#01
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その日、非番だった私はギンザー区画の空中庭園〈バビロンⅢ〉にいた。
いま流行の“ネバネバ納豆サンド”が食べてみたくなり、新しく出来たカフェ〈ファロス灯台〉の行列に並んでいたからだ。空中庭園のカフェは大盛況で、店先に長蛇の列ができており、昼前から並んだ私はゼノンから借りていた落語の音声データを聞きながら時間をつぶしていた。「マンジュウ・ホラー」「セブンスリベンジ・フォックス」「ヤド・チェンジ」と順調に聞き終え、「ヘビ・フクム・クサ」を聞き始めたとき、胸ポケットのカードフォンが鳴りだした。
嫌な予感を感じディスプレイ表示を見てみると、珍しいことに悪魔上司の名前ではなく、ゼノンの名前が表示されていた。
「もしもし?」
こちらから連絡することはあっても、あまり連絡をもらうことがない相手だ。不思議に思いながら電話にでてみると、繋がったのがうれしかったのかゼノンの弾んだ声が聞こえてきた。
「やー、シュナイダーさん。よくぞ電話に出てくれました!」
「どうしたんです? やけにうれしそうですね?」
「うれしそう? とんでもない! うれしくなんかありませんよ。いま、こっちは大変なんですから」
「大変? 一体、どうしたんですか?」
「とにかく、すぐこっちに来てください。このままだと、ぼく、逮捕されてしまいます!」
「逮捕? クリノさん、なにかしたんですか?」
未来探偵ならなにをしてもおかしくない。実際、捕まるようなことをなにかしたんじゃあ……。
「冗談じゃない。ぼくは無実だ!」
珍しくゼノンが憤慨した。
私は肩をすくめ、行列の先頭を確認しながら答えた。
「わかりました。あー、じゃあ、あと一時間くらいしたらそちらに向かいますので、いまいる場所を教えてください」
「シュタイナーさん!」
「はい?」
「ネバネバ納豆サンドなんて、後回しにして、すぐ、こっちに来てください! 港の未来ヨーコ・ヨコハマホテル二一〇七号室です」
「……」
どこにカメラがあるんだろう。
私はキョロキョロとあたりを見回し、カードフォンを見た。すると、再び、ゼノンの鋭い声が飛んできた。
「いいですね。港の未来ヨーコ・ヨコハマホテルですよ!」




