#01
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ハア、ハア、ハア。
青年の肺と心臓は、悲鳴をあげていた。
背後から迫り来る銀色の影から逃れるため、鬱蒼とした森のなかを懸命に駆けていたからだった。いくつもの蔦や木の根が絡みつき、途中、転びかけ、四つん這いになりながらも、なりふりかまわず、青年はそのまま、逃げ続けた。
奥に追いやられている!?
木の間を縫いながら、その状況に気づいた彼は、苦しい胸がさらに締めつけられた。このままではいけない。そう思った瞬間、目の前に窪地があらわれた。
「うわあああああ!」
前傾姿勢のまま落ちこんだ青年は恐怖のあまり顔を引きつらせ、叫び声をあげた。
ヴルルルルルゥ……。
牙をむきだし、目を怪しく光らせた獣が窪地のふちに立ち、その姿をあらわした。
銀毛のアンドロメダ・シェパード。
「お、おまえは、やっぱり、スピーダ卿の……」
だが、言葉はそこで途切れた。
アンドロメダ・シェパードが、凄まじい跳躍力で跳びかかり、青年の喉笛を捕らえたからだ。
恐怖と激痛。青年は声にならない声で絶叫した。
すると、その刹那、どういうわけか銀の魔犬は急に襲うのをやめ、天空に向かって、「オオーン!」と鳴きだした。
それは勝利の雄たけびというよりも、青年の絶叫に応えるような遠吠えだった。
やがて、遠吠えを終えた魔犬はふたたび襲いだし、すごい勢いで青年の腸を喰らいはじめた。




