第101話 おにいは今日もおにいだった
私はチカメキントキ妹。
あれから数日。
私は今も川奈にいる。
前までは、もっと沖の、水深二百メートルくらいのところで暮らしていた。
おにいを探して、ここまで来た。
だから今は、おにいの近くにいる。
川奈に来て分かったことがある。
おにいの周りには、いろんな魚が集まってくる。
どうしたんだろう。
「妹ちゃん、おはようっす!」
「おはよー」
イトヨリさん。
よく喋る。
いつもおにいの近くにいる。
おにいのことを「チカメさん」と呼んでいる。
……。
「おはよう」
キントキダイさん。
おにいや私と同じキントキダイ科らしい。
あまり喋らないけど、おにいが変なことを言うとすぐ何か言う。
たぶん、よく見てる。
「おはよー」
キンメダイさん。
おにいとは、ずっと一緒にいるらしい。
よく寝ている。
あと、私が来てから、たまに変な顔をする。
みんな、よくおにいのところに来る。
おにいも、みんなとよく話している。
「…………何見てんの?」
「おにい」
「それは分かるよ」
おにいは今日もおにいだった。
しばらくすると、知らない魚がやってきた。
「チカメさんって、どれ?」
「俺だけど」
「働いてないハタを教えたら、福音もらえるって聞いたんだけど」
「なんで懸賞金みたいになってるの!?」
また大きな声を出した。
おにいのリアクションは、いつも大きい。
「違うの?」
「違うだろ!!」
「でも探してるんでしょ?」
「探してたけれども!!」
「福音いくつ?」
「なんで情報提供料が発生するんだよ!!!」
知らない魚は少し考えて、そのまま帰ろうとした。
「ちょ、待て待て!!!」
「なに?」
「…………どこにいるんだよ!」
「…………福音くれないんでしょ?」
「…………」
おにいが止まった。
「何個?」
「三個」
「払うの!?」
キントキダイさんが言った。
「だって気になるだろ!! まけてくれ!」
「いいよ。二個ね」
「すぐ値下げした! 逆に怪しいわ!」
知らない魚は、城ヶ崎にいると言った。
「城ヶ崎かぁ……微妙に遠いなぁ」
おにいが少し考えている。
「行ってみるっすか?」
「うーん」
「せっかく聞いたんだし」
「二福音払うんだもんね」
「そこ強調するなよ!!」
行くみたい。
おにいは好奇心旺盛なようだ。
キントキダイさんも行く。
キンメダイさんも行く。
イトヨリさんは……。
まあ、行くよね。
「お前はどうする?」
おにいが私を見た。
「行かないよー」
「え?」
「いってらー」
「…………」
おにいが止まった。
「なに?」
「いや……別に」
分からないふりをする。
「じゃあ行ってくる」
「うん」
笑顔を崩さず。
「城ヶ崎だから、ちょっと遠いけど」
「うん」
興味のない素振りで。
「帰りも遅くなるかもしれない」
「分かったー」
視線は少し外して。
「…………そうか」
あ。
残念がってる。
残念がってる。
「……ついてくると思ってたんだけどなぁ」
おにいが小さな声で言った。
ふふふ。
「そうか、行かないのかぁ」
「うん」
ふふふ。
残念がってる。
「お前さ」
「なに?」
「俺探して、わざわざ水深二百メートルくらいのところから来たんだよね?」
「そうだよ?」
ふふふふ。
かわいい。
「チカメさん、行くっすよー!」
少し先からイトヨリさんが呼んだ。
…………。
…………。
…………イトヨリさん、ね。
「今行くよ!」
おにいが泳ぎ出す。
少し進んで、止まった。
またこっちを見る。
「…………いってきます」
「いってらっしゃーい」
また少し残念そうな顔をした。
ふふふ。
「おにいー!」
満面の笑顔で呼ぶ。
「なに!?」
「いってらー!」
送り出す。
「分かってるよ!!!」
おにいがみんなと城ヶ崎の方へ泳いでいく。
やっぱり、おにいはかわいい。
第101話 終




