#12
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「いやー。助かりましたよ、シュナイダーさん」
事件の後処理をボッシュに任せた私たちは、にぎやかな沿道を駅に向かって歩いているところだった。人の多い沿道を歩くのは大変だったが、ゼノンはスイスイと縫うように人をかわし、出店を冷やかしている。
「あのまま、ボッシュ警部補に捜査されてたら、完全に無実の罪で捕まってましたよ」
「いや、まあ……」
私は曖昧に返事をした。同じ警察として、それを認めるわけにはいかないが、ボッシュならまず間違いなく、ゼノンを逮捕していただろう。
ふつう銃が犯人だなんて、誰も思わない。
私は、自分がボッシュのように駆けつけていたら、どうしていただろうと考え、首を振った。やはり、ボッシュと同じようなことをしたはずだ。
「どうかしましたか、シュナイダーさん? なんだか浮かない顔ですね?」
宇宙リンゴ飴を舐めながら、ゼノンがこちらにやって来た。友人が亡くなったというのに、ペロペロと楽しそうだ。
「あ、わかった。昼ごはん食べ損なったから、おなかが空いてるんですね。いいですよ、ぼく、おごりますよ。なんでも好きなもの言ってください。ご馳走しますから」
はしゃぐゼノンに違和感をおぼえ、私は口を開いた。
「友人がなくなったというのに、随分、楽しそうですね」
「楽しそう? このぼくが?」
リンゴ飴を舐める手を止め、ゼノンが頭をふった。
「とんでもない。ぼくは今、友人の死に直面し、とても悲しんでいるところです」
「いや、その割には、とても楽しそうに、リンゴ飴舐めてるじゃないですか」
私が指さすと、ゼノンは肩をすくめて答えた。
「まあ、それはそれ、これはこれですよ」
なんじゃそら。
呆れていると、ゼノンが説明をつけ加えた。
「悲しい、悲しいといったところで、デュークは返ってきませんからね。そういう感情は、胸の内にしまっておけばいいんですよ」
「はあ」
そんなものだろうか。人の生死に対して、ここまで冷静であるべきだろうか。
「人の死に対して、随分とドライですね」
「そうかな……そうかもしれない。宇宙航海士時代に、たくさんの人の死を見てしまったから、おかしくなっているのかもしれない」
珍しくゼノンが素直にうなずいた。そして、リンゴ飴をふたたび舐めはじめ、私に尋ねてきた。
「ねえ、シュナイダーさん、ぼくが死んだら、悲しんでくれますか?」
「当たり前じゃないですか」
「そうか、それはうれしいな」
ゼノンは、心の底からうれしそうに笑った。
「じゃあ、君が死んだら、ぼくも悲しんであげますよ。墓前にネバネバ納豆サンドもお供えします」
お供えに、ネバネバ納豆サンド……。
想像した私は思わず、首をぶんぶんと振った。
「クリノさん、それだけは絶対にやめてください!」
「どうして?」
「決まってるでしょう……嫌な事件を思い出すからですよ」
私は振りむき、ボッシュのいる港の未来ヨーコ・ヨコハマホテルを見て言った。
「お供えするなら、星雲わた菓子にしてください」
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【追記】
翌日、「未来ヨーコ・ヨコハマ大博覧会」は予定通り開催されたが、「自立思考型電脳回路シロノス」と「分子分解銃」の展示は急遽、中止された。
<了>




