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元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~  作者: 草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
バナンバタウン ~勇者の一番弟子と幻のバナナ~

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第53話 任務完了!

 その後、周囲の人々の配慮もあって、セフィラたちは優先して街の中へ通してもらうことができた。

 街に入って最初に向かう先は当然、冒険者ギルド=バナンバ支部だ。


「うんうん! 流石はオデットと神獣様や! 期待通りどっさりのバナンバ原種をありがとさんっ!」


 ギルドの建物の中から飛び出してきたラカタンが、セフィラたちの仕事っぷりを拍手を交えて褒め(たた)える。


「それじゃあ、早速このバナンバ原種を必要な人らに届ける準備をするで! あっ、これに関してはギルドで全部やるから、みんなはゆっくり体を休めてくれてええで」


「ということは、我らの任務はここで完了……というわけだな」


 ガルーの言葉にラカタンは満面の笑みでうなずく。

 ……それはそれとして、自分たちが頑張って取ってきたバナナで、街の人々が喜ぶ姿を見たいという気持ちがセフィラたちにはあった。


 ということで、セフィラたちはギルドがバナンバ原種を配布する様子を見守ることにした!


 バナンバ原種の配布方法は、高度にシステム化されている。

 花粉が舞うたびに行うことなので、自然と流れが洗練されていったのだ。


 まず街の中心にある広場に、バナンバ原種の配布所を設置する。

 そこへバナンバ原種を必要とする人が、バナナを受け取りに来る形だ。


 配布所は複数の長テーブルを並べて、その内側にギルド職員が立っているだけの簡素なもの。

 そこでギルド職員は、バナンバ原種を求める人々に特殊な薬品を用いた検査を行う。


 薬品を浸した綿棒を口の中に突っ込み、その後の綿棒の色の変化を見るのだ。

 白い綿棒が、まさにバナナのような鮮やかな黄色に変われば、アレルギー反応の前兆である。


 バナンバタウンに長年住んで、街で栽培されているタウン種を食べ続けることで、すでに花粉への耐性を得ている人には、この変化が起こらない。

 つまり、バナンバ原種は必要ないとされ、そのままお帰りいただくことになる。


 バナンバ原種は貴重かつ必需品なので、今すぐに必要としていない人に渡すことはできない。

 そのため、こういった手間をかけて渡す人を選んでいるのだ。


 ギルド職員は慣れた手つきでテキパキと検査と配布を行っていく。

 そしてバナンバ原種を受け取った人は、それが貴重な物とわかっているので、まるで恋人の服を脱がすように丁寧に皮をむいてから、果肉を口に運ぶ。


「あ~! こうしてみなさんがバナナを食べている様子を見てると、自分も食べたくなってきますね~」


 バナンバ原種が手に入り安心する人々、そしてその味に感動する姿を見たセフィラは、満足げな笑みを浮かべる。

 同時に、自分もまたバナンバ原種を味わいたいと思わされる。


 言葉ではなかなか言い表せない深い甘み……それが細胞の一つ一つに染みわたっていくような感覚は、他の種のバナナではなかなか味わえない。


 セフィラたちはバナンバ原種を取りに行った者の特権として、荷車に入らなかった分を自分たちが楽しむ用として懐やポーチ、カバンの中に詰め込んでいる。

 懐のバナンバ原種に手を伸ばし、それを取り出すセフィラの手に握られていたのは……虹色に輝くドリーミー種だった。


「うおお……! これの存在をすっかり忘れてました……!」


 いきなり見せられたらセフィラでもギョッとするほど、今もドリーミー種は光り輝いている。


「……それ、食べるのか?」


 ガルーがちょっと後ずさりながら言う。

 やはり、どうしても美味しそうには見えない。


「う~ん……。特別な新種ですから、食べはしませんけど……どう活用すればいいかは、まだ思いついてません」


 とはいえ、あまり長く持ち歩き続ければ腐る可能性もある。

 バナンバタウンにいるうちに、何か使い道を見つけなければならない。


 そんな頭を悩ませるセフィラたちのもとに、駆け寄ってくる人影があった。


「す、すみませぇぇぇん!! そのバナナは何ですか!?」


 その人物はギルド職員と一緒にバナンバ原種を配布していたが、セフィラが取り出したドリーミー種を見るなり仕事を投げ出し、テーブルを飛び越えて走ってきたのだ。


 ボサボサとした髪と大きな丸メガネが特徴的で、他のギルド職員と違って白衣を身に着けている男性だ。

 ……白衣は全体的に黄ばんでいる。


「えっと、このバナナはですね――」


 セフィラは白衣の男の勢いに面喰いつつも、ドリーミー種を手に入れた敬意を説明する。

 その話を男はぶんぶんと首を縦に振りながら聞いていた。


「なるほど……! 話に聞くプラタノ原生林の怪物を倒した際に生まれたバナナと! 道理で私も見たことがない完全な新種なわけですね! それにしてもこの存在感……すさまじい可能性を感じます!」


