第63話 同じ純度なのに、赤線が違う
真壁精錬所の試験は、三日間続いた。
採取元A、B、C。
それぞれの原石を、洗浄を挟みながら別々に処理する。
同じ温度設定へ無理に揃えたわけではない。
相馬が測る魔力反応の分布を見ながら、真壁が安定化処理の時間と刺激を各群で調整した。
「AとCでは、反応が落ち着く温度が違う」
真壁が記録を指す。
「一つの万能な条件で全部を押さえ込むより、最初から分けた方が調整しやすい」
「重要なのは、処理後の平均値だけではありません」
相馬が答える。
「同じ容器の中で、反応がどれだけ散らばるかです」
完成した四群の粉末は、純度、粒度、含水率のすべてが同じ要求範囲に収まった。
だが、魔力刺激を与えた結果は違った。
A、B、Cは、それぞれ波形の位置こそ異なるものの、同じ群の中では狭い範囲へ揃っている。
三種を原石段階で混ぜて同時処理した群だけが、採取位置によって反応を大きく変えた。
「混ぜれば、必ず失敗するという意味ではありません」
相馬が警告する。
「平均に近い部分を取れば、警告が正常に出る試験体も作れる可能性がある。問題は、同じロットの中に遅れる個体が混ざっても、従来検査では見分けられないことです」
公開試験へ進む前に、薄い刀剣型の評価片を複数作った。
西原は粉末の区分を知らされず、協会が付けた記号だけを見て同じ工程で加工する。
小型治具へ固定し、警告判定帯まで負荷を上げた。
由来別に処理した三群の評価片は、すべて事前に定めた範囲で赤線を出した。
混合群では、規定範囲に入るものと、限界近くまで出ないものに分かれた。
同じ混合容器から採った評価片でも、結果が割れた。
一枚が合格したから、同じ容器の残りも安全とは言えない。
逆に、一枚の不合格だけで、由来の異なる原石を混ぜた全製品が必ず壊れるとも言えない。
確認できたのは、従来の受入検査ではロット内のばらつきを判別できないことだ。
「同じ純度なのに……」
芽衣が、並べられた評価片を見た。
「こっちは撤退する時間がある。こっちは、見えてからじゃ遅い」
「その差が、平均値の裏へ隠れます」
相馬が結果を固定する。
仮説は強くなった。
だが、これは俺たちが用意した試料による内部試験にすぎない。
公開の場で、天城の保存試料も含め、同じ条件で再現できなければ決着にはならない。
「内部試験の合格品を、そのまま販売へ回すこともしません」
俺は評価片と残粉末の封印を指示した。
「これは試験方法を決めるためのデータです。製品ロットの適合確認とは分けます」
新粉末の完成品試験で失敗した直後だからこそ、目的の違う試験を成功実績へ数えない。
*
芽衣は、試験体の説明画面を作るため、天城が公開した資料を一枚ずつ整理していた。
「九条さん」
深夜、彼女が俺を呼んだ。
「天城のグラフ、十本分だよね」
「堂島部長はそう説明しました」
「でも、試験体番号はT-01からT-13まで振られてる」
画面には、十本の曲線と凡例がある。
T-01、T-02、T-03。
次はT-05。
T-04がない。
同じように、T-07とT-11も欠けている。
「三本分、番号が飛んでる」
資料の平均値は十本から計算されている。
だが、少なくとも十三本の試験体が用意された形跡がある。
「測定前に破損した可能性もあります」
相馬が慎重に言った。
「番号を付けた後、正式試験へ入れなかったのかもしれない。欠番だけでは不正の証拠になりません」
「でも、説明が要る欠落です」
芽衣は引かなかった。
「『十本すべてが合格』って発表してるのに、作った十三本のうち三本を数えてないなら、その理由を利用者へ見せるべきじゃないの?」
「そのとおりです」
俺は、欠けた番号を記録した。
天城へ直接問い詰める前に、協会へ資料保全の申し入れを出す。
元の試験台帳。
測定器の校正記録。
除外判断の根拠。
生ログ。
協会から照会を受けた久我は、社内監査室へ資料保全を命じた。
一方、堂島からの回答は短かった。
『三本は測定上の異常があり、評価対象から除外した。工業試験として適切な統計処理である』
「何が異常だったのか、書かれていません」
相馬が回答書を置く。
「再測定したかどうかも、対照試料が正常だったかもない」
消えた三本が、単なる測定ミスだったのか。
それとも、混合粉末の危険なばらつきだったのか。
公開試験と内部監査が、同時に動き始めた。
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