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第64話 【公開試験】混ぜた粉だけ、失格

ダンジョン協会本部、地下試験場。


 かつてKUJO-Gの公認審査が行われた場所に、再び多数のカメラが並んでいた。


 ただし今回は、九条補給店と天城マテリアルの宣伝勝負ではない。


 協会が試料を管理し、製造順を無作為化した、原石由来と警告機能の再検証だ。


「本試験で確認できるのは、提出された試料と、定めた条件下での再現結果に限ります」


 主任試験官が最初に釘を刺した。


「すべての単一産地粉末が安全、あるいは、すべての混合粉末が危険であると一般化するものではありません」


 俺たちも、天城側も、その条件へ署名している。


 試験に使う刀剣型試験体は、すべて西原鋼業が同じ図面と工程で製造した。


 西原たちには粉末の正体を知らせず、協会の記号だけを渡している。


 工程記録、熱処理、非破壊検査は、協会技術者が立ち会って確認した。


 製造図面と負荷条件は共通。


 由来を分けて反応ごとに処理した粉末と、複数由来を混ぜたまま処理した粉末。その原料管理と精錬方法の違いを比較する。


 第一群は、採取元A、B、Cを別々に精錬し、それぞれの反応に合わせて安定化した九本。


 第二群は、A、B、Cを原石段階で定量混合し、同じ設備で精錬した六本。


 第三群は、天城が過去の評価に用いた保存粉末から作った十三本。


 純度と粒度は、全試験体が同じ要求範囲にある。


「第一群、試験を開始します」


 一本目が、警告判定帯へ入る。


 鈍色の刀身に、赤い線が現れた。


 負荷の上昇を一度止め、色差と発生値を記録する。


 再開後、試験体は破片を飛散させず、大きく曲がって限界を迎えた。


 二本目。


 三本目。


 採取元が変われば、安定化処理の条件も、反応波形の位置も違う。


 それでも、事前に各群の差を測って別々に処理した九本は、すべて規定範囲で警告を出した。


「第一群九本、全数適合」


 会場から拍手ではなく、低いどよめきが起きた。


「続いて、第二群」


 混合粉末から作った六本。


 一本目は、規定範囲で赤線を出した。


 二本目も通る。


「ほら、混ぜても問題ないじゃないか」


 観覧席の誰かが呟いた。


 だが、三本目。


 警告判定帯を越えても、刀身は鈍色のままだった。


「警告なし。限界域へ入ります」


 重大変形が始まる直前、かすれた赤色が一瞬だけ浮かぶ。


 すぐに刀身が大きく曲がった。


「警告発生値、規定上限外。猶予不足。不適合です」


 五本目も、同じように警告が遅れた。


 六本のうち四本は通り、二本は落ちた。


 全部が壊れるわけではない。


 だからこそ、平均値だけでは危険な二本が隠れる。


「第二群、ロットとして不適合」


 主任試験官が告げた。


 堂島が席を立つ。


「それは小型設備の限界です。天城の保存粉末は、当社の均一化処理を通している。次を見れば違いが分かる」


 久我は何も言わず、試験機を見ていた。


「第三群を開始します」


 天城の保存粉末から作られた十三本。


 一から三本目は適合。


 四本目も通った。


 五本目、六本目と、綺麗な赤線が続く。


 十本目まで、すべて規定範囲だった。


 観覧席の空気が揺れる。


 天城の公表どおり、十本は合格した。


 だが、試験はそこで終わらない。


 協会が保存試料から無作為に作らせた試験体は、十三本ある。


 十一本目。


 警告が、規定上限を越えた。


 十二本目は、まだらな赤色が限界直前に現れた。


 十三本目は、重大変形まで判定基準を満たす赤線を出さなかった。


 会場から音が消えた。


「第三群。十三本中三本が警告条件不適合。製造ロットとして不適合と判定します」


 十本の合格。


 三本の不合格。


 天城の公表資料から消えていた数と、同じだった。


「偶然です!」


 堂島が立ち上がった。


「保存中の偏りか、試験体製造時の誤差だ。天城の元試験で除外した三本とは関係ない!」


「その可能性も含めて、確認します」


 主任試験官は感情を動かさなかった。


「本日の試験だけで、過去の除外判断が不正だったとは認定しません。一方、混合粉末の同一ロット内に、従来の純度・粒度検査では識別できない警告遅延が再現したことは記録します」


 そして、協会は暫定措置を告げた。


「KUJO-G向け精錬粉末の適合確認へ、原石由来記録、魔力反応分布、除外試料を含む全試験結果の保存を追加する方向で審査します」


 絶対安全が証明されたわけではない。


 由来を分ければ、将来のすべての製品が合格すると決まったわけでもない。


 だが、混ぜた原石の平均純度だけでは足りない。


 その事実は、二十八本の現物によって誰の目にも見える形になった。


 久我は堂島へ顔を向けた。


「元試験の十三本。生ログは、すべて残っているな」


「……はい。規程どおり、保存されているはずです」


「なら、監査で確認できる」


 久我の声には怒鳴り声より重いものがあった。


 試験終了直後。


 天城の内部監査室から、久我の端末へ最初の報告が届いた。


 欠番だったT-04、T-07、T-11。


 三本とも、測定器の故障ではなく、警告発生が遅れた試験結果だった。



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