第43話 魔樹のはびこる原生林
「ここがプラタノ原生林……! 全体的にモワッとムワッとしてますね」
セフィラたちの目の前に広がるのは、木々がうっそうと茂るジャングル。
バナンバタウンやここに来るまでに通ってきた野原と比べると、土地全体からじっとりとした熱気を感じる。
さらにはジャングル全体に黄色いもやがかかっている……。
「このもやは……もしかしなくても、バナナの花粉ですよね」
シャロがうげっと苦々しい表情で言う。
いくらバナンバ原種のバナナチップスを食べてアレルギー耐性を得ているとはいえ、こうも目に見えて粉が舞っているといい気分にはならない。
「花粉の飛散そのものを抑える方法があればいいんだけどね……。原生林の中に入ることで、何かヒントが見つかれば……」
そうつぶやくオデットを先頭に、セフィラたちはプラタノ原生林へと足を踏み入れる。
「ムニャーよ、あれだけ走れるならば、この足場の悪い原生林でも十分に動くことができるだろう。自信を持て! 我と一緒にセフィラを守るのだぞ!」
「ム、ニャーッ!」
ガルーから太鼓判を押されたムニャーは、誇らしげにしっぽをピンと立ててセフィラの隣を歩く。
「じゃあ、シャロちゃんのことは私が守るよ」
オデットはそう言って、シャロを手招きする。
「あ、ありがとうございます……!」
オデットの隣に身を寄せるシャロ。
戦う力を持たない彼女だからこそ、原生林全体から漂う異様な気配をより敏感に感じる。
(うまく言葉にできないけど……歓迎されてないことはわかる)
まだ攻撃は受けていないが、シャロは敵意に近いものを感じ取った。
花粉のこともあって、あまり長居はしたくない。
「報告にあった木の根による攻撃……まだ来ないね。こうして地面から飛び出した根っこの上を歩いているのに。もっと奥地まで誘い込んでいるのかな?」
「あるいは、我らの実力を理解しているのかもしれん。そこらへんの一般人ではないとな」
「知能があまり高くないとされる植物系モンスターに、そんな判断力が備わってるのなら……恐ろしいね」
「ギルドで受け取った情報は数日前のものだ。植物の成長によって、状況が変わっている可能性は高い」
そんな会話を交わすオデットとガルー。
足元からの攻撃を警戒しなければならないため、歩くのにも非常に神経を使う。
気を張ってる中だから、ジャングル特有の熱気の不快感はより強い。
「……あっ! あれってバナナじゃないですか!?」
きょろきょろと周囲を見渡していたシャロが、木からぶら下がっている淡い黄色のバナナを指さす。
「あれを持って帰れば、もう任務完了ですよね?」
嬉しそうなシャロとは裏腹に、他のメンバーの反応は薄い。
「あれはバナンバ原種の亜種だね。ソルジャー種と呼ばれる大量の花粉を飛ばす厄介な奴だよ。原種の皮はもっと濃い金色で、金塊バナナと呼ばれるほどだから、一目見たらすぐわかるよ」
オデットの説明を聞いて、シャロは落胆する。
「はぁ……。バナンバ原種を街の果樹園で育てられたら、こんなところまで来なくていんですけど、そうはいかないんですもんね……」
「うん。原種の人工栽培には何度も挑戦しているけど、すべて失敗に終わっている。このプラタノ原生林の環境でしか、バナンバ原種は育たないんだ。街で育てているのは、ここで見つかった亜種から品種改良を重ねたタウン種というわけさ」
タウン種は甘さと撒き散らす花粉の少なさを追求した種。
味や栄養価はバナンバ原種に劣るものの、その育てやすさからバナンバタウンの主力商品になっている。
街の中で消費するだけでなく、王国中に広く出荷されている。
また、タウン種もバナンバ原種から派生した種というだけあって、食べた者にわずかながら花粉などへの耐性を与える成分が含まれている。
ゆえに長い年月タウン種を毎日のように食べ続けているバナンバタウンの住人は、原種を食べずとも毎年の花粉の飛来に耐えることができる。
セフィラたちに求められているのは、まだ花粉に耐えることができない街の若者や移住者、旅人たちのためのバナンバ原種を確保すること。
流石に街の住人全員分の原種を運ぶのには、ガルーが引っ張る大型の荷車でも足りないが、条件に当てはまる人の分くらいなら、一回の運搬で運びきれる計算だった。
「バナンバ原種は自分たちがこの土地でしか生きられないことを理解している。だから、花粉を飛ばすのは分布範囲を広げるためじゃなく、外敵を遠ざけるための攻撃手段なんだ。美味しい果実を実らせはするけど、それを食べて他の土地に種を運んでほしいとも思ってないんだろうね」
バナンバ原種の気持ちを推し量るようなオデットの言葉を聞いて、シャロは思う。
(植物は動かないし、動物みたいに鳴いたり、ましてや人のようにしゃべったりしない。それでも、生き残ることを考えて生きてるんだ。私たちと同じように……!)
急に周囲の木々が、意思を持って自分を狙っているんじゃないかと思えてきたシャロ。
無意識にオデットの方へ体が寄っていく。
「まあ、でも……せっかくこんなところまで来たんだし、街じゃ手に入らないソルジャー種のバナナを食べてみようか」
「えっ、ええっ!? 食べられるんですか!?」
花粉拡散による攻撃用の亜種と聞いていたので、食べることを考えていなかったシャロ。
オデットの提案に驚くのも無理はない。
「食べられるよ。だってバナナはバナナ、ただの果物さ」
「……確かに。それはそうですね」
自分たちと同じ生命であると同時に、目の前にぶら下がっているのは紛れもないバナナ。
シンプルに物事を考えれば、シャロにとってはただ珍しい食材が目の前にあるだけだ。
「料理をたしなむ者として、ソルジャー種のバナナ……とっても興味がありますっ!」




