【城ヶ崎遠征編】第108話 動いたから
鳥山が南へ動く。
その下を、俺たち魚の群れが進む。
そして後ろから。
海上レクサス。
「来てるっす!」
「来てるな!」
さっきまでとは違う。
教祖は竿を出さない。
鳥山を見ながら、ずっとついてくる。
「成功だ!!」
「人間が釣れたっす!!」
「言い方!!」
いや。
今回に限っては合っている。
俺たちは今、教祖を釣っている。
餌は魚。
仕掛けはナブラ。
その上に鳥までついている。
完璧だった。
「このまま城ヶ崎まで行くぞ!」
ホンガツオが群れの先頭へ出る。
「全体、速度を維持!」
「はい!!」
イワシが進む。
サバが追う。
ソウダガツオが海面を騒がせる。
その上では鳥が旋回している。
「委員長!」
「なんだ!」
「鳥、増えてます!」
「構わん! 陣形を維持しろ!」
十羽。
十五羽。
二十羽。
いつの間にか、空まで騒がしくなっていた。
「すごいっすね……」
「やりすぎじゃない?」
キンメダイが上を見た。
「目立てば目立つほどいいだろ」
「そうかな」
「教祖を城ヶ崎まで連れていくんだから――」
ブォォォォォ。
「…………」
音が近い。
俺は後ろを見た。
海上レクサス。
さっきより近い。
「…………近くない?」
イトヨリも振り返る。
「近いっすね」
ブォォォォォ。
さらに近づいてくる。
「近い近い近い!!」
ホンガツオが振り返った。
「どうした」
「教祖が近い!!」
「追わせているのだから当然だろう」
「限度があるだろ!!」
海上レクサスが鳥山のすぐ後ろまで来ている。
教祖が立ち上がった。
竿を持っている。
「…………」
嫌な予感がした。
「ホンガツオ」
「なんだ」
「ちょっと速度上げよう」
「なぜだ」
「教祖が竿持った」
「…………」
ホンガツオが海面を見る。
教祖が竿を振りかぶった。
「全体、加速!!!」
「はい!!」
魚たちが一斉に加速した。
その直後。
バシャッ!
何かが海面に落ちた。
「投げたっす!!」
「だから言っただろ!!!」
ルアーが水中へ入ってくる。
キラキラと光りながら、高速で群れの横を走った。
イワシが一斉に散る。
「うわあああ!!」
「逃げろー!!」
その後ろで。
サバが振り返った。
「…………」
ソウダガツオも振り返る。
「…………」
ホンガツオの目も、ルアーを追っている。
「お前ら見るな!!」
「分かっている!」
ルアーが方向を変えた。
キラッ。
サバが少し動いた。
「サバ!!」
「食べてません!」
ソウダガツオが半歩出る。
「お前も!!」
「出ただけです!」
「全員ギリギリじゃねえか!!!」
ルアーがもう一度、目の前を高速で横切った。
その瞬間。
ホンガツオが叫んだ。
「こらー!! 校内を走るなー!!」
「ルアーに言ってんの!?」
「危険だろう!」
「海中だよ!! 校内ですらねえよ!!!」
ルアーが折り返す。
ホンガツオの目も一緒に動いた。
「…………」
「委員長」
「なんだ」
「食べたいんじゃない?」
「違う。指導している」
「ずっと目で追ってるけど」
「違反者から目を離すわけにはいかない」
「便利だな風紀委員!!!」
教祖がルアーを回収した。
「…………よし」
全員が少しだけ安心した。
そして。
バシャッ!
また来た。
「二投目っす!!」
ルアーが走る。
イワシが逃げる。
サバが見る。
ソウダガツオが見る。
ホンガツオが指導する。
「走るなー!!」
「聞こえねえよ!!!」
三投。
四投。
五投。
投げるたびに小魚は逃げ。
投げるたびにサバとカツオが振り返る。
それでも。
誰も食わない。
「…………」
教祖の顔が見えた。
釣れなくて不思議そうにしている。
「そりゃ釣れねえよ!!!」
これだけ魚がいる。
鳥までいる。
なのに一匹も釣れない。
教祖がさらに海上レクサスを近づけてきた。
「チカメさん」
「なんだ」
「教祖、意地になってないっすか?」
「…………なってるな」
完全に火をつけてしまった。
またルアーが飛んできた。
その少し後ろで。
「…………」
キントキダイがルアーを見ていた。
「…………」
嫌な予感がした。
「キントキダイ」
「何?」
「見るな」
「見てないよ」
「見てるよ!!」
ルアーがひらひらと動く。
キントキダイの目も動く。
「追うな」
「追ってないよ」
少し前へ出た。
「出てる!!」
「ちょっとだけだよ」
「戻れ!!」
キントキダイが戻った。
「食べないから」
「絶対食うなよ!!」
「分かってるって!」
ルアーが目の前を通り過ぎる。
キラッ。
「…………」
キントキダイが振り返った。
「見るなって!!」
「動いたから!!」
「ルアーだから動くんだよ!!!」
教祖が巻く。
ルアーが逃げる。
キントキダイが少し追う。
「おい!!」
「食べないよ!」
「じゃあ追うな!!」
「追ってない!」
「追ってる!!!」
ルアーがもう一度、目の前で方向を変えた。
キラッ。
「…………」
パクッ。
「食ったあああああ!!!」
竿が曲がった。
海上レクサスの教祖が合わせる。
キントキダイの体が一気に引っ張られた。
「うわああああ!!」
「何やってんだよ!!!」
「動いたから!!!」
「だからルアーだって言っただろ!!!」
教祖を城ヶ崎まで釣れていく途中で。
仲間が教祖に釣られた。
第108話 終




