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【城ヶ崎遠征編】第106話 楽しいナブラの作り方

挿絵(By みてみん)


教祖を釣る。



方法は決まった。



ナブラを作って、川奈から城ヶ崎まで少しずつ移動する。


教祖がそれを追ってくればいい。



俺たちは、とりあえず近くにいた魚たちを集めた。



イワシ。


キタマクラ。


ネンブツダイ。


その他、暇そうにしていた魚たち。



「いいか! 海面で魚がたくさんいるように見せるんだ!」


「どうやって?」


「とりあえずバシャバシャしてみよう!」


「わかった!」



全員で海面へ向かった。



バシャ。



バシャバシャ。



バシャバシャバシャバシャ!



「もっと激しく!」


「こうっすか!?」



バシャーン!



「おお!」


「楽しいっす!!」


「楽しいね!」


「もう一回やろう!」



バシャバシャバシャバシャ!



「…………」



楽しい。



普通に楽しい。



魚になってから、海面でこんなに遊んだことはなかった。



「チカメさん!」


「なんだ!」


「こっちっす!!」



バシャーン!



「おおお!!」



俺も負けじと海面を叩く。



バシャーン!



イワシも跳ねる。


ネンブツダイも跳ねる。


キタマクラまで楽しそうにぐるぐる回っている。



しばらく、みんなで遊んだ。



「…………」



誰も来ない。



「教祖来ないっすね」


「そりゃそうだろ!!!」



ナブラを作っていたはずなのに、いつの間にか目的が変わっていた。



「もっとナブラっぽくしないとダメだな」


「ナブラっぽくって、どうするの?」


「追われてる感じとか」


「誰に?」


「…………」



そこまでは考えていなかった。



その時だった。



「さっきから何を騒いでおるのじゃ!!」



下から声がした。



見下ろす。



派手なヒレを広げながら、ミノカサゴが上がってくる。



その隣には。



「まったくですわ! 海底まで聞こえておりますわよ!」



ホウボウ。



「…………」



俺は二匹を見た。



「お前ら仲良くなったのか」


「何じゃ」


「何ですの」


「最悪の組み合わせだな……」



「どういう意味じゃ!!」


「失礼ですわ!!」



同時に怒った。



やっぱり最悪だった。



「それで、何をしておる?」


「ナブラを作ってる」


「これが?」


「言うな」



ホウボウが海面を見た。



イワシやキタマクラ、ネンブツダイも、みんな楽しそうに遊んでいる。



「ただ遊んでいるようにしか見えませんわ」


「俺たちも途中で気づいたよ!!」



ミノカサゴが大きなヒレをゆらゆらと広げた。



「つまり、ナブラを作りたいのじゃな?」


「そう」


「なんじゃ。簡単ではないか」


「できるの?」


「風紀を乱せばよいのじゃ」


「なんでだよ」


「風紀を乱せば風紀委員が来るのは当然じゃろ」


「風紀委員じゃなくて人間を呼びたいんだけど!?」



ミノカサゴが海面近くまで上がった。



そして。



大きくヒレを広げた。



「うっふーん」



「…………」



ホウボウの目が見開いた。



「はっ、はしたないですわ!!」



そう言いながら、ホウボウも負けじと胸びれをいっぱいに広げる。



「おーっほほほほ!」



くるり。



「あっはーんですわ!」



「お前もやるのかよ!!!」



「うっふーん」


「おーっほほほ! あっはーんですわ!」


「うっふーん」


「あっはーんですわ!」



海面近くで、派手な二匹がくねくねしている。



人間が見たところで、たぶん何をしているのか分からない。



だが。



効果はあった。



しばらくすると、沖から一匹の魚がものすごい速度でこちらへ向かってきた。



速い。



一直線に俺たちのところまで来ると、ぴたりと止まった。



カツオだった。



いつもいるソウダガツオでもない。



ホンガツオだ。



「ここか」



凛とした声だった。



俺たちを一匹ずつ確認する。



最後に、ミノカサゴとホウボウを見た。



「底物が表層でもがいているという報告があった。溺れているのか?」



「…………」



「…………」



二匹の動きが止まった。



「もがいてるですってー!!!」



ホウボウが叫んだ。



「誰がもがいておるのじゃ!!!」



ミノカサゴもキレた。



「これは誘惑ですわ!!」


