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第87話 三社の精錬所を、一つの工場として動かす

深夜の国道を、密閉コンテナを積んだトラックが走る。


 荷台には、A社で粗砕・粉砕を終えた魔石粉末。


 容器の封印番号、内部の温度と湿度、輸送中の衝撃は、合同精錬の制御室へ送られていた。


「B社へ到着しました」


 芽衣の報告と同時に、荷受け場の映像が開く。


 送り側の担当者、B社の受入責任者、外部検査員。


 三者が封印番号を読み合わせてから、容器を開けた。


「採取位置、上層、中央、底部。三点です」


 相馬が手順を指示する。


 輸送中に粒子が偏っていれば、一か所だけの試料では見逃す。


 採った粉末はその場で測定し、一部を封印して保管する。


「温湿度、許容範囲内。魔力反応スペクトルに軽微な変化があります」


 相馬が、輸送前後の波形を重ねた。


「事前に定めた補正範囲には収まっています。ただし、B社はこの数値を引き継ぎ条件へ反映してください」


『受入、承認します』


 B社の責任者が署名し、そこで初めて分級機が動き始めた。


 同じ会社の内部移動なら、担当者は前工程を信じてそのまま流すこともある。


 今は違う。


 別会社だからこそ、受け取る側が自分の責任で検査し、不明なものを拒否できる。


 分断は弱点であると同時に、相互検証の仕組みにもなっていた。


     *


 B社の分級工程で、一つの容器が止まった。


「粒度分布の上限側が、仮基準を〇・四パーセント超えています」


 現場からの報告に、制御室が静まる。


 期限は迫っている。


 この程度なら混ぜて平均化できる、と言うこともできた。


「その容器は隔離してください」


 相馬が即答した。


「残りの容器だけで必要量は足りますか」


「電力側が指定した最低量には届きます」


「なら、進めます。隔離分は再処理条件を別に検討します」


 全量を間に合わせるために、外れた粉を混ぜない。


 少なくても、確認できたものだけを次へ渡す。


 それが、今回の分散工程を単なる緊急の寄せ集めで終わらせない条件だった。


 分級を終えた粉末は、新しい封印容器へ入れられた。


 送り側と受け側の責任境界が記録され、C社へ向けて出発する。


 ところが、予定経路で交通事故による通行止めが発生した。


「迂回すると、到着が四十分遅れます」


 芽衣が地図を開く。


「近道はあります。でも路面が荒れていて、衝撃条件を超える可能性が高い」


「指定経路を迂回してください」


 俺は答えた。


 四十分を惜しみ、粉末の状態を変えれば、C社で全量を失う。


 事務局は到着予定を更新し、電力会社へも遅延幅を共有した。


 危機だからこそ、都合の悪い時間を隠さない。


     *


 C社の小型安定化炉には、真壁が直接入っていた。


『第一プラントと同じ温度を入れればええ、っちゅう話じゃないぞ』


 旧式の炉を前に、真壁が現場へ怒鳴る。


『炉の大きさも、壁の厚みも、熱の残り方も違う。相馬の数字を見ながら、この炉の癖に合わせる』


 相馬が、A社からの輸送とB社の分級で生じた変化を織り込んだ加熱条件を送る。


 C社の担当者は、投入量、温度、圧力、薬液の時刻を一つずつ復唱した。


 炉が動き始める。


 波形は、第一プラントと同じ形にはならなかった。


 温度の立ち上がりは遅く、圧力のピークは早い。


「第一補正、許容内」


 相馬が告げる。


『攪拌を三秒延ばす。薬液はまだ入れるな』


 真壁が、現物の色と音を見て指示する。


 数値と経験が、別々の角度から同じ炉を見ていた。


「警告帯へ近づいています」


『今じゃ。投入、冷却開始!』


 反応値が跳ねた後、ゆっくりと許容帯へ収束した。


 誰もすぐには喜ばない。


 炉から出た粉末は、まだ緊急試験ロットにすぎない。


 C社の出荷前検査、外部検査機関の迅速分析、保管試料との照合。


 三つの確認が終わるまで、適合とは呼べない。


 数時間後。


「純度、粒度、魔力反応スペクトル、ロット内ばらつき。すべて、今回設定した許容範囲内です」


 外部検査員が電子署名を入れた。


「緊急試験ロット、電力設備用原料としての出荷条件を満たしました」


 歓声が上がった。


 それでも、供給できるのは、最も切迫した重要施設をつなぐ最低量だけだ。


 国内全体の不足を解消したわけではない。


 電力会社側でも、粉末を受け取った後にコア部材としての受入検査がある。


 合同精錬の検査合格は、相手の完成設備まで無条件に保証するものではない。


 俺たちが渡せるのは、確認した範囲と追跡可能な記録だけだ。


「電力会社へ、数量と検査記録を通知してください」


 俺は芽衣へ頼んだ。


「次のロットも同じ結果になるとは限りません。工程ごとの受入検査は続けます」


 三社は、一つの会社になったわけではない。


 それぞれが独立したまま、前の会社から受け取った物を検査し、次の会社へ責任を渡した。


 離れた設備を一つの流れにしたのは、所有権ではなく、共通の物差しだった。


 A社も、B社も、C社も、合同精錬の子会社にはなっていない。


 今回は緊急の受託先として、契約した工程だけを担った。


 今後も参加を続けるかは、各社の判断と、正式な監査結果に委ねられる。


 その時、西原鋼業から連絡が入る。


『十二人分、加工まで終わったぞ』


 画面に、救助班用の刀剣、追加装甲、衝撃吸収部材が映った。


『これから魔力定着と最終検査じゃ。一本でも外れたら、その分は出せん』


 救助班の出撃限界まで、残り六時間。


 電力への細い流れはつながった。


 次は、地下深くへ向かう十二人へ、装備を間に合わせる番だった。

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