#05
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「やー、リム。リム・ヨン・スーじゃないか!」
特別客船に乗船するなり、ゼノンが大きな声でいった。
「え、え、え?」
打ち合わせにない突然の行動にスーは混乱し、体を硬直させていたが、ゼノンはお構いなしに話を続けた。
「やだなー。忘れたのかい? ぼくだよ、ぼく。ゼノン・クリノだよ。アカデミーで一緒だったゼノンだ」
そういってゼノンは、スーに近づき、背中をなれなれしく叩いた。
「アカデミー一の秀才で、宇宙熊と格闘したことのある親友を、きみは忘れたっていうのかい?」
絶対、テキトーな話だ。
だが、スーはなにかを察したらしく、話をあわせはじめた。
「やあ、ゼノン。ゼノンじゃないか! 久しぶりだな!」
「ああ、本当に久しぶりだ。しかし、それはそうと、きみ、一体、こんなところでなにやってるんだ? ここは、グレート・スカラー賞祝賀会の関係者しか乗っていないはずだぞ?」
「ああ、それは……つまり、その……ぼくが、その賞の受賞者の一人に選ばれたからだよ」
混乱しながらも、スーが答えた。
「なんだって、それ本当かい? すごいじゃないかリム!」
猿芝居だ。
だが、そのわざとらしい芝居のおかげで、スーは我々一行と正式に接点ができた。
「ウルテマル様、ご紹介します。こっちはぼくの親友で、今回の受賞者の一人。リム・ヨン・スーです。リム、こちらはぼくの主人で、賞の協賛者、マーカム財団のウルテマル・ヤマダ・マーカム様だ」
「や、やあ、どうも」
「いえ、こちらこそ……」
二人はぎこちない握手を交わし、それからゼノンを見た。ゼノンは涼しい顔で肩をすくめ、周囲に聞こえるような大声で提案をした。
「そうだ、ウルテマル様。リム……いえ、スー先生とご一緒させていただくというのはいかがでしょう? 彼は博学で楽しい男ですから、きっと楽しい旅になりますよ。私もいろいろと話したいことがありますし……もちろん、仕事に支障はきたしませんので、どうか一緒に行動することをお許しください」
「あ、ああ。それは構わないが……」
ウルテマルは、リムの顔を見た。リムは困惑したようすで小さくうなずいた。
「じゃあ、決まりですね!」
わざとらしく、ゼノンが満面の笑みで飛び跳ねた。
一体、なにを考えているのやら。
見かねた私が真相を尋ねようとゼノンに近寄ると、ゼノンも自然に歩み寄り、私の耳元でささやいた。
「……シュナイダーさん、気をつけてください。どうやら、この船はいたるところに監視カメラが設置されているようです。予想したよりも、かなり厳重な体制みたいなので、こちらも、一芝居打ってリムとできるだけ離れないようにしておきます。もう少し、ゆるくても大丈夫かなと思っていたんですが……ちょっと読みが甘かったようですね。でもまあ、これでリムもウルテマルさんも、守りやすい環境になったと思います。ですから、シュナイダーさんもそのつもりで警護をお願いします。ああ、それから、もうひとつ。周囲のカメラを探そうと、あまりキョロキョロしないでくださいね。不自然な動きは怪しまれるんで」
いままさに、キョロキョロしようとしていた私は、あわてて首を固定した。うっ。ムチウチになりそうだ。
首筋をさすっていると、ゼノンがうつむきながら、再び小声でささやいてきた。
「ぼくは、上陸までのあいだに少しやっておきたいことがありますから、それが終わるまで、二人の警護をお願いします。じゃ、そういうことで、あとよろしく、シュナイダーさん」
いうなり、ゼノンは招待客の集まるラウンジに消えた。
そして、特別客船「ラ・ムー号」に揺られること、6時間。
ゼノンは、ほぼすべてのゲストと仲良くなっていた。




