第38話 輝く黄金色
そして時は流れて午後六時頃――。
宿で体を休めたセフィラたちは、再び冒険者ギルド=バナンバ支部へやってきた。
相変わらずギィィィときしむ木製の扉を開いてギルドの中に入ると、そこにはすでにオデットがいた。
いや、ただ「いた」と言うよりは……。
「……オデコさん、もしかしてあれからずっとギルドにいましたか?」
セフィラはなかば確信に満ちた疑いの目をオデットに向ける。
オデットの視線は、わかりやすいくらいに泳いでいる。
「ちょい待ちっ! 今回ばかりは、オデットのことを責めんといてほしいんや!」
オデットのことをかばうため、ラカタンが話に割って入る。
その顔はなんとも幸せそうに頬が緩んでいる。
「正直オデットが手伝ってくれんかったら、抱えてる仕事をこの時間までに終わらせるのは無理やったと思う。それを知っていたからこそ、オデットは戻ってきてくれたわけや。だから、別に心配するあんたらへの当てつけのために、仕事してたわけやないんやで! ……それに二人で一緒に仕事できて、私は幸せやったし」
最後の言葉がラカタンの一番言いたかったこと……だというのは、セフィラたちにも伝わった。
そのため、今回の件は不問ということになった。
「それでは、全員揃ったということでディナーのお店に移動しましょう!」
セフィラたちは入ってきたばかりの入り口からギルドを出ようとする。
「あ、店はそっちやないで!」
その行動をラカタンは止め、ギルドの奥の方を指さした。
「ディナー会場はギルドの隣の建物……というか、ギルドが運営しているレストランやで。だから、ギルドの中から廊下を通ってそのまま行けるんや」
これにはセフィラにシャロ、ガルーも驚く。
「お~! まさかギルドがレストランもやっているなんて! 酒場が併設されているギルドは多いと聞きますが、建物一つ使ってレストランとは本格的です!」
料理には人一倍興味のあるシャロが、最も強い反応を示す。
「まっ、確かにギルドが本格的なレストランやるなんて珍しいやろうな。ただ、意外と合理的な判断で作られた店なんや。ギルドがやってるからこそ、普通の客がビビるようなごっつい武器の持ち込みが許されたり、冒険者が仕事の相棒にしてる動物や魔獣の連れ込みが許されたり……な!」
「なるほど、我とムニャーが一緒にディナーを楽しむには、そういう寛容な店を選ぶ必要があったわけだな」
当たり前ではあるが、動物連れ込み禁止のレストランがほとんどだ。
武器も目立つ物の持ち込みは嫌がられることが多い。
冒険者が仕事を終えた後に、または仕事に臨む前に、店や周囲の客に気を使うことなく食事を楽しめる場所というのは、案外需要があったのだ。
そんな冒険者のためのレストラン、その名は――。
「ようこそ、バナンバ支部が誇る名店カルダバーンへ!」
ギルドから伸びる廊下を通り、きしまない立て付けのいい扉を開くと、そこはもうレストランだった。
雑多でレトロな雰囲気漂うギルドの建物とは違い、カルダバーンは壁や床が明るい色で塗り直され、空間にもゆとりがある。
使われている建物が、元々ギルドよりも大きいのだろう。
通りに面した入り口から見て、奥の方には厨房があり、料理人たちがテキパキと働いている。
丸テーブルが並べられたホールは、元々あった二階部分をぶち抜いているのか、天井が高く開放感のある空間になっていた。
テーブルは全体の六割ほど客で埋まっている。
例年通りバナンバ原種の花粉の対策ができていれば、この時間帯はもっと客が来ているのだろうとセフィラたちは思った。
「厨房に近いところのテーブルが空いてるし、そこに座ろか。基本的に入り口から遠い席に座るのが好きなんよな、私って」
そう言ってラカタンが選んだ席に座るセフィラたち。
木の丸イスは固い座り心地だが、安定していてぐらつかない。
高い天井から釣られたライトは魔力を動力にしたもので、暖色系の光でホールを明るく照らしていた。
「いい雰囲気ですねぇ~。綺麗で清潔で、それでいて高級店のようなハードルの高さは感じません。居心地がとってもいいお店です」
シャロの言葉にみんなでうなずきながら、周囲を見渡すセフィラ。
すると、他の客の視線がこちらに集まっていることに気づいた。
特にラカタン、オデット、ムニャーに視線が集まっている。
(ラカタンさんはギルドマスターなわけですから、ある意味このお店の偉い人ですもんね。オデコさんは冒険者の中では有名人で、ムニャーはとっても珍しいネコちゃんだから目立ちますね)
相対的にセフィラと黒柴犬状態のガルーは目立っていない。
それもまたセフィラの心が落ち着く理由の一つだった。
(ふふふっ! このメンバーなら、私とガルーは人の目を気にせずにご飯を楽しめます!)
セフィラはニコニコ笑顔だ。
そこへメニューと水、そしてある『お通し』を持ったウェイターがやってきた。
「カルダバーンへようこそ~。こちらメニューとお水、お通しのバナナチップスになりま~す」
若い女性のウェイターは慣れた手つきで持ってきた物をテーブルに置く。
その中で一番セフィラたちの視線を集めたのは――もちろんバナナチップス!
バナナを薄く輪切りにし、乾燥させて作るお菓子。
水分が飛んでいるので、カリッとした小気味良い食感を楽しめる。
セフィラにガルー、シャロも知っているし、もちろん食べたことがある。
だが、目の前のバナナチップスは、今まで見てきたそれと明らかに違った。
バナナチップスは時間をかけて乾燥させる都合上、どうしてもバナナ本来の淡い黄色が黒ずんでしまう。
だというのに……目の前のバナナチップスは、まるで輝いているかのような黄色をしているのだ。
それはもはや、黄金色と言っても過言ではない――!
手に取ってみると、指先から固い感触が伝わる。
確かにカリカリに乾燥しているのだ。
「お通しやからって舐めてると、目ん玉飛び出すで! バナンバのバナナチップスは、そんじょそこらのとは美味さがダンチやからなっ!」
自信満々のラカタンを横目に、セフィラたちは輝くバナナチップスを口へ運んだ。




