第50話 黄金色の果実
セフィラたちはオデットを先頭にして、原生林を突き進む。
一時落ち着いていたモンスターの襲撃は、バナンバ原種に近づくほどその激しさを増していった。
そのほぼすべてをオデットは自らの爪で切り裂く。
木の根や紫バナナは、黄色い樹液を撒き散らして地面に転がるのみであった――。
「うぅ……流石にこのバナナを食べようとは思いませんね……!」
紫バナナをみたセフィラの反応は、シャロと似たようなものだった。
食べることが好きなセフィラも、流石にぎょろぎょろした目玉だらけの果肉はご遠慮する。
「ムニャッア! ムニャアアアッ!」
ムニャーは紫バナナと戦っていた。
木の根は戦いにくい相手だったが、こちらはムニャーにとって戦いやすい大きさの相手だ。
なので修行の一環として、オデットがわざと数匹をムニャーの方へ誘導していた。
鋭い爪でその実を切り裂き、牙を使ってかじりつき……そのまま食べる!
ムニャーだけは不気味な紫バナナを獲物として捕食していた。
「がぶがぶ……ムニャ~!」
「案外美味しいらしいぞ。我は遠慮するがな」
ガルーにとっても、紫バナナは食べ物として好ましい見た目ではなかった。
とはいえ、紫バナナはモンスターとして活動できるだけあって、目玉だらけの実には通常のバナナよりも多くの栄養が詰まっている。
病み上がりかつ成長期のムニャーには、ぴったりの食べ物ではあるが……。
やはり、その食事風景は少々グロテスクである。
「……そこだっ!」
オデットが伸びてきた木の根に爪を刺してツボを突く。
さらに爪を通して木の根に魔力を流し込み、根とつながっている本体にもダメージを与える。
龍髭剣を折ってしまった時にやろうとしていたのが、この攻撃である。
見た目こそ地味だが、その威力は絶大――!
地鳴りと共にプラタノ原生林が揺れ、すべての木の根がもがくように暴れる。
「うん、効いてるね。本体がダメージを受けて苦しんでいるんだ」
やはり、迷いのないオデットに敵はない。
それでも彼女は油断せず、進行方向もしっかりと確かめて動く。
「目標地点まで、あと数百メートルってとこかな。気を引き締めていくよ」
オデットの背中を追って、セフィラたちが森を進むこと十数分――。
ついに彼女たちは黄金色のバナナ、バナンバ原種が実る場所へたどり着いた!
「近くで見るとキラキラというより……ギラギラです! はっ、反射した光が目に突き刺さります……!」
シャロは直視できずに両手で目を覆う。
セフィラ、ガルー、オデットは自身の魔力を使い、眼球を保護することができる。
魔力による身体機能の補強は、程度の差はあれど勇者隊にいた者なら習得している。
今回のような激しい光への抵抗とは逆に、暗闇での視力向上なども可能である。
ムニャーは単純に種族として光に強い。
元々ハクアオオヤマネコは雪山に棲息しているので、雪が反射する光で目がくらまないようになっているのだ。
「うふふふふっ……! バナナの皮が輝いているだけとわかりつつも、これだけキンキラキンだとテンション上がりますねっ! 金塊に囲まれているようです!」
セフィラはガルーの背の上で小躍りしている。
「意外と光り物が好きだったな、そういえば……」
ガルーがド忘れするほど普段は表に出さないが、セフィラだって年頃の女の子……金とか銀とか宝石の類は結構好きだった。
お姫様になって豪華なティアラやドレスを身に着けるのに、かつては憧れがなかったわけでもないのだ。
しかし、今は仕事の最中である。
いつまでも黄金の輝きに目がくらんで、使命を忘れるセフィラではない。
「では、この輝くバナンバ原種を荷車に……詰め込む前に、脅威を排除しなければなりませんね」
そう、ここには原生林に入ってからずっとセフィラたちを襲い続けたモンスターの本体がいる。
それを排除しない限り、のんびりバナナの収穫などできない。
「まあ……ありがたいことに、敵に姿を隠す能力はないみたいだね」
オデットが視線を向けた先には、他のバナナの木とはまるで違う極太の幹の巨大樹があった。
その巨大樹にはバナナが実っていないし、葉の形も幹の形状も完全に別種だ。
「植物系モンスターの中でもポピュラーな魔樹木だな。ここまで巨大に育ったものを見るのは、流石の我も初めてだ。この土地にはよほど栄養があるらしい」
トレント――樹木そっくりの体を持つモンスターで、森林地帯に出現するモンスターの代表格だ。
普段はおとなしく普通の樹木に擬態して、獲物が近くまで来たら不意打ちをかます。
自分から獲物を探し回ることもあり、その場合は木の根を足代わりにして移動する。
主に枝を伸ばして振り回したり、鋭い葉を飛ばして攻撃を行う。
セフィラたちの目の前にいるトレントは、巨大すぎるがゆえに擬態ができていない。
そんな巨大トレントの木の幹に亀裂が走り、それが顔のようになる。
表情は怒りの形相だ。
「普通のトレントは木の根を足にして歩くものだが、こいつは巨大さゆえに歩くことはできんようだな。その代わりに、木の根を土の下から飛び出させて攻撃するというわけだ」
「でも、ここまでバナンバ原種に接近されたら、もう木の根では攻撃できない。そんなことしたら、守りたい原種を巻き込んで掘り起こしちゃうからね」
ガルーとオデットの分析通り、トレントはもう木の根を伸ばしてはこなかった。
だが、このトレント特有の能力はもう一つ存在していた。
怒りのトレントは葉が散ることもお構いなしに、体を激しく振動させる。
同時にその体中を駆け巡る魔力が加速し、どんどんと増幅されていく。
次の瞬間――バナンバ原種が放つ光をかき消すほどの閃光がほとばしった!
「……こやつめ、なかなか芸達者ではないか」
「やっぱ、環境変化が起こった地域に出向くと、変なモンスターと出会っちゃうなぁ~」
ガルーとオデットがボヤくのも無理はない。
閃光の後に現れたのは、幹、枝、葉に至るまで、そのすべてが黄金色に染まったトレントだったのだ。
「ふ~む、ここは素直にゴールデントレントと名付けましょう!」
セフィラは目を輝かせながら、そう宣言した。
こういう悪趣味なくらいギラギラしたものも、案外嫌いではないセフィラだった。




