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第48話 金を積んでも、精錬枠は買えない

三日間で、二十二社へ照会した。


 回答は、すべて不可だった。


 ある会社は、試験前後の設備洗浄だけで二日かかると断った。


 別の会社は、原石の性質が不明な以上、既存顧客のラインと同じ建屋へ入れられないと答えた。


 小規模事業者からは、試験担当者を量産側へ回しており、立ち会える技術者がいないと言われた。


 断り方は違っても、原因は一つだった。


 設備だけでなく、設備を安全に切り替えられる人間の時間まで埋まっている。


「大手は長期契約で埋まっています。中小も、電力、輸送、一般魔導具向けの注文を抱えている」


 俺は結果を共有した。


「条件を変える試験のために洗浄し、炉を止め、再調整する時間がないそうです」


「高い金を払っても?」


 芽衣が尋ねる。


「既存の量産を止める損失に見合いません」


 仮に、さらに高い金額を提示して割り込めたとしても、その時間に処理されるはずだった別用途の粉末が減る。


 電力設備や輸送用魔導具の供給を押しのけて、自分たちだけを優先させることになる。


 星野から指摘された公共性は、ここにもつながっていた。


 安全装備を作るという名目があっても、別の生命インフラを止めてよい理由にはならない。


 海外の精錬事業者も候補には入れた。


 だが、少量の未処理魔石を国境を越えて運び、試験後の粉末を戻せば、輸送と通関だけで時間が消える。


 工程途中の試料を追跡し、異常時に現場へ立ち入ることも難しい。


 今必要なのは、安い委託先ではない。


 俺たちが現物を見ながら条件を変え、その記録を次の試験へ戻せる距離にある設備だった。


「それは選びません」


 俺は言った。


「俺たちが作るべきなのは、新しい処理能力です。既存の椅子を高値で奪うことじゃない」


「じゃが、新しく建てる金はない」


 西原が唸った。


「動いとる炉には入れん。止まっとる炉はないんか」


 その言葉で、俺は検索条件を変えた。


 稼働中の企業だけを見ていた。


 休眠設備、事業縮小、後継者不在、廃業予定。


 業界団体の公開名簿、設備処分の公告、中古機械の売却情報を突き合わせる。


 七社が残った。


 その七社も、設備が残っているというだけだ。


 廃業理由が安全事故なら使えない。


 許認可が失効していれば、一から建てるのと変わらない。


 運転責任者がいなければ、機械だけを買っても鉄屑にしかならない。


 俺は、公開されている行政処分歴、設備の種類、廃業予定時期、技術者の在籍状況を確認した。


 そのうち、許認可の有効性を確認でき、倉敷から現場へ通える距離にあったのは一社だけだった。


『真壁精錬所』


 水島地区のコンビナート外縁にある、小規模事業者だ。


 電話はつながらなかった。


 公開登記上は存続しているが、設備売却の予定が出ている。


「現場へ行きます」


 俺は立ち上がった。


「西原社長と相馬さんにも同行をお願いします。俺には設備の状態も、技術の良し悪しも判断できません」


 芽衣には、真壁精錬所の公開情報と、試験へ出せる費用の上限整理を頼んだ。


 買収費ではない。


 現状の資金で支払えるのは、あくまで調査、試験材料、外部分析の費用までだ。


 設備改修が必要なら、別に資金を組まなければならない。


「話ができても、その場で買収や出資は決めません」


 俺は車内で西原と相馬へ確認した。


「設備の状態、安全記録、許認可、残る技術者。それを見てからです」


「ようやく商社マンらしい慎重さが戻ったのう」


 西原が皮肉を言う。


「十五億を見た直後に、錆びた炉へ飛びついたら笑えんからな」


 その指摘は正しい。


 空いている設備と、使える設備も同じではない。



     *



 真壁精錬所は、大規模工場が並ぶ水島地区の端にあった。


 錆びた門の向こうに、古い処理槽と低い建屋が見える。


 機械音はしない。


 俺たちが事務所の扉を叩くと、油の染みた作業着姿の男が出てきた。


 六十代前半。


 無精髭の奥から、鋭い目だけがこちらを見ている。


「真壁源司社長ですね」


 俺は名刺を差し出した。


「九条補給店の九条と申します。試験精錬のご相談で伺いました」


 真壁は名刺を受け取らなかった。


「帰れ」


 第一声は、それだけだった。


「うちは来月で閉める。新しい仕事は、もう受けん」


 稼働中の二十二社だけではない。


 止まった炉の持ち主も、俺たちを交渉相手とは見ていなかった。



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