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元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~  作者: 草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
アスパーナ ~王国一の温泉街と????~

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第58話 硫黄の香りのアスパーナ

「お、おお……! とっても臭いですよ、シャロさん!」


「それだと私が臭いみたいですっ! この匂いは……硫黄のせいですよ! 温泉に含まれる成分です……!」


 アスパーナに近づくほどに増していった『ゆで卵が腐ったような臭い』――硫黄臭。

 話には聞いていたが、実際に嗅ぐとこれほど強烈だとは思わなかったセフィラたち。


 特に苦しいのは、ただの人間より鼻が利くメンバーだ……。


「ぐおおおぉ……! 全身に腐った卵を投げつけられている気分だ……!」


「ムッ、ムッ、ム二ャ……!」


 黒柴犬状態のガルーは、前脚で鼻を押さえてうずくまる。

 ムニャーも隣で同じポーズをしている。


「いやぁ、仕事柄臭いの強い場所に行くことは結構あるけど……やっぱりキッツいね……! 特にここは私でも仕事のやる気が削がれそうなくらい強烈……!」


 獣人の血を引いているオデットも、人間よりは嗅覚が発達している。

 普段は敵の位置を探ったり、毒による攻撃を察知したりと役に立つ鼻も、アスパーナでは牙をむく。


「ちょっとだけ耐えてください……! 案内冊子には一時間もすれば嗅覚が麻痺して何も感じなくなると書かれていました……!」


 シャロの言葉を聞いてガルーは何とか立ち上がるが、その表情は弱気だ……。


「普通の人間ならそれくらいで慣れるとしても、我の優れた嗅覚の場合はどうなるか……。ええいっ、それでも引き返す選択肢はないのだっ! ムニャーよ、立て! 我々は温泉に入るためにここへ来たのだ!」


 自らを奮い立たせ、ムニャーも鼓舞(こぶ)するガルー。

 ムニャーは「ムムムムムッ……!」とうなりながら、立ち上がる。


 今、セフィラたちはアスパーナの街へ入る門から、少し距離を取った場所にいる。

 地方の小さな街や村では誰でも素通りで中に入れることもあるが、一大観光地かつ人の流入量が段違いのアスパーナでは、混雑を覚悟の上で身体検査が行われている。


 服を脱がせてまで調べたりはしないが、カバンの中や馬車の中、荷車の中身の確認など、危険物が持ち込まれないか、あるいは危険物ならば許可を取っているかの確認をしている。


「お金持ちもよく来る場所だろうから、どこまで効果があるかは置いといても、ちゃんとチェックはしてますよというポーズは必要なんだろうね」


 忙しそうに働くアスパーナの人々を見守るオデット。

 頼まれたら手伝いに行きそうな顔をしている彼女の横で、セフィラとシャロは一応自分の荷物の確認を行っていた。


「トランクの中に変な物は入れてないはずですけど……あんな大勢の人の前で検査に引っ掛かったら、顔が真っ赤になっちゃいます!」


「料理道具には刃物もありますけど、これくらいなら許してもらえますよね……?」


 セフィラたちの不安をよそに、実際の検査は簡単にパスすることができた。

 検査を担当したのがヘルプで駆り出されていたアスパーナの冒険者ギルド職員で、オデットの顔を知っていたからだ。


「いやぁ~、仕事で来たわけじゃないから、S級冒険者としての特権は使わないつもりだったんだけどね」


 なお、オデットがアスパーナに来た目的が「リフレッシュ」であることをなかなか信じてもらえず、一番検査に時間がかかった。

 最終的にギルドの上の人間から受けた特殊任務のためにやってきた……みたいな認識をされた。


「名声と共に仕事人間であることも広まっているようだな、オデットよ。あの世のグラストロも笑っていることだろう」


「ああ、苦笑いだろうね」


 ガルーは皮肉を言えるくらいには硫黄の臭いに慣れて、一安心といったところだ。


「さて、まずは街を歩きながら今日泊まる宿を探しましょう! 温泉に入るのはそれからですっ!」


 いつものようにセフィラが行動の指針を示し、先頭を歩く。


 アスパーナは王国の他の街とは建物の雰囲気が違う。

 白い壁の木造建築が多く、大体が三階建てくらいで背が高い。

 それらの建物が通りを挟んで左右にキッチリ、そしてビッシリと整列するように並んでいる。


「今のアスパーナの街並みは、この地に豊富な温泉が湧き出るとわかってから建て直された物がほとんどなので、これだけキッチリと外観や並びも整理されているみたいですよ」


 案内冊子で得た知識を早速披露するシャロ。

 セフィラは歩きながらくるくると回り、建物の一つ一つに目をやる。


「王都もお城の周りはかなり計算されて建てられてるなと思いましたけど、街の外側に行くほどに雑多なところが増えていきました。だから、街全体でこれだけ雰囲気の統一を行っているのは、なかなかすごいことですよね!」


「まあ、王都は王国最大の都市だけあって、いろんな事情で住み着く者が多い。アスパーナも人は多いが、それはあくまでも観光客だ。住もうとする人間の数はそう多くないから、まだ制御がしやすいのだろう」


 ガルーにそう言われ、セフィラは「ほ~」と感心する。


「王族や貴族の人たちが、あんまり仕事ができないせい……ではなかったんですね」


「いや、それはそれとして奴らは無能だ」


 一般人には到底できない内容のおしゃべりも、人ごみにかき消されて周りにはほとんど聞こえていないので問題ない。

 ましてやこれだけ人がいれば、ガルーがしゃべっても足元を歩いている小さな犬がしゃべっているとは誰も思うまい。


「シャロちゃん、動物と一緒に泊まれる宿はどれくらいあるのかな?」


 一番後ろを歩くオデットが、シャロの背中に尋ねる。


「案内冊子には六件ほど情報がありました!」


「六件……か。普通の街ならそれだけあれば十分すぎるけど、アスパーナの人の多さを見ると、部屋が空いてるかちょっと心配だね」


「そうなんですよ……。でも、こればっかりはもう神様に祈るしかありません!」


「神様……ではないけど、神獣様はちょうどしっぽをふりふりしながら前を歩いてるしね」


 どうか部屋が空いてますように――。

 シャロは前を歩く神獣様、ガルーのもふもふしっぽに祈るのだった。

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