#06
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「銃の性能を証明するため、宇宙鋼板に一発発射し、さらに自殺防止装置があるからといって、彼は自分のこめかみに銃口を当て、引き金を引いたんです。でも防止装置はうまく作動せず、次の瞬間、光線が発射され、悲劇が起こってしまった」
「待ってください。彼が自分に向けて引き金を引いた記録はありませんよ?」
「そこなんです」
ゼノンはうんうんと頷きながら、言った。
「間違いなく、デュークは自分に向けて引き金を引き、光線は発射されている。なのに、トリガーログには記録が残らなかった。ね、よくわからないでしょう?」
ゼノンもボッシュも、すでにトリガーログの閲覧をすませているらしく、鋼板への一発以外、発射記録がないことを知っていた。どうやら、私が来る前にトリガーログを調べ、不自然な記録に頭を悩ませているらしかった。
「わからないことなんて、なにもない。コイツが犯人だ」
黙っていたボッシュが口を開いた。
「コイツがパイソンを射殺し、トリガーログを消した。それだけだ」
「だから、なんでそうなるんだよっ!」
間髪を入れずにゼノンが噛みつく。
「それ以外に、辻褄があわないからだ」
「だから、デュークは自分で自分を撃ったっていってるだろう!」
「トリガーログがない」
「それをいうなら、ぼくが撃ったというログもないじゃないか!」
「それは、お前がハッキングして消したんだ。自殺の場合、自分でログを消すことは出来ないからな」
「バカ言うな、あんな短時間にそんなことできるわけないだろっ!」
時間があればできるのだろうか。
喉まででかかった言葉を飲みこみ、私は尋ねた。
「事件発生から、ボッシュ警部補はどのくらいで到着したんですか?」
「そうだな、三十秒ぐらいといったところだろうか」
「そんなに早く?」
あまりの短時間に驚くと、ボッシュは説明を付け加えた。
「ああ、別件で駆けつけたからな。それで早かったんだ」
「別件というと?」
「あの壁だ」
ボッシュは一部分が黒く焦げた壁を指差した。
「どっかのバカがピコピコ銃を撃って、壁を破壊してくれたおかげで、こっちに通報が入ったんだ。で、駆けつけてみたら、死体の転がっている部屋にコイツがいたってわけだ」
「宇宙鋼板を撃ったときに、光線が貫通して防犯システムを作動させたみたいですね。こっちは気にせずに話を続けていました。で、いろいろな話をしたあと、自殺防止装置の話になって、彼が引き金を引いた直後に、このゴリラがタイミングよく入ってきたってわけです」
壁を焦がしてるんだから、気にしろよ。
私は思ったが口にはしなかった。
鑑識ロボットが分析を終え、算定した死亡推定時刻を確認してみると、デューク・パイソンの死亡は12時5分ごろとなっていた。つまり、ボッシュは12時5分30秒ごろ、突入したことになる。
ゼノンとボッシュの話を整理してみると、こんな感じだろうか。
11時49分ごろ、新型ピコピコ銃の性能を見せるため、宇宙鋼板にパイソン氏が試射。その結果、貫通した光線がホテルの壁を焦がし、防犯システムが作動。警察に連絡が入る。
12時5分ごろ、パイソン氏死亡。ゼノンは銃の自殺防止装置が、うまく作動しなかったことによる事故死と主張。しかし、ボッシュ警部補はその主張を否定。ゼノンが犯行におよんだものとみている。ただし、どちらも裏づけとなるトリガーログは存在しない(ボッシュ説では、ゼノンが証拠のログを削除したとしている)。
12時5分30秒。ボッシュ警部補が現場に到着。部屋にいたゼノンを現行犯で逮捕しようとするが、ボッシュの強引な態度や言動に対し、ゼノンが拒絶。現行犯逮捕の法的根拠をめぐって言い争いが始まる(つまり、グダグダな口ゲンカ)。
そして、12時10分ごろ。ネバネバ納豆サンドの列に並んでいた私に呼び出しがかかる。
こうして考えてみると、確かにゼノンが怪しい。
本当に自殺防止装置は壊れていたのだろうか。
「そもそも、自殺防止装置って、どういう仕組みなんですか?」
「どういうって……トリガーを引いた人間自身が、対象物になっている場合、光線が発射されないんです」
「それだけ?」
「それだけって、簡単に言いますけどね、シュナイダーさん。この装置を実際に組みこむのは、意外と難しいんですよ。だから、いままでのピコピコ銃には導入されなかったんですから」
「なんでそんなに難しいんですか?」
引き金を引いた人間が、対象かどうか判断するだけなら、そう難しいことではないような気がする。現に光線がなにに当たったかを報告するトリガーログ・システムはピコピコ銃の登場と同時に導入されているのだから。
だが、ゼノンは「ちっちっち」と、人差し指を左右にふった。
「なにに当たったのか報告するのは事後判断。なにに当たるのか判断するのは事前予測ですよ」
「だから?」
「処理能力がぜんぜん違います。光線を発射してなにに当たったか確認し、サーバに報告を送るのと、トリガーを引いたらなにに当たるか予測し、光線を発射すべきかどうか判断するのでは、工程に差があります」
「はあ」
いまいち、その凄さが伝わってこない。
「たとえば、服の上から自分にむけて光線を発射したとします。いままでの銃なら、服と引き金を引いた人にあたったという報告だけで終わっていましたが、新型銃は引き金を引いた瞬間に、結果を予測し、発射すべきかどうかを判断します。だから服を貫通し、引き金を引いた人に光線が当たると判断した場合、光線は発射されません」
「ほお」
私は思わず、感心した。
「もしかして、それを数秒の間にするってことですか?」
「零コンマ数秒の間にね」
作った本人でもないのに、ゼノンが得意げな顔をする。
「なるほど。で、そんな複雑な装置だから、うまく作動しなかったと、クリノさんは言いたいわけですね?」
供述を思い出しながら、私が確認すると、ゼノンは首をふった。
「いえ、それは違います」
「?」
「この装置を組みこむにあたって、彼は完璧な装置を開発しました。たしかに引き金を引いた瞬間、膨大な情報を読みこんで判断、処理はしますが、それをカバーするために今回、最新の自立思考型電脳回路「シロノス」を搭載したといっていますし、パイソン社内の発射テストでも問題は見つかってないと聞いています。だから、設計上のミスなどによる事故だとは考えにくいですね」
「じゃあ、どう考えればいいんですか?」
「うーん」
ゼノンは腕を組み、唸った。
「そこなんですよね。どう考えればいいんだろう……いっそ、ピコピコ銃に話が聞ければ、早いのに……ん、話を聞く? そうか! どうして、こんな簡単なことに気づかなかったんだ!」
なにかを思いついたらしく、ゼノンはぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「シュナイダーさん、聞けばいいんですよ!」
「聞く? 誰に?」
「銃、本人に!」
そういって、彼はピコピコ銃を指さした。




