【城ヶ崎遠征編】第107話 正しい鳥の集め方
「これより、表層の風紀を乱す!」
ホンガツオの号令で、魚たちが一斉に動き出した。
「イワシは海面へ!」
「はい!」
「ソウダガツオとサバは外側から追え!」
「了解!」
「ただし食うな!」
「了解!」
速い。
さっきまで俺たちがやっていたのとは全然違う。
イワシの群れが海面近くで一斉に向きを変える。
その外側をソウダガツオとサバが走る。
逃げる。
追う。
逃げる。
追う。
バシャバシャバシャバシャ――!
海面が一気に沸いた。
「おおおお!!」
ナブラだ。
どこからどう見てもナブラだった。
「すごいっす!!」
「さっきと全然違う!」
ホンガツオが鋭く声を飛ばす。
「右が遅い! 間を空けるな!」
「はい!」
「サバ! 前へ出すぎだ!」
「すみません!」
「イワシ、散るな! 群れを保て!」
「はい!!」
「…………」
統率が取れすぎている。
「ホンガツオ」
「なんだ」
「ナブラって、こんな規律正しいものだっけ?」
「風紀を乱すからといって、規律まで乱す必要はない」
「ややこしいな!!」
その横では。
「うっふーん」
「あっはーんですわ!」
「お前らはもうやらなくていい!!!」
ミノカサゴとホウボウだけ、まだ風紀を乱していた。
しばらくして。
一匹のソウダガツオが沖から戻ってきた。
「委員長!」
「どうした」
「船です! 伊東のマリンタウン方面からこちらに向かって来ます!」
俺は海面近くまで上がった。
遠くに見える船影。
あれは。
「来た!!」
海上レクサス。
教祖だ。
「釣れたっすー!!!」
イトヨリが跳ねた。
「まだだ! 城ヶ崎まで釣れてって初めて成功だ!」
海上レクサスがナブラへ近づいてくる。
教祖が竿を持っている。
完全にこっちを見ている。
「よし、南へ動かすぞ!」
ホンガツオが頷いた。
「全体、南へ移動!」
「はい!!」
イワシが動く。
サバとソウダガツオが追う。
ナブラが少しずつ南へ移動する。
海上レクサスもついてくる。
「来てるっす!」
「よし!!」
しばらく進む。
教祖が追ってくる。
そして。
止まった。
「…………」
「チカメさん、止まったっす」
「なんで?」
イトヨリが海面を覗いた。
「竿出してるっす」
「…………」
教祖は釣りを始めていた。
しばらく待つ。
釣れない。
すると海上レクサスが再び動き始めた。
「来た!」
「南へ!」
ナブラが動く。
教祖が追う。
また止まる。
竿を出す。
「…………」
釣れない。
また追ってくる。
「南へ!」
追ってくる。
止まる。
竿を出す。
釣れない。
追ってくる。
止まる。
竿を出す。
釣れない。
「全然進まねえよ!!!」
釣り人としては何一つ間違っていない。
ナブラを見つける。
追う。
竿を出す。
釣れなければ、また追う。
問題は、俺たちが城ヶ崎まで連れていきたいことを教祖が知らないことだった。
「チカメさん、このままだと日が暮れるっす」
「分かってるよ!」
ホンガツオが海面を見た。
「もっと強く注意を引く必要があるな」
「これ以上どうすんの?」
ホンガツオが上を見た。
空には海鳥が飛んでいる。
「鳥山を作る」
「作れるの!?」
ホンガツオが群れの前へ出た。
「全員、陣形変更!」
魚たちが一斉に向きを変える。
「鳥山モード!」
「そんなモードあるの!?」
「ソウダガツオ、サバ! 海面へ!」
「了解!」
「私が鳥を引きつける。イワシはその下で群れろ!」
「はい!」
ホンガツオが海面ぎりぎりまで上がった。
「いいか。鳥が来ても食われるな」
「どうやって!?」
「こうだ」
ホンガツオが海面へ出る。
一羽の鳥が急降下してきた。
速い。
嘴が水面へ突っ込む。
その瞬間。
ホンガツオが尾を差し出した。
鳥が尾びれを掴む。
「掴ませるの!?」
ホンガツオの体が水面から持ち上がった。
「委員長!!」
そのまま空へ――
行かない。
ホンガツオが体をひねった。
ぐるん。
鳥の嘴から尾びれが外れる。
バシャーン!
海へ戻ってきた。
そしてすかさずまた鳥に尾を掴ませる。
そして今度こそ空へ
「委員長!!!」
空に攫われた委員長が空中で体を捻り帰ってくる。
ドボーン!!
「バンジーだ」
「バンジーじゃねえよ!!!」
「次!委員会所属はやってみろ!」
ソウダガツオが海面へ出る。
鳥が来る。
尾を掴ませる。
持ち上がる。
体をひねる。
バシャーン!
「次!」
サバ。
掴ませる。
ひねる。
バシャーン!
「…………」
風紀委員たちは、なんなくこなしていた。
「何の訓練してんだよ……」
鳥が増えてきた。
一羽。
三羽。
五羽。
十羽。
海面を魚が騒ぎ、その上を鳥が旋回する。
本物の鳥山にしか見えない。
「すごいっす!!」
イトヨリが上を見た。
その時。
「あっ」
一匹のイワシが海面へ出た。
鳥が急降下した。
ぱくっ。
そのまま上へ。
「イワシが持ってかれました!!」
「…………」
「…………」
「…………」
ホンガツオが空を見上げた。
小さくなっていくイワシ。
「…………退学か」
「いや違うよね!!!」
生徒じゃない。
食われたんだ。
「あっ!!」
イトヨリが海面へ駆け上がった。
「教祖が動き出したっす!!」
「え!?」
見る。
海上レクサスが、今度は竿を出さずにこちらへ向かってくる。
ナブラ。
その上にできた鳥山。
さすがに無視できなかったらしい。
「よし!!」
ホンガツオが即座に号令を出した。
「全体、南へ!」
「はい!!」
鳥を連れたまま、ナブラが動き始める。
海上レクサスも追ってくる。
「今度こそ釣れたっす!!」
「ああ!」
俺たちは、鳥山ごと城ヶ崎へ向かった。
第107話 終
【教祖と海の経典】
■ 鳥山
ブリやサワラなどの大型魚に追われ、水面近くへ逃げてきた小魚を狙って、海鳥が上空に群がっている状態ですな。
海の下から大型魚、空から海鳥。小魚に逃げ場はありませんぞ。
釣り人にとっては、大型魚がいる場所を教えてくれるありがたい目印ですな。
■ ナブラ
大型の肉食魚に追われた小魚の群れが海面へ追い詰められ、逃げ惑っている状態のことですな。
もともとは漁師が魚の群れを「魚群」と呼んでいたことが語源とされておりますぞ。




