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未来探偵ゼノンと七つの事件  作者: 八海宵一
「05 スピーダの猟犬」
44/47

#05

     *


「やー、リム。リム・ヨン・スーじゃないか!」

 特別客船に乗船するなり、ゼノンが大きな声でいった。

「え、え、え?」

 打ち合わせにない突然の行動にスーは混乱し、体を硬直させていたが、ゼノンはお構いなしに話を続けた。

「やだなー。忘れたのかい? ぼくだよ、ぼく。ゼノン・クリノだよ。アカデミーで一緒だったゼノンだ」

 そういってゼノンは、スーに近づき、背中をなれなれしく叩いた。

「アカデミー一の秀才で、宇宙熊と格闘したことのある親友を、きみは忘れたっていうのかい?」

 絶対、テキトーな話だ。

 だが、スーはなにかを察したらしく、話をあわせはじめた。

「やあ、ゼノン。ゼノンじゃないか! 久しぶりだな!」

「ああ、本当に久しぶりだ。しかし、それはそうと、きみ、一体、こんなところでなにやってるんだ? ここは、グレート・スカラー賞祝賀会の関係者しか乗っていないはずだぞ?」

「ああ、それは……つまり、その……ぼくが、その賞の受賞者の一人に選ばれたからだよ」

 混乱しながらも、スーが答えた。

「なんだって、それ本当かい? すごいじゃないかリム!」

 猿芝居だ。

 だが、そのわざとらしい芝居のおかげで、スーは我々一行と正式に接点ができた。

「ウルテマル様、ご紹介します。こっちはぼくの親友で、今回の受賞者の一人。リム・ヨン・スーです。リム、こちらはぼくの主人で、賞の協賛者、マーカム財団のウルテマル・ヤマダ・マーカム様だ」

「や、やあ、どうも」

「いえ、こちらこそ……」

 二人はぎこちない握手を交わし、それからゼノンを見た。ゼノンは涼しい顔で肩をすくめ、周囲に聞こえるような大声で提案をした。

「そうだ、ウルテマル様。リム……いえ、スー先生とご一緒させていただくというのはいかがでしょう? 彼は博学で楽しい男ですから、きっと楽しい旅になりますよ。私もいろいろと話したいことがありますし……もちろん、仕事に支障はきたしませんので、どうか一緒に行動することをお許しください」

「あ、ああ。それは構わないが……」

 ウルテマルは、リムの顔を見た。リムは困惑したようすで小さくうなずいた。

「じゃあ、決まりですね!」

 わざとらしく、ゼノンが満面の笑みで飛び跳ねた。

 一体、なにを考えているのやら。

 見かねた私が真相を尋ねようとゼノンに近寄ると、ゼノンも自然に歩み寄り、私の耳元でささやいた。

「……シュナイダーさん、気をつけてください。どうやら、この船はいたるところに監視カメラが設置されているようです。予想したよりも、かなり厳重な体制みたいなので、こちらも、一芝居打ってリムとできるだけ離れないようにしておきます。もう少し、ゆるくても大丈夫かなと思っていたんですが……ちょっと読みが甘かったようですね。でもまあ、これでリムもウルテマルさんも、守りやすい環境になったと思います。ですから、シュナイダーさんもそのつもりで警護をお願いします。ああ、それから、もうひとつ。周囲のカメラを探そうと、あまりキョロキョロしないでくださいね。不自然な動きは怪しまれるんで」

 いままさに、キョロキョロしようとしていた私は、あわてて首を固定した。うっ。ムチウチになりそうだ。

 首筋をさすっていると、ゼノンがうつむきながら、再び小声でささやいてきた。

「ぼくは、上陸までのあいだに少しやっておきたいことがありますから、それが終わるまで、二人の警護をお願いします。じゃ、そういうことで、あとよろしく、シュナイダーさん」

 いうなり、ゼノンは招待客の集まるラウンジに消えた。

 そして、特別客船「ラ・ムー号」に揺られること、6時間。

 ゼノンは、ほぼすべてのゲストと仲良くなっていた。

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