 ドリーミー種のケバケバしい虹色の皮を凝視する白衣の男性。

 どうやらバナナに詳しそうだが、未だに彼自身の素性がわからない。


「あの、ところであなたは……? 私はセフィラ・ローリエと申します」


「ハッ……! すみません、ついつい見たこともないバナナを前に、冷静さを失っていました……! 私はカリウス・バーショーと申しまして、このバナンバタウンでバナナ研究をしております! バナナ農家さんや冒険者ギルドとも提携していて、ぶっちゃけこの王国で一番バナナに詳しい人間だと思います!」


 カリウスは謙遜も遠慮なく、堂々と言ってのけた。

 バナナに対する並々ならぬ情熱を持つ人物なのは態度でわかっていたが、まさかそこまで大物だとは思わず、セフィラたちは驚いて顔を見合わせている。


「なんやなんや、ケンカでもしとるんか?」


 そこへラカタンがやってくる。

 バナンバ原種の配布を見守っていたが、突然飛び出していったカリウスを見て、追いかけてきたのだ。


「あっ、ラカタンさん! ケンカではないんですけど、その……失礼ですが、この方は本当にバナナ研究家の方なんでしょうか?」


 本人の言葉だけを鵜呑みにするのはアレなので、一応ラカタンに確認を取るセフィラ。

 ラカタンはあっさりとうなずいた。


「うん、カリウスは王国一のバナナ研究家やで。バナナの品種改良や栽培に適した環境の提案、後は花粉対策の研究なんかもしてるらしいわ。ちょっとばかし周りが見えなくなることが多いけど、まあバナナに関することは信用してええんとちゃうかな」


「ラカタンさんがそういうなら、私もカリウスさんを信用します!」


 そう言ってセフィラは、ドリーミー種をカリウスに差し出した。


「えっ……! こんなに簡単にいただいてしまっていいんですか!? もちろん、欲しくて欲しくてたまらないのは事実ですが、それに見合う金銭は用意するつもりで……!」


「あくまでこれは本来の仕事の副産物ですので、お金はいりません。それに私たちにはこのバナナにどれほどの価値があるのか、まったくわかりませんから。このバナナを持つにふさわしいのは、ちゃんとした知識を持ったカリウスさんのような人だと思います」


 バナンバ原種を手に入れるという本来の仕事の報酬は、協力したセフィラたちにもギルドから支払われる。

 金銭はそれだけでも十分だ。


 これからも旅を続けるセフィラたちからすれば、まったく未知のドリーミー種をもったいぶって手元に置いておくよりは、さっさと専門家に渡してしまった方がいろいろ助かるのも事実。

 これはWin-Winの取引と言えるだろう。


「あっ、そうだ! 別に金銭の代わりってわけじゃないんですけど、そのバナナには私がドリーミー種っていう名前を付けたんで、もしよかったらこれからもその名前で読んでいただけたらな~って!」


「ドリーミー種……! まさに夢のバナナというわけですね! 新種には発見者が名前を付けるのが通例ですから、もちろん採用させていただきます!」


 その後、カリウスはドリーミー種を自分の白衣でくるみ、「お~、よしよし~」とまるで赤ん坊でも扱うように大事に大事に抱え、自分のバナナ研究所へと帰っていった。


「……あいつ、ナチュラルに仕事投げ出しよったな。まあ、呼んでもないのにバナナとあらば即参上するボランティアやから、別に自由に帰ってもらって結構なんやけど」


 ラカタンのボヤキを聞いて、セフィラは苦笑いだ。


(本当にあの人にドリーミー種を渡してしまって、よかったんでしょうか……?)


 ふとそんな考えが頭をよぎる。

 しかし、セフィラは頭を振って思考を打ち消す。


(いやいや、バナナに対する熱意と愛情だけは本物のはずですから! これでいいんですっ!)


 話をしている間もほとんどセフィラたちと目を合わせず、ドリーミー種の方ばかりを見ていた。

 黒柴犬状態のガルーやムニャーのようなモフモフかわいい動物たちにも、まるで目移りしなかったのだ。


(きっとカリウスさんなら、ドリーミー種を人々のために役立ててくれるでしょう!)


 セフィラはそう自分に言い聞かせるのだった。

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