「色香じゃ!!」



「…………」



ホンガツオは二匹を見た。



「そうだったのか」



「そうですわ!!」


「そうじゃ!!」



「それは失礼した」



素直だった。



「分かればよいのじゃ」


「まったくですわ」



ホンガツオは頷いた。



「だが、表層の風紀を乱していることに変わりはない」



「そこはダメなんだ!!」



ホンガツオが俺を見た。



「私はホンガツオ。表層の風紀を預かっている」


「風紀委員?」


「委員長だ」


「委員長までいるの!?」



ホンガツオは海面を見回した。



「それで、何をしていた?」


「ナブラを作ろうとしてた」


「何のために?」


「人間を城ヶ崎まで釣れていくため」


「…………人間を?」



俺は事情を話した。



城ヶ崎のクエ。


川奈で起きたイシダイの問題。


その責任を俺が取らされることになったこと。


一週間以内に、ステラを持った人間を城ヶ崎まで連れてこいと言われたこと。



ホンガツオは黙って聞いていた。



「それで、ナブラを使って人間を誘導するつもりか」


「そう」


「ふむ」



少し考える。



「一理あるな」



「あるんだ」



「分かった。協力しよう」


「話早っ!」



ホンガツオは城ヶ崎の方角を見た。



「私も、あそこのクエには手を焼いているのだ」


「知ってるの?」


「当然だ。城ヶ崎周辺を通る回遊魚から何度も話は聞いている」



「だったらお前が何とかしてくれよ!」



「私が行けば食われる」



「…………」



あまりにも普通に言った。



「迂闊に手を出せなかった」


「風紀委員長でも食物連鎖には勝てないの!?」



「風紀と食物連鎖は別だ」



正論だった。



ホンガツオは沖へ向き直った。



「ナブラを作るなら、この数では足りない」


「やっぱり?」


「ああ」



ホンガツオが大きく尾びれを振った。



「ソウダガツオ!」


「はい!!」



「うわっ!!」



どこから出てきた。



「サバ!」


「はい!!」



「お前もいたの!?」



いつの間にか二匹が後ろに控えていた。



ホンガツオが命じる。



「周辺の回遊魚に招集をかけろ」


「了解!」


「了解!」



二匹が別々の方向へ飛び出した。



速い。



あっという間に見えなくなる。



「…………」



俺はホンガツオを見た。



「風紀委員って、そんなこともできるの?」


「表層の秩序を守るためだ」


「今回、乱す側だけど」


「…………」



ホンガツオが少し考えた。



「必要な乱れだ」



「風紀委員が風紀を乱すの!?」



しばらくして。



沖から魚影が見え始めた。



一匹。



二匹。



十匹。



さらにその後ろからも来る。



サバ。


ソウダガツオ。


小魚の群れ。



回遊魚が次々と川奈へ集まってくる。



「すごいっす……」



イトヨリが呟いた。



さっきまでみんなで遊んでいた海面の下が、魚で埋まっていく。



ホンガツオが群れの前へ出た。



「諸君!」



魚たちが一斉に止まった。



「これより、表層の風紀を乱す!」



「風紀委員長が言っちゃったよ!!!」



第106話 終

【教祖と海の経典】


■ キタマクラ

強い毒を持つ小型の海水魚で、フグ科に分類されますぞ。

なかなか物騒な名前ですが、ちゃんと魚ですな。


■ ネンブツダイ

金魚に似た小型の海水魚ですな。

その見た目から、釣り人には「キンギョ」と呼ばれることもありますぞ。


■ ミノカサゴ

ダイバーにも人気の美しい魚ですな。

ただし背びれなどのトゲには強い毒がありますぞ。美しいものには棘がありますな。


■ ホウボウ

「グーグー」と鳴く魚ですぞ。

胸びれの下にある脚のような部分を使って海底を歩くように移動し、方々(ほうぼう)へ行くことから名付けられたともいわれておりますな。


■ ステラ

シマノが誇る最高峰クラスの高級リールですぞ。

お値段も最高峰ですな。


■ ナブラ

大型の肉食魚に追われた小魚の群れが海面へ追い詰められ、逃げ惑っている状態のことですな。

もともとは漁師が魚の群れを「魚群(なむら)」と呼んでいたことが語源とされておりますぞ。


■ コマセ

魚を自分の釣り場へ集めるため、海へ撒いたり仕掛けのカゴに詰めたりするエサですな。

いわゆる撒き餌・寄せ餌で、オキアミ、アミコマセ、イワシミンチなどがありますぞ。


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