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第28話 装備は売って終わりじゃない

KUJO-G0の仮ページを公開して、一日が経った。


 利用希望とともに、具体的な質問が届き始めている。


『レンタル品は、いつ点検するんですか?』


『赤線が出なくても、交換した方がいい時期はありますか?』


『少し曲がった時、自分で使えるか判断するんでしょうか』


『返却中は、次の剣が届くまで探索できませんか?』


 俺は、質問を一覧へ移した。


 見落としていた。


 新人の不安は、装備を選ぶまでで終わらない。


 実際に使い始めた後、いつまで使えるのか分からない恐怖が残る。


 剣と講習を最初に渡すだけでは、足りなかった。


「西原社長、芽衣さん。装備は、渡した時点で責任が終わるわけではありません」


 ホワイトボードへ、貸出から返却までの流れを描いた。


「赤線は重要な警告ですが、出るまでの安全を保証しない。だから赤線がなくても、使用期間や探索回数、使用階層に応じた点検期限が必要です」


 今は、適切な点検間隔を決められるほどデータがない。


 初期の期限は保守的に短く置き、回収した現物を見ながら修正するしかない。


 利用開始時に、製造ロットと検査証明を登録する。


 一定期間または所定の使用回数で、必ず返却する。


 赤線や異常を確認した場合は、期限を待たず使用を中止する。


 返却前に代替品を予約し、装備の空白を減らす。


 戻った装備は再検査し、継続使用、研磨・補修、使用終了のどれに当たるか判定する。


 再び貸し出せるのは、必要な処置を終え、検査証明を更新できたものだけだ。


「月額料金に、貸出だけでなく、定期点検と一定条件の交換まで含めます」


 俺は、流れの最初と最後を線でつないだ。


「壊れるまで使うのではなく、危険になる前に戻す仕組みにするんです」


「待て、九条さん」


 西原が顔をしかめた。


「作るだけでも手一杯なのに、戻ってきた剣まで全部うちで見るんか。そんなもん、すぐパンクするぞ」


「西原鋼業一社へ背負わせるつもりはありません」


 必要なのは、点検設備と担当者だけではない。


 交換用在庫の保管場所。


 返送用の梱包材。


 往復の物流。


 どの工場が、どの検査を担当したか追える管理システム。


 規格協議へ参加する工場の中から検査工程を担える先を探し、物流業者とも条件を詰める必要がある。


 構想ができても、運用体制はまだ存在していない。


「利用者側は、私が整理する」


 芽衣がノートパソコンをこちらへ向けた。


「出発前に点検。赤線が出たら即時中止。異常がなくても期限が来たら返却。代替品は先に予約。自己判断で研磨や修理はしない」


「日常の清掃まで禁止しないよう、分けて書いてください」


「うん。やっていい手入れと、工場へ戻す異常を、図で分ける」


 俺はホワイトボードの端へ、データと書いた。


「この仕組みには、もう一つ価値があります。戻ってきた装備そのものが、製造と点検を改善するための情報になる」


 製造ロット。


 初回使用日。


 おおよその使用回数と主な階層。


 赤線の有無。


 返却時の変形、刃こぼれ、摩耗状態。


 再検査の結果。


 詳細な位置情報や戦闘記録まで集める必要はない。


 利用者の同意を得て、安全検証に必要な最小限の情報だけを記録する。


「同じロットが、どんな条件でどう摩耗したか追えれば、点検期限や交換基準を見直せます。製造条件を検討する材料として、西原社長たちにも返せる」


「数が少ないうちは、断定なんぞできんぞ」


「分かっています。すべての破損を予測できるとは考えません」


 それでも、一度売って所在が分からなくなる装備より、現物と記録が定期的に戻る装備の方が、改善を続けられる。


「俺たちが売るのは、剣だけじゃない」


 自分の中で、事業の輪郭が変わっていく。


「生還率を上げるための運用を、装備と一緒に供給するんです」


 一回の売上で終わらず、月額料金による継続収入にもつながる。


 だが、将来の収入と、今ある現金は別だ。


 交換用在庫、検査設備、人員、物流、梱包、管理システム。


 必要な費用を支払い予定表へ加えると、短期の資金不足額はさらに大きくなった。


「九条さん。公式窓口に、こんな問い合わせが来てる」


 芽衣がメールを開いた。


 送信元は、探索者向け保険を扱う保険会社だった。


『KUJO-G0で計画されている検査証明と点検履歴について、情報交換をお願いできないでしょうか』


『装備の使用状態と事故発生状況を適切に比較できるようになれば、探索者のリスク評価へ利用できる可能性があります。現時点では、仕組みについての面談を希望いたします』


 まだ、検査履歴は一件も蓄積されていない。


 保険商品を作る話でも、提携の申し出でもない。


 それでも、装備を定期的に検査し、同意を得た使用情報と結びつける入口に、保険側も関心を持った。


 事故リスクの評価に使えるかは、今後データを集め、専門家が検討して初めて分かる。


 俺は面談希望のメールと、赤字の支払い予定表を並べた。


 将来の可能性は、また一つ増えた。


 同時に、その仕組みを作るための費用も増えた。


 保険会社と話しただけで、明日現金が入るわけではない。


 工場への支払い期限まで、あと四日だった。

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