派手に海面が沸いた。
磯の上の釣り人が気づく。
竿を持って移動してきた。
「…………」
ウキと仕掛けが飛んできた。
遠投カゴ仕掛けから福音が撒かれる。
ぱらぱらぱら。
小魚も回遊魚たちも、一斉に福音へ向かった。
「…………」
「福音目当てっすね」
「わざとナブラ作ってんじゃねえか!!!」
完全に釣り人を呼んでいた。
「誰だよこんなの教えたの!!!」
魚たちは福音を食べ終わると、何事もなかったように散っていった。
「…………」
「効率いいっすね」
「感心すんな!!!」
さらに南へ進む。
富戸を過ぎる。
またナブラ。
今度は、海面近くに何匹もの魚が集まって見物していた。
「またやってる……」
一匹の小魚が勢いよく海面から飛び出した。
鳥が来た。
咥えた。
「おーーーー!!!」
海中から歓声が上がった。
「え?」
鳥が上昇する。
咥えられた小魚が暴れる。
ぽろっ。
「バンジー!!!!!!」
叫ぶ。
そして海面に突っ込む。
「おおおおおおお!!!」
大歓声の中、小魚が戻ってきた。
「成功!!」
「まだやってんの!?」
俺は思わず止まった。
見覚えがある。
ありすぎる。
ホンガツオと鳥を集めるためにやったやつだ。
「まだこれやってんの!?」
「チカメさん、定着してるっすね」
「定着させんな!!!」
さらに進む。
城ヶ崎。
また魚が集まっていた。
「…………」
嫌な予感がする。
「次、五番いきまーす!」
小魚が一匹、前へ出た。
周りから声が飛ぶ。
「いけー!」
「今度こそ戻ってこいよー!」
「五番がんばれー!」
「…………なんで番号ついてんの?」
小魚が海面へ向かって加速した。
飛び出す。
鳥が来る。
咥えた。
「鳥さんビビってる!ビビってるよー!!」
一斉に歓声が上がる。
鳥が上昇する。
「いけ!」
「まだだ!」
「落ちろ!」
「落ちろー!」
ぽろっ。
「バンジー!!!」
小魚が落ちてきた。
海へ突っ込む。
「五番、成功!!!」
「なんか盛り上がり方おかしくない!?」
「次、六番!」
また小魚が前へ出る。
「六番いけー!」
「頼むぞー!」
「今度こそ当たれ!!」
「今度こそ当たれって何!?」
六番が飛び出した。
鳥が咥える。
「きゃーーーー!!!」
鳥が上がっていく。
十メートル。
二十メートル。
「落ちろ!」
「今だ!」
「落ちろー!」
鳥はそのまま飛んでいった。
「…………」
魚たちが見送る。
「…………」
見えなくなった。
「あっ、また食べられましたね」
「あー……ノーバンジー……」
「また!?」
隣にいた魚がうなだれた。
「私、六番に賭けてたのに。大損です」
「賭博になってんじゃねえか!!!」
「五番だったかー」
「俺は次の七番買ってるぜ」
「俺はどうしようかなー」
「続けるの!?」
「七番、準備してー!」
「やめろおおおお!!!」
俺は魚の群れに突っ込んだ。
「何やってんだお前ら!!」
「何って、バンジーですけど」
「それは見りゃ分かるよ!! なんで賭けてんだよ!!」
「最近流行ってるんですよ」
「流行らせんな!!!」
「最初は回遊魚がやってたんです」
「回遊魚?」
「ここに来る回遊魚連中が、ナブラを作ったり、鳥に咥えられて戻ってくる遊びをしてて」
「ナブラを作ると釣り人も集まるし、福音も降りますから」
「全部セットで広まってんの!?」
魚が俺の顔をじっと見た。
「…………あれ?」
「何?」
「まさか!チカメ様ですか!?」
「名前知ってるの!?」
周りにいた魚たちもこっちを見た。
「チカメ様!?」
「川奈の?」
「本物!?」
「なんで城ヶ崎で俺の名前が通じるんだよ!!」
「川奈のチカメ様の名は、ソウダガツオが口々に……」
「あいつら何を回遊しながら広めてんだよ!!!」
イトヨリが横から入ってきた。
「シマノ公式キャラになったっす」
「なってねーよ!!!」
「高橋◯也に釣らせてやった男っす」
「俺が接待したみたいに言うな!!!」
魚たちがざわついた。
「じゃあ、やっぱりあのクエを追い払ったのもチカメ様なんですか?」
「……まあ」
「ありがとうございました」
「え?」
周りの魚たちも頭を下げた。
「助かりました」
「いや、俺も食われそうだったから追い払っただけで……」
「おかげで安心してバンジーができます」
「そのために追い払ったんじゃねえよ!!!」
「前は上に鳥、下にクエでしたから」
「よくそれで始めたな!!!」
「今は上だけ気をつければいいので」
「六匹目が食われたばっかりだよ!!!」
その時。
「七番いきまーす!」
「まだやるの!?」
小魚が海面へ飛び出した。
鳥が来る。
咥えた。
「おーーー!!!」
「いけー!」
「落ちろー!」
「戻ってこい!」
イトヨリが前へ出た。
「七番いけええええ!!!」
「お前まで何やってんだよ!!!」
鳥が上がっていく。
十メートル。
二十メートル。
ぽろっ。
「バンジー!!!!」
落ちた。
「おおおおおおお!!!」
七匹目が海へ戻ってきた。
イトヨリが跳ねた。
「っしゃあああああ!!!」
「お前、賭けただろ!!!」
「旅費ゲットっす!」
「魚の旅に旅費いらねえだろ!!!」




