第55話 【掲示板】唯一の公認規格、出荷停止
九条補給店の公式サイトへ、赤字の緊急告知を掲載した。
『試験精錬粉末MKB-T01、および同粉末を使用した製造ロットを全数隔離しました』
『当該ロットは一振りも出荷していません。原因確認が終わるまで、同粉末を用いた新規製造・供給を停止します』
『既存の適合確認済みロットについては、各製品の点検期限と使用中止条件に変更はありません』
すべてのKUJO-Gが危険になったわけではない。
だが、公認後に作った新しい粉末が完成品試験で不合格になり、対象ロットを俺たち自身が止めた。
その事実を薄めるつもりもなかった。
【探索者互助板】九条補給店とKUJO-G規格を語るスレ Part52
勢い:48,210 / レス数:912 / 最終更新:20XX/08/04 19:15
0855:名無しの中層探索者
おい、九条補給店の告知見たか!?
公認取ったばかりなのに、もう出荷停止ってどういうことだよ!
0861:名無しの検査屋
正確には新しい粉末を使った未出荷ロットだけ。
既存適合品まで回収とは書いてない。
でも量産の入口で躓いたのは事実だな。
0867:名無しの前衛職
町工場が精錬まで手を出した結果じゃないのか?
公認規格を名乗るなら、最初から安定した材料を使えよ。
0874:名無しの後衛職
出荷前の随伴試験で見つけて、自分から止めたんだろ。
隠して売るよりはマシというか、それが公認条件なんじゃないの?
0883:名無しの救難誘導班
「止めたから偉い」で済ませるな。
こっちは今週受け取る予定だった装備が来ないと、任務を組み直すしかないんだぞ。
0891:名無しの検査屋
だから規格の信用と、供給能力は別問題なんだよ。
止められる仕組みは働いた。でも作り直せなきゃ安全装備は増えない。
0901:名無しの中層探索者
速報。
第七区画で大規模崩落。
中堅パーティー六人が孤立、通信も不安定らしい。
《Cross》トレンド
20XX/08/04 19:30 現在
1. #九条出荷停止
2. #第七区画崩落
3. #白銀の陽炎
4. #KUJO_G不適合
5. #六人孤立
白銀推し @silver_watch · 5分
第七区画の救助要請、陽炎に出たって本当?
でも新しい専用剣は九条補給店が止めたばかりだよね。
地方支部職員 @local_branch · 4分
頼むから未検証品を現場へ出すな。
ただ、確認済みの予備がないなら救助計画そのものが変わる。
中層の盾役 @shield_mid · 2分
六人が待ってるんだぞ。
規格を守るために救助を遅らせるのか?
事実確認マン @fact_check · 1分
未検証品を渡して救助側まで遭難したら七人になる。
問題は、検証済み在庫が残っているかどうかだ。
批判と擁護が、秒単位で流れていく。
「九条さん、第七区画の救助要請、本当みたい」
芽衣が画面から顔を上げた。
「陽菜さんへ、協会から正式な出動打診が入っています」
同じ情報は、九条補給店の緊急連絡窓口にも届いていた。
俺はネットの画面を閉じ、隔離台帳を開く。
「まず、対象を混ぜないでください」
西原鋼業の事務所に、西原、相馬、芽衣が集まっている。
「MKB-T01の残粉末、工程途中の保存試料、破壊試験体、納品候補品は、すべて封印したまま保管します。廃棄はしません」
「原因を追うためですね」
相馬が確認する。
「ええ。既存の適合ロットまで、不具合品と決めつけることもしません。止めるのは、記録上同じ原因を共有する可能性がある範囲だけです」
対象を広げすぎれば、使える装備まで市場から消える。
狭めすぎれば、不明な危険を残す。
感情ではなく、ロット記録で境界を引くしかない。
「じゃが、陽菜ちゃんへ渡す新しい二本は止めた」
西原が保管庫を見た。
「今から救助へ行くなら、何を持たせるんじゃ」
「一本だけあります」
俺は別の保管庫を解錠した。
中にあるのは、今回の新粉末とは関係のない、検証済み旧ロットの専用仕様。
前回の製造時に随伴試験を通過し、非破壊検査と保管期限の条件も満たしている。陽菜との契約に基づき、協会から正式な救助要請が出た場合だけ使う緊急枠として残していた最後の一本だ。
「これを出せば、陽菜さん専用仕様の確認済み在庫はゼロになります」
相馬が低い声で言った。
「分かっています」
だから通常探索には回さなかった。
そして今、契約で定めた救助任務の条件が成立した。
俺は協会の装備担当者へ連絡し、製品番号、適合記録、保管状態を読み上げた。輸送は協会の緊急便を使い、受け渡し時に封印と外観を再確認する。
ほどなく、陽菜本人からも連絡が入った。
『新粉末の装備は、持ち込みませんね』
「持ち込みません。不適合ロットは一振りも渡さない」
『最後の予備は、現在も適合条件を満たしていますか』
「記録上も現物検査上も、満たしています。ただし、この一本を使えば次はありません」
『分かりました。救助任務に使用します。赤線が出た場合は、規定どおり即時使用を中止します』
「お願いします」
彼女は俺へ判断を預けきったわけではない。
供給側の検査結果を確認し、自分が守る運用条件を口にした。
対等な契約当事者として、最後の一本を受け取った。
金属ケースが協会職員へ引き渡される。
空になった保管庫を見て、西原が息を吐いた。
「これで、本当に後がないぞ」
「ええ」
俺は、旧粉末と新粉末の工程表を並べた。
純度、粒度、含水率、熱処理。
現在記録している数字は、どれも基準内だ。
それでも、現物だけが違う結果を出した。
その時、壁に設置されたテレビが速報へ切り替わった。
『白銀の陽炎を含む救助班が、第七区画へ進入しました』
最後の確認済み在庫が、六人の待つ崩落現場へ運ばれていく。
俺たちにできるのは、無事を祈ることだけではない。
次の一本を作れない理由を、現物と記録から探し出すことだった。
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