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【城ヶ崎遠征編】第103話 働かない働き方改革



「二福音で買いました」



「…………」



大きな魚は、しばらく俺を見ていた。



「誰からだ」


「知らない魚です」


「そうか」



それ以上は興味がないらしい。


クエは俺たちから目を離した。



「親分、今月分です」



列の次の魚が前へ出た。


福音を置く。



「おう。そこ置いとけ」


「はい」



魚が離れると、すぐ次が来る。



「この前はありがとうございました」


「気にすんな」


「これ、獲れたんで」


「おう」



今度は大きな貝が置かれた。



「…………」



俺たちが立っていても、列は普通に進んでいる。


クエも俺たちと話すのをやめたわけではない。


ただ、魚が来れば受け取る。


それだけだった。



「チカメさん」


「ん?」


「あれ」



イトヨリがクエの後ろを見ていた。



「…………なんだあれ」



大きな岩と岩の間。


その奥に、妙なものが並んでいた。



竿。


リール。


また竿。


またリール。



「…………釣具?」


「いっぱいあるっすね」


「なんで魚がこんなもの持ってるの?」



キントキダイの疑問はもっともだった。



一本や二本じゃない。


折れた竿もあれば、まだ綺麗なものもある。


リールもいくつも転がっている。



「DAIWA……」


「SHIMANOもあるっす」


「Abu Garciaもあるよー」



キンメダイまで覗き込んでいる。



「なんでこんなものがあるんだよ」


「戦利品だ」


「戦利品?」



クエは何でもないことのように言った。



「釣り人から獲った」


「釣られる側だろ!!!」



「掛かったら引くだろ」


「まあ……引くけど」


「竿を離さなければ、人間もろとも海に引き込む」


「…………人間を?」


「ああ」



俺はもう一度、クエの後ろを見た。



竿。


リール。


折れたものもある。


まだ綺麗なものもある。



全部、この魚が人間から奪ったものだった。



その間にも、横から魚がやってくる。



「親分」


「おう」


「今月、ちょっと少なくて……」



魚が小さな貝を置いた。



クエがそれを見る。



「…………そうか」


「…………すみません」



魚は小さくなって去っていった。



「怖えよ!!」



そのときだった。



列とは別の方向から、一匹の魚がやってきた。



「親分。川奈からです」



川奈?



俺は振り返った。



「…………え?」



見覚えのある姿だった。



「軍曹!?」



オニカサゴだった。



「…………チカメか」


「何してんの!?」


「用があって来た」



オニカサゴは俺たちの前を通り、クエのところまで行った。


そして、持ってきた福音を置いた。



「…………何それ」


「詫びだ」


「詫び?」



軍曹が俺を見る。



「こないだ、川奈のイシダイがこっちの縄張りの魚に喧嘩を売った」


「…………あいつらかよ!!!」



ウニを食って働かされているだけでは足りなかったらしい。


城ヶ崎にまで迷惑をかけていた。



クエが置かれた福音を見る。



「これで済ませろと?」


「…………そうだ」


「足りねえな」


「…………」



軍曹が黙った。



クエはしばらく福音を見ていたが、やがて顔を上げた。



その目が、俺のところで止まった。



「そうだ。チカメとか言ったなぁ」


「なんだよ」



嫌な予感がした。



「お前も川奈だろ」


「…………そうだけど」



クエがゆっくり笑った。



「お前が代わりに責任を取れ」



第103話 終

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