【城ヶ崎遠征編】第102話 ぶらり途中魚の旅
城ヶ崎へ行くことになった。
理由は、働いていないハタがいるらしいから。
改めて考えると、何をしに行くのかよく分からない。
俺たちは城ヶ崎へ向かうため、川奈を出た。
しばらく南へ泳いでいると、同じ方向へ向かう回遊魚の群れがいた。
何匹かは、何やら荷物を抱えている。
「どこまで行くんすか?」
イトヨリが声をかけた。
「下田の白浜まで。荷物届けに行くんですよ」
「へー! あーしたちは城ヶ崎まで行くっす!」
「ああ、じゃあ途中ですね」
回遊魚が前を向いた。
「一緒に行きます? 案内しますよ!」
「助かるっす! チカメさん、一緒に行くっすよ!」
「もう決まったの!?」
俺たちは南へ向かう回遊魚の群れに混ざった。
「こういうの旅っぽくていいっすねー!」
イトヨリが楽しそうに泳いでいる。
海は穏やかだった。
天気もいい。
キンメダイもキントキダイも、のんびり群れについてきている。
たまにはこういうのも悪くない。
「あっ、この辺気をつけてくださいね」
先頭を泳いでいた魚が言った。
「ん?」
「たまに――」
ひゅゆゆゆゆゆゆゆゆーーーーー
「…………何の音?」
「来た」
「え?」
「来た来た来た来た!!!」
突然、群れ全体が騒ぎ出した。
「総員退避!!!」
「散開!! 散開!!」
「岩陰へ入れええええ!!!」
「えっ!? なに!? なに!?」
ドッボォォォォン!!!
すぐ横の海面が爆発した。
白い泡と一緒に、巨大な水柱が立ち上がる。
「うわああああああ!!!」
「着弾!!」
「犠牲は!?」
「一名、被弾!!」
「運べ!! 後方へ退避!!」
「衛生魚!! 衛生魚どこだ!!」
「えっ!? 紛争地帯!?」
さっきまで一緒に泳いでいた魚が、一匹ぐったりして運ばれていく。
「大丈夫か!!」
「しっかりしろ!!」
「俺のことはいい……先に行け……」
「喋るな!!」
「白浜に……荷物を……」
「お前も行くんだよ!!!」
「何この状況!?」
「止まらないで!!」
「え?」
「次が来る!!」
ひゅゆゆゆゆゆゆーーーーー
全員の顔色が変わった。
「二射目えええええ!!!」
「右から来るぞ!!」
「いや左だ!!」
「どっち!?」
「上だあああああ!!!」
「全部上だろ!!!!」
ドボォォォン!!!
また水柱が上がった。
「近い近い近い!!」
「キントキダイ!!」
「いるよ!」
「キンメダイ!!」
「いるー!」
「イトヨリ!!」
「いるっす!!」
「よし!!」
「点呼は後にしてください!! 止まると死にます!!」
「そんな危険海域なのここ!?」
そのとき、さっき着弾したあたりから白い何かが沈んできた。
丸い。
白い。
表面に細かい凹みがある。
「…………ボール?」
見覚えがあった。
「川奈ゴルフ場から飛んできたゴルフボールじゃねーか!!!!」
「喋ってないで進んで!!」
「これゴルフだよね!?」
「次来ますよ!!」
「戦争じゃないよね!?」
「ここでは同じです!!」
「同じじゃねえよ!!!」
ひゅゆゆゆゆーーーーー
「来たぞおおおお!!!」
「だから何番ホールだよおおおおお!!!」
俺たちは散り散りになって、岩陰へ逃げ込んだ。
しばらくして、ようやくあの音が聞こえなくなった。
「…………終わった?」
「たぶん」
「全員いる!?」
「いるっす……」
「僕もいる」
「僕もー」
「よし……」
なんとか全員無事だった。
「…………あれ?」
「どうしたの?」
「回遊魚の人たちは?」
「…………」
辺りを見回す。
いない。
さっきまであれだけいたのに、一匹もいない。
「案内役が消えたー!!!」
「たぶん退避したまま沖の潮に乗ったんじゃない?」
「そのまま白浜行ったの!?」
