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第115話 夜行性生物の生態


夜中。


ふと俺は目が覚めた。



キンメダイは寝ている。


イトヨリも寝ている。



あれ? キントキダイがいない。



「…………?」



こんな時間に、どこ行った?



少し離れた岩場に。


赤い尾びれが見えた。



一人で、沖の方へ向かっている。



「…………?」



一人で出歩くなんて珍しい。



昼間は。

何かあるたび俺の後ろに隠れているやつだ。



俺は少し気になって、後を追った。




キントキダイは。


岩礁の間を抜けて。


どんどん暗い方へ泳いでいく。



おいおいおい、どこいくんだ?



しかし……速い。



「…………」



こんな速く泳げたのか、こいつ。



見失いそうになって。


俺も少し急いだ。



やがて。


キントキダイが止まった。



俺は慌てて岩陰に隠れる。



ん? 何かいるのか?



キントキダイは。


目を閉じた。



しばらく動かない。



「…………」



何してんだ?



そしてゆっくり目を開いた。



「……刻が来た」



「…………」




えっ?



キントキダイが暗い岩礁を見つめる。



「甲殻類が俺を呼んでいる……」



キントキダイの一人称、俺だっけ!?



昼間。


こいつ、私って言ってなかったか?



「逃げても無駄だ」


「その殻で、いつまでも運命から身を守れると思うなよ? さぁ姿を現わすがいい! クリムゾン・シェル!!!!」



俺は息を呑む……。



瞬きを忘れるほどに……。



岩の隙間から……。



小さなエビが顔を出した。



…………。



エビに言ってる。



「俺の臼歯が疼くぜ!!」



エビが逃げた。



次の瞬間。



キントキダイが飛び出した。



「!?」



速い。



さっきまでの。


訳の分からないやつじゃない。



岩の隙間を縫って。


逃げるエビを追う。



エビが向きを変える。



キントキダイも。


一瞬で向きを変えた。



追いついた。



食った。



「…………」



なっ、なにごとなんだ!!……。



俺は岩陰からキントキダイを見た。



……笑っていいのか。


感心していいのか。



分からなくなってきた。



昼間。


海藻が落ちてきただけで。


びくっとして俺の後ろに隠れていた魚と。



同じ魚には見えない。



キントキダイが。


ゆっくり顔を上げた。



「まだだ……」



今度は。


少し離れた小魚が動いた。



キントキダイの目が。


そっちを向く。



「おのれ! フィッシュ・ハデス!」



一瞬だった。



追う。



小魚が逃げる。



追う。



迷いがない。



「…………あ」



思い出した。



こいつ。



城ヶ崎で。


ルアー食ってた。



普段はあんなに警戒してるくせに。


動いたルアーには。


普通に食いついてた。



「…………」



そういうことか、フィッシュ・ハデス。



獲物が動いたら。


昼間でも我を忘れ


夜のキントキダイが出てくるのか!!!



.....



のか?



そしてまた。


小魚を追って。


暗闇へ消えていく。



しばらくして。


戻ってきた。



「ふっふっふっ……」



なんか笑ってる。



「夜明けまで、まだ時間はある」



もう一匹いく気か!!






俺は。


少し面白くなってきた。



キントキダイはゆっくり東を向いた。



「知りたいか闇の眷属達よ……」



誰に言ってんだよ。



「大室山より、小室山が紅蓮に染まる理由を」



いや。


海に近いから朝日が当たりやすいだけだろ。



「陽は選んでいるのだ」


「最初に血を浴びる山を」



朝焼けだよ。



「やがて大室も染まる」


「逃れられる山などない」



日の出だよ。



キントキダイは。


しばらくアビス――深い方を見ていた。



「…………」



俺は岩陰で。


笑うのを我慢した。



こいつ。


毎晩これやってんのか?



深い方は怖くて行けないのか!!



そのとき。



キントキダイが。


岩の隙間を見た。



「そこか……」



小さなカニがいる。



「ようやく会えたな」



初対面だろ。



「その鎧!砕かれる覚悟はできているか!!」



臼歯の話だ。



カニが逃げた。



「待って!」



急に普通になった!?



キントキダイが追う。



カニが岩の下へ逃げ込む。



キントキダイが反対側へ回る。



カニが出てくる。



食った。



「…………」





「今宵もまた、一つの運命を噛み砕いた……」



.....。



俺は。


そのまましばらく夜のキントキダイを見ていた。




翌朝。



「おはようございます!」



キンメダイが起きた。



「あーし、まだまだ寝足りないっすよ〜」



イトヨリも起きた。



キントキダイも。


いつもの場所にいた。



「おはよう」



普通に戻ってる。



「おっ、おう……」



俺は。


何も知らない顔をした。



そのとき。



上から。


小さな海藻が落ちてきた。



「!」



びくっ。



キントキダイが。


俺の後ろに隠れた。



「…………」



「どうした?」



「警戒しただけ……」



いつものやつだ。



俺は肩の震えをおさえながら前を向いた。




(そのままずっと我の後ろにいるがいい……。目を合わせるなよ……心が奪われる!! ププププ……)



後ろでは。


キントキダイが真面目な顔で周囲を警戒している。



昨夜のことは、心にしまっておこう。



この胸の奥に蠢く。


名もなき、この愉悦。



その真名を――



我はまだ知らない。

西新宿の高層ビル群に映る夕陽を私は夕陽だと思っていますぞ

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