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第100話 振り出しからの贈り物

挿絵(By みてみん)




重い。



なんか、身体が重い。



「…………」



昨日、食いすぎたからな。



福音って一晩でこんなに体重増えるのか……。



「…………ん?」



違う。



なんか。



身体を叩かれてる気がする。



ぺし。



ぺし。



「…………」



ぺしぺし。



「んん……」



「おにぃ〜」



「…………」



なんか聞こえる。



「おにぃ〜」



近い。



「おにぃ〜!」



「…………ん?」



ゆっくり目を開けた。



赤い魚がいた。



ものすごく近くに。



「おにぃ〜!!」



「誰えええええええええええ!?」



俺は飛び起きた。



目がでかい。


身体が赤い。


腹びれが長い。



…………俺?



いや。



俺じゃない。



「誰!?」



「もう! おにい、どこ行ってたの〜!」



「え?」



「だいぶ探したんだからね!!」



「…………」



おにい。



俺を見ている。



同じチカメキントキ。



俺をお兄ちゃんと呼ぶ。



だいぶ探していたらしい。



「…………俺?」



「他に誰がいるの?」



「…………」



「おにい?」



「人違いです」



「え?」



「私、おにいではありません」



「おにいだよ?」



「違います」



「おにい」



「違います」



「おにぃ〜」



「認知しません!!!」



「にんち?」



「その手には乗らんぞ!!!」




          ◇




騒いでいると、キントキダイが起きた。



「…………何?」



「ちょうどいいところに来た!」



「何が?」



「こいつが俺のこと、おにいって呼ぶんだよ!」



キントキダイが俺を見る。



そいつを見る。



もう一度、俺を見る。



「嫁?」



「違う!!」



「似てるね」



「同じチカメキントキだからだよ!!」



「おにいの妹だよ?」



「本人の証言は証拠になりません!!」



「何の事件なの?」



「DNA鑑定は!?」



「でぃーえぬえー?」



「ほら!! DNA鑑定も知らない!!」



「魚だからじゃない?」



「じゃあどうやって証明すんだよ!!」



「おにいがおにいだから」



「また本人の証言!!!」



「…………へっ、へぇ……」



「ん?」



キンメダイが起きていた。



「キンメ、起きたの?」



「…………うん」



「こいつ、俺の妹だって言うんだよ」



「…………へっ、へぇ……。いっ、妹ぉ〜。よかったじゃん、再会できて」



「まだ妹と決まってない!!」



「…………そう」



「なんか挙動不審じゃない?」



「不審じゃないよ! 寝起きなだけ!」



「あぁ、昨日あんだけ食ったもんな」



「…………うん」




          ◇




「先に言っとくからな」



俺は自称妹を見た。



「なに?」



「そんなこと言ったって福音はあげないぞ」



「…………?」



「昨日の残りもないからな」



「おにい?」



「兄を名乗れば福音がもらえると思ったら大間違いだ」



「おにい」



「なんだ」



「お腹すいた」



「やっぱり福音目当てじゃねえか!!!」



「違うよ!」



「じゃあなんで腹減ってんだよ!」



「朝だから!」



「正論やめろ!!!」



そこへイトヨリダイがやってきた。



「チカメさん、おはようございまーす!」



「イトヨリ! 聞いてくれ!」



「なんすか?」



「妹詐欺に遭ってる」



「はい?」



イトヨリダイが俺を見る。



自称妹を見る。



キンメダイを見る。



「…………」



「何?」



「いや、めちゃくちゃ似てるっすね」



「同じ魚だからだよ!!」



「おにいの妹だよ」



「ほら! また言ってる!」



「チカメさん」



「なんだ」



「たぶん妹っすよ」



「お前まで詐欺グループか!!!」




          ◇




その時だった。



♪ 小魚 小魚 小魚 求人!



「ん?」



♪ 底物 回遊 高収入!



アオハタのトラックが横を通っていった。



「…………」



俺は遠ざかっていくトラックを見た。



そして、自称妹を見た。



「…………分かった」



「なに?」



「客をおにいさんって呼ぶ商売だろ!!」



「???」



「危ねえ!! もう少しで騙されるところだった!!」



「おにい、何言ってるの?」



「まだおにいって呼ぶ!!!」



「だっておにいだもん!」



「営業をやめろ!!!」



「えいぎょう?」



イトヨリダイが言った。



「チカメさん」



「なんだ」



「たぶん違うっす」



「お前、なんで分かるんだよ」



「なんであーしに飛び火するんすか!!!」



遠くから、まだ歌が聞こえていた。



♪ 小魚 小魚 小魚 求人!




          ◇




俺は改めて自称妹を見た。



「…………」



似ている。



いや。



同じ魚なんだから当たり前だ。



「そもそもさ」



「なに?」



「魚って卵いっぱい産むよな?」



キントキダイが答えた。



「魚種によるけどね」



「じゃあ……」



俺は自称妹を見た。



「妹って、他にもいるの?」



「知らなーい」



「知らないの!?」



「おにいだって、わたしのこと知らないって言ったじゃん!」



「そうなんだよ!! そこが一番怖いんだよ!!!」



「…………」



俺は今まで一度も考えたことがなかった。



俺はチカメキントキになった。



でも。



この身体だって、どこかで生まれたはずだ。



親がいて。



兄弟がいて。



こいつが本当にそうなら――



「…………」



海を見た。



広い。



ものすごく広い。



「俺、兄弟姉妹何匹いるんだよ……」



「知らないよ」



「全員来たらどうすんだよ!!!」



「何が?」



「福音足りねえだろ!!!」



「そこなんすか!?」




          ◇


夕方


「おにい」



「…………なんだよ」



「お腹すいた」



「またそれかよ」



「夜ごはん食べたい」



「…………」



「おにい」



「…………」



「おにぃ〜」



「分かったよ!!」



俺は泳ぎ出した。



「なんか食えるもの探しに行くぞ」



「いいの!?」



「俺も夜飯まだだから」



「やったー!」



そいつが嬉しそうに俺を追い越していく。



「おにい、早くー!」



「はいはい」



少し先を泳ぐ後ろ姿を見る。



俺と同じ赤い身体。



長い腹びれ。



昨日まで、存在すら知らなかった。



「…………」



「おにいー!」



「今行くよ」



俺に。



妹がいた。



第100話 終

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