イトヨリが辺りを見回した。
「もう富戸っすね」
「俺たちだけ置いていかれたんだけど!!」
ここから先は磯が続く。
景色も少しずつ変わってきた。
岩。
岩。
また岩。
海底にも大きな岩が増え、岩の隙間を魚たちが行き来している。
「あっ、メジナっす!」
イトヨリが一匹の魚を見つけた。
「はぁ!?」
魚がものすごい勢いで振り返った。
「俺はメジナじゃねえ!!」
「えっ」
「グレだよ!!」
「呼び方が違うだけだろ!!」
「一緒にすんな!! この辺にメジナなんて、小学生のお遊戯会みたいな魚はいねえんだよ!!」
「なんでそんなトーナメントに出てる釣り人みたいな発言なの!?」
「ここは磯だぞ!! 磯の憧れ、グレ様だぞ!!」
「同じ魚だろうが!!!」
イトヨリが首を傾げた。
「でも見た目、メジナっすよね? 呼び方が違うだけっすよね!!」
「グレだっつってんだろ!!!」
「メジナっす」
「グレ!!!」
「メジナ」
「グレ!!!」
「もう呼び方で喧嘩すんなよ!!!」
「ったく……よそ者が」
グレ様はまだブツブツ言っている。
「悪かったよ。俺たち城ヶ崎まで行きたいだけなんだ」
「城ヶ崎?」
急に、グレ様がこっちを見た。
「うん」
「…………何しに?」
「働いてないハタを見に」
「…………」
さっきまであれだけうるさかったグレ様が黙った。
「知ってる?」
「まあな」
「どの辺にいるの?」
「このまま磯沿いに行けば着く」
グレ様は俺たちを一匹ずつ見た。
「まあ……気ぃつけろよ」
「なんで?」
「別に」
それだけ言って、岩の向こうへ泳いでいった。
「…………なんだったんだ、あいつ」
「グレっす」
「そこはもう分かったよ!!」
俺たちは再び磯沿いを進んだ。
城ヶ崎へ近づくにつれて、岩が大きくなっていく。
切り立った岩壁。
その下にいくつもの穴や亀裂がある。
川奈とは少し雰囲気が違う。
「この辺っすかね?」
「情報だと城ヶ崎ってだけだからなぁ」
「探すしかないね」
「働いてないハタを?」
「キントキダイ、それ何回も確認するのやめて」
「だって本当に何しに来たのか分からなくなってきた」
「俺も途中からそう思ってるよ!!」
そのまま岩場を進んでいると、イトヨリが止まった。
「あれ、なんすか?」
「ん?」
魚が並んでいた。
一匹。
二匹。
三匹。
その先にもいる。
「…………何の列?」
「さあ」
しかも、みんな何か持っている。
一匹はサザエ。
一匹はイセエビ。
一匹は福音。
その後ろの魚は、大きな貝を抱えている。
「なんか渡してるっすね」
列の先を見る。
大きな岩と岩の間に、一匹の魚がいた。
「…………でか」
俺たちよりずっと大きい。
太い身体。
大きな口。
並んでいた魚が、その前へ出た。
「今月分です」
ゴトッ。
イセエビが置かれた。
「…………おう」
次の魚が前へ出る。
「この前は、ありがとうございました」
「気にすんな」
サザエを置いていく。
次。
また次。
魚たちは順番に何かを渡している。
「…………」
「…………」
俺はしばらく眺めた。
「これ、何してるんだ?」
「分かんないっす」
「働いてるようにも見えるね」
「でも、何もしてないよ」
「受け取ってるだけだな」
「そういう仕事なんすかね?」
「受け取る仕事って何だよ」
分からない。
ただ、探していたのは働いていないハタだ。
「あのー」
大きな魚が、ゆっくりこっちを見た。
「…………なんだ」
「すみません。ちょっと聞きたいんですけど」
「働いてないハタって、あなたですか?」
「…………」
大きな魚の目が細くなった。
列に並んでいた魚たちは、真っ青な顔でなぜかこっちを見た。
「…………誰から聞いた」
「二福音で買いました」
第102話 終




