第62話 原石を、採れた階層まで分けろ
ダンジョン協会へ提出したのは、特別な販売許可の申請ではない。
KUJO-G公認条件を見直すための、原因究明試験計画だ。
必要な原石の量。
採取場所と階層の記録方法。
採掘事業者への追加作業費。
封印、輸送、保管。
第三者の立ち会い範囲。
試験後の残材料の扱いまで、項目を分けた。
「問屋を排除する新規商流の承認ではありません」
協会の安全管理担当者が念を押した。
「今回認めるのは、公認規格の不適合原因を確認するための少量サンプリングです。採掘権者と買取事業者の同意を個別に得てください」
「承知しています。試験結果を根拠に恒常運用へ進む場合は、改めて契約を組みます」
「また、九条補給店が都合のよい原石だけを選んだと疑われないよう、採取地点は協会側で候補を出します」
「その条件でお願いします」
自分たちで選んだ石だけを試せば、結果が出ても宣伝にしかならない。
必要なのは、反論できない手続きだった。
協会が選定したのは、環境と階層の異なる三か所。
試験上は、採取元A、B、Cと匿名化する。
現場へ同行するのは、協会監査員、採掘事業者の責任者、九条補給店の記録担当。
芽衣が作った画面で、専用容器の番号を読み取り、採取場所、時刻、重量を登録する。
「難しい報告書は要りません」
芽衣が採掘担当者へ説明した。
「この番号を読み取って、協会の階層記録と結びつけるだけです。容器を閉めた後は、開封した人と時刻が残ります」
「これなら普段の換金記録と大きく変わらないな」
担当者が端末を操作する。
追加の分別、容器、輸送にかかる費用は、見積もりに基づいて支払った。
安全規格のためだからと、採掘者へ無償作業を押しつけることはしない。
三つの容器が、順番に封印された。
封印が一度でも切れれば、その容器は比較試験から外す。
Aは一つのダンジョンの浅層。
Bは別のダンジョンの中層。
Cはさらに別のダンジョンの深層。
原石の純度や大きさを、都合よく選別してはいない。
採掘された範囲から、協会監査員が無作為に採取した。
「採取現場から封印まで、他の原石の混入はありません」
監査員が記録へ署名する。
搬出前の照合で、Bの容器番号が画面上だけ一桁違っていることが分かった。
「入力ミスです。現物の封印は合っています」
採掘担当者が修正しようとしたが、芽衣が止めた。
「上書きせず、誤入力と訂正者を残してください。後から番号だけ直すと、誰がいつ確認したか分からなくなります」
誤りが起きない制度ではなく、誤りが起きた時に痕跡を消さない制度にする。
修正履歴と監査員の再確認が記録されてから、三つの容器を搬出した。
そのケースを封印したまま真壁精錬所へ運ぶ。
*
「三種類を、最初から最後まで別の設備として扱う」
真壁が試験工程を確認した。
「同じ機械を使う場合は、その都度洗浄し、残留試料を検査する。容器も工具も色で分けるぞ」
「各原石の反応を見ながら、安定化条件は個別に記録してください」
相馬が答える。
「同じ設定を無理に当てるのではなく、それぞれの粉末内で反応の幅を狭める条件を探します」
「最後に、A、B、Cを定量で混ぜた比較群も作る」
俺は付け加えた。
由来別の三群。
割合を記録した混合群。
純度と粒度は、完成時に同じ範囲へ揃える。
違うのは、原石の由来を分けたまま処理したか、混ぜた状態で処理したかだけだ。
さらに協会は、天城マテリアルへも公開試験への参加条件を送った。
自社が公表した混合原石試験の根拠となる保存粉末。
試験体台帳。
除外を含む試験手順。
協会の管理下で再確認できる量を提出すること。
久我からの回答は早かった。
『当社技術の正当性を第三者の下で確認することに異論はありません』
天城の保存粉末も、未開封のまま協会へ預けられた。
堂島が公開したのは、十本分の綺麗なグラフ。
その根拠を、今度は要約資料ではなく現物で確かめる。
三つの産地別原石。
一つの管理された混合原石。
そして、天城が均一化したと主張する保存粉末。
公開試験に必要な材料が、第三者の封印下で揃った。
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