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元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~  作者: 草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
バナンバタウン ~勇者の一番弟子と幻のバナナ~

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第55話 いざ、アスパーナへ

「いやぁ、朝からこんなに集まってくださるとは! なんだか申し訳ないですっ」


 セフィラたちの出発を見送るため、たくさんの人々が集まっていた。

 バナンバタウンに長く住んでいる人もいれば、数日前に街に来たばかりの商人、なんかよくわからないけど人が集まっているので来てみた野次馬もいる。


 これだけ人が集まったのは、バナンバ原種の獲得に貢献したというのもあるが、ガルーが神獣でオデットは勇者部隊の一員であることも大きい。

 一目見れるなら見てみたいと思われるくらいには知名度があるのだ。


「こういう状況になると、私ってガルーに対して馴れ馴れしい謎の子どもに見えるんでしょうね~」


 共に戦う神獣の契約者ではなく、ただの世話係として存在を隠されていたセフィラは、ガルーに比べたら知名度がない。

 ちやほやされる状況では、ちょっと居心地が悪い。


「私なんて兵士でもありませんでしたから、もっと場違いな感じがします……! 本当にセフィラ様やガルー様と一緒に旅ができているのが、改めて夢のようです……!」


 シャロは動きが固く、視線は泳いでいる。緊張が丸わかりだ。

 対するムニャーは、早く出発して走り出したいからか、ちょっと不機嫌そうに寝ころんでいる。


 ひとしきり人々からの挨拶や感謝の言葉を受け取った後、ガルーがいつもより威厳のある声で「我々はそろそろ旅立たねばならぬ」と宣言する。

 みんなで温泉に行くだけだが、まるで使命を帯びた旅路のように演出することで、別れを惜しむ人々も致し方なく引き下がるというわけだ。


 ……なお、そんな中で引き下がらなかった者が一名。


「すみませぇぇぇぇぇぇんっ! 出発前にどうしてもお話ししたいことがあるんですっ!」


 人垣(ひとがき)の向こうから聞こえてくるのは、聞き覚えのある男性の声。


「失礼しますっ! 失礼しますっ!」


 人の間を縫ってセフィラたちに迫ってくるのは、バナナ研究員のカリウスだった。

 一昨日と同じ黄ばんだ白衣を着て、その後ろには同じ色の白衣を着た複数名が列をなしている。


 そして何より、その手には虹色に輝くドリーミー種バナナの房が握られていた!


 セフィラが渡したのは一本のドリーミー種のみ……。

 それなのに、彼の手には数十本のバナナが連なった房が握られているのだ!


 あまりにも奇妙なバナナを見せつけるカリウスから人々は距離を取り、人垣は自然と左右に分かれる。

 人々から避けられていることなどまったく気にせず、カリウスは誇らしげにセフィラの前に立つ。


「見てください……! これはセフィラ様からいただいた一本のドリーミー種が大きなバナナの木となり、実らせたドリーミー種の房です!」


「えっ!? 一昨日渡したばかりのドリーミー種が木になって、もう実をつけたということですか……?」


「はいっ!」


 セフィラは仲間たちと顔を見合わせる。

 にわかには信じられない話だ。


 だが、事実としてドリーミー種の房は彼の手にある。

 バナナに誠実なカリウスが、偽のバナナをでっち上げるとも思えない。


「しかもですよっ! このドリーミー種の成分を分析したところ……花粉アレルギーを抑え込む成分が、バナンバ原種より高濃度に含まれていることがわかりました! その上、ドリーミー種は街のバナナ園でも成長しました! プラタノ原生林でしか育たないバナンバ原種とは違ったんです!」


「つまり、街で育てたバナナで花粉対策ができる……。危険を冒してプラタノ原生林に行く必要はなくなる……と?」


「その可能性が生まれた、ということです! まだまだ研究の余地はありますが、そんな素晴らしい可能性が生まれたことが、とても嬉しくって……絶対にセフィラ様に報告しなければと思い、ここに参上しましたっ!」


 カリウスの後ろに並んでいる黄ばんだ白衣の人々が、セフィラに頭を下げる。

 おそらく、彼の部下の研究員なのだろう。


「色だけを見てドリーミー種と名付けたバナナが、まさか本当に夢のバナナになるなんて、私もとっても嬉しいです! でも、ドリーミー種に夢が詰まってるとわかったのは、カリウスさんの研究の成果です。だから、私を褒めるより自分を誇ってあげてくださいね!」


 セフィラたちにはバナナの知識がないので、ドリーミー種をすごい色のバナナだなと思うばかりだった。

 短期間で成分の調査まで行えたのは、カリウスが情熱を向けて作った研究設備や、積み重ねた知識があってこそなのだ。


「お、おおおお……! なんと光栄なお言葉……! そのお言葉を胸にバナナ研究所研究員一同、これからも街のために研究を続けていきますっ!」


「はいっ、頑張ってください! ……たまには白衣も洗ってあげてくださいね」


「あははっ! よく言われますが、これは元々この色です! バナナ研究員の白衣はバナナ色なのです!」


 セフィラはホッとすると同時に、改めてカリウスのバナナに対する情熱に恐ろしさを感じる。


(カリウスさんがなんらかのバナナに寄生された人でないことを祈るばかりです……! いや、もしかしたらカリウスさん自体が人型バナナ……!? なんて、流石にありえませんね)


 何はともあれ、懸念材料だったこれからの街の花粉対策にも希望をもたらしたセフィラたち。

 より晴れ晴れした気分でバナンバタウンを出発できる。


「それじゃ、気を付けて行ってきや! 今度は私を連れてってや、オデット!」


「うん。ラカタンも体に気を付けて、無理はしないことだよ」


「こっちのセリフじゃい!」


 ラカタンにも見送られ、セフィラたちはガルーの背に乗る。

 ムニャーだけは自分の足で走る気満々だ。


「バナンバタウンのみなさん、ありがとうございました! お元気で~!」


 ガルーは駆けだし、ムニャーがそれを追う。

 セフィラたちはガルーの背の上から、街が見えなくなるまで手を振った。


 次の目的地は、王国一の温泉街アスパーナ――!

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