第88話 S級への補給、残り六時間
西原鋼業の搬入口へ、六工場からケースが集まっていた。
西原鋼業の刀剣。
大田プレス工業の追加装甲。
別の工場が仕上げた柄、衝撃吸収部材、交換用の刃。
ケースには、製品番号だけでなく、使われた粉末ロット、加工工場、熱処理記録、検査担当者が紐づいている。
急造品という言葉で、責任の所在を曖昧にはしない。
六社は一つの会社ではない。
それでも、同じ製造ロットと検査票を使い、それぞれの得意工程を並行して進めた。
「製造工程の記録、十二人分そろいました」
相馬が確認する。
「ただし、加工直後です。魔力定着の経過観測と、協会の校正設備を使った最終検査が残っています」
「工場で待てば、輸送を含めて間に合わんぞ」
西原が時計を見る。
「輸送中は、非破壊の経過観測を続けます」
相馬は、ケースへ小型センサーを取り付けた。
「温度と反応値が異常帯へ入れば、その時点で隔離する。ただし、走行中の振動ノイズがあるため、車内データだけで最終適合判定は出しません」
「到着後、協会前線施設の校正済み設備で確認する」
「ええ。そこで一本でも外れれば、出撃には渡せません」
間に合わせるために、物流と観測は並行する。
だが、移動中の数字を都合よく「合格」へ読み替えない。
ケースをバンへ積み込み、俺と相馬は第七区画へ向かった。
走行中、相馬はケース内の反応値を監視し続けた。
一つのセンサーに瞬間的な乱れが出る。
「路面の継ぎ目による衝撃です。前後のセンサーにも同時刻の振動が出ています」
「製品異常ではないと断定できますか」
「車内では断定しません。到着後、そのケースを最初に再測定します」
移動中の観測は、異常を早く見つけるためのものだ。
合格を早く出すための抜け道ではない。
*
前線施設の待機室では、特別救助班が最終確認を行っていた。
既存装備で出るべきだという声も、装備が届くまで待つべきだという声もある。
桐生陽菜は、出撃計画書を読みながら静かに待っていた。
「桐生さん」
一人のA級探索者が、焦りを抑えきれずに尋ねた。
「もし検査で落ちたら、本当に出ないつもりですか。下には二十人いる」
「出ません」
陽菜は、迷わず答えた。
「検証されていない装備で突入し、救助班まで孤立すれば、助けられる人も助けられません」
「九条補給店が間に合わせると?」
「間に合わせる努力はするでしょう」
陽菜は、そこで言葉を切った。
「ですが、間に合わない物を合格にする人ではありません。不適合なら、九条さんは私に渡さない。私たちは、その判断を受け入れて次の手段を考えます」
必ず成功するという信仰ではない。
失敗した時にも線を曲げないという、取引相手への信頼だった。
*
前線施設へ到着した時、出撃限界まで二時間を切っていた。
ケースは、そのまま協会の検査室へ運び込まれた。
校正済みの撮影設備。
規定の照明、距離、角度。
非破壊の予備負荷試験と、魔力定着の測定。
協会検査員と相馬が、十二人分を一つずつ確認していく。
外観。
寸法。
魔力反応。
部材の固定。
ロット番号と検査票。
持ち主に合わせた重心調整が、申請された範囲に収まっているか。
確認項目を読み上げるたび、時計の数字が減っていった。
「七番、反応値が上限に近い」
相馬が止めた。
再測定でも、同じ傾向が出る。
「使用者の想定出力に対する余裕が不足しています」
「代替部材は」
「予備の一組があります。組み替えて、再検査します」
残り一時間二十分。
焦って七番を通せば、十二人全員をそろえられる。
だが、外れた一人が深層で脱落すれば、隊全体を危険にする。
組み替えと再検査を終えた時、時計は残り五十分を示していた。
「十二人分、最終適合確認完了」
協会検査員が、各製品とロットの適合証へ署名した。
俺はそこで初めて、ケースの封印を解いた。
陽菜は自分の大剣を受け取り、重心と可動部を確認する。
「ぎりぎりになりました」
「間に合ったから信じるのではありません」
陽菜は、俺の目を見た。
「七番を止めたと聞きました。間に合わせるために基準を曲げなかった。それで十分です」
「赤線が出れば、任務途中でも攻撃を止めてください」
「分かっています。戦闘と報告は、私たちの仕事です」
救助班は、十二人分の装備を身につけた。
出撃前、協会職員が警告表示と交換部材の確認をもう一度読み上げる。
赤線を確認した者は、即時に攻撃を中止する。
予備装備へ交換できない場合は、隊列中央へ下がる。
警告がなくても、異音、曲がり、違和感があれば使用を止める。
装備を過信させない運用まで含めて、供給は完了する。
そして陽菜たちは、第七区画のゲートへ入っていった。
彼らを見送った直後。
芽衣から、正式文書の受信連絡が入った。
『天城マテリアルからです』
文書の表題は、
『分散精錬網への参加および外部監査受入れに関する申請』。
国内最大の精錬事業者が、自社の基準だけで再開するのではなく、俺たちが公開した参加条件の審査を受けると申し出ていた。




