第39話 生放送で、S級が名前を出した
九条補給店の公式窓口に、テレビ局から取材依頼が届いた。
テーマは、赤色警告装備の事故と、探索者の装備安全。
生放送の特集へ出演してほしいという内容だった。
「九条さん、全国放送だよ」
芽衣が画面を見せてくる。
「必要な事実確認には、書面で回答します。出演は断ります」
M-GUARDの事故原因は確定していない。
KUJO-Gも、協会の追加審査中にある民間の規格案だ。
そんな段階でカメラの前に立てば、番組が求める分かりやすい勝敗へ巻き込まれる。今の俺が話せるのは、事故品がKUJO-Gではないことと、自分たちの検証範囲だけだった。
俺は事実関係をまとめた回答を送り、相馬や西原と資料整理を続けた。
だが、その日の夕方。
休憩のためにつけた事務所のテレビに、予想外の人物が映った。
『本日は、日本ランキング三位。S級探索者の桐生陽菜選手に生出演いただいています』
白銀の陽炎が、スタジオの中央に座っていた。
『桐生選手。救難映像で使用されていた赤色警告装備は、今回事故を起こしたM-GUARDと同じ製品なのでしょうか』
「違います」
陽菜はカメラを正面から見た。
「あの時に使用した試験装備は、九条補給店から提供されたものです。今回事故を起こした製品とは別です」
全国放送で、九条補給店の名がはっきりと口にされた。
事務所の空気が張り詰める。
『現在も、その供給元の装備を使用しているのですか』
「はい。九条補給店と、西原鋼業を含む作り手の方々が検証している装備を使っています」
『赤い警告線が出る装備を、安全だとお考えですか』
「赤い線が出るまで絶対に安全、という意味ではありません」
陽菜の声は、どこまでも静かだった。
「異常を認識したら、直ちに使用を中止するためのサインです。私の使用例一件だけで、すべての探索者への安全を証明することもできません」
司会者が、わずかに目を見開いた。
『それでも、なぜ九条補給店を選ぶのでしょう』
「使用後の装備を返し、どのような条件で使ったかを伝え、次の検証につなげているからです」
陽菜は迷わず続けた。
「九条補給店は、絶対に壊れないとは言いません。分からないことを、分からないと言います。安全基準や返却のルールも曲げません」
そして、一度だけ言葉を区切った。
「だから私は、命を預ける装備の供給元として、九条補給店を選んでいます」
スタジオが静まり返った。
『それは、他の探索者にも九条補給店を推薦する、ということでしょうか』
「私が言えるのは、自分が何を使い、なぜ選んでいるかだけです」
陽菜は首を横に振った。
「私の経験で、他の方の安全を保証することはできません。それでも、私は九条補給店の装備を選びます」
番組がCMへ切り替わった。
「……全国放送で、うちの名前を出しおった」
西原が呆然と呟く。
芽衣も相馬も、テレビから目を離せずにいた。
俺の胸にも、遅れて重い感情が込み上げる。
これは広告ではない。
陽菜は、自分の使用経験と社会的信用へ責任を負って、誤解を正してくれたのだ。
ありがたい。
だが、俺の頭は同時に、別の計算を始めていた。
売れ残った中堅向けの初回ロットと、ごく少数の試験販売実績。
KUJO-G0も点検サービスも、まだ設計と利用希望受付の段階だ。全国から需要が押し寄せても、供給できる体制はない。
「九条さん、ネットが……!」
芽衣がノートパソコンを開いた。
《Cross》のトレンドが、猛烈な勢いで書き換わっていく。
1位 #白銀の陽炎
2位 #九条補給店
3位 #KUJO_G
4位 #S級の命綱
《Cross》
白銀推し @silver_watch
陽炎が九条補給店の名前を出した!
装備初心者 @gear_beginner
S級が選んでるなら絶対安全ってこと? どこで買える?
検査屋の端くれ @test_side
本人が「安全を保証できない」って言った直後だぞ。話を捻じ曲げるな。
「購入希望もG0の利用希望も増えてる。小売店や地方の協会支部から、取引相談まで来てるよ!」
通知音が途切れない。
だが、これは売上ではない。
購入希望、利用希望、問い合わせ。重複や冷やかしも含まれた、未確定の数字だ。
「トップに注意表示を出してください」
俺は芽衣へ言った。
「KUJO-Gは協会公認ではない。赤線は安全保証ではない。供給数も納期も未定で、申込は確定注文ではない。その四点を最上部に」
「今やってる。でも、管理画面が動かない……!」
「需要が増えても、検証途中のものは出せません」
相馬が青ざめた顔で言う。
「うちの炉と人員で、この数の希望に応えられるわけがないぞ」
西原も画面上の数字を見つめていた。
通知音が不意に止まる。
ブラウザの更新表示だけが、空しく回り続けた。
「……落ちた」
芽衣が呟いた。
アクセス集中で、九条補給店のサイトが停止したのだ。
全国へ名前が届いた。
その瞬間、品物を届けられないという現実まで、俺たちの前に突きつけられた。
これは勝利ではない。
供給不能という、次の危機だった。




