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未来探偵ゼノンと七つの事件  作者: 八海宵一
「03 複製人間の罠」
27/47

#10

     *


「自殺でしょうか?」

 ユペルたちの死の報せを聞いた私とゼノンは、再び、月面第二基地におもむくため、ナミハヤ宇宙港の定期船乗り場にいた。

「おそらく、そうでしょうね」

 窓の外に浮かぶスペースブルーの定期船を眺めながら、ゼノンが答えた。

 完全複製人間が同時に相手を刺し殺そうと思い、刺し殺す。これを他殺とするのか、自殺とするのか、難しい問題だった。

 以前の私なら、これ以上考えなかったかもしれない。だが、このひと月の間に制定された「準生命体に関わる法律」のせいで、そうもいかなくなった。

 準生命体――自然生命体とは別の手段で発生した人造生命体――においても、一部、自然生命体と同じ、法や制度の適応を認める。これが法律の大まかな内容だった。この一部という逃げ道がなかなか曲者だが、まあ、仕方がないのかもしれない。そもそも、宇宙倫理規定により、禁止され、存在しないはずの準生命に対して法律が作られること自体、妙な話だ(結局、禁忌の研究についても宇宙倫理委員会の判断は曖昧で、なにをしたいのか私にはわからなかった……)。

 ともあれ、ユペルたちはこの法律のおかげで急遽、人間として扱われ、晴れて警察のご厄介になったわけである。

 死亡事件という一番最悪なケースで。

「彼らはなぜ、自殺したんでしょう?」

「さあ」

 ゼノンは広がる宇宙を眺めながら、肩をすくめた。

「ただ、自殺は絶望したときにするものだと思います」

「つまり?」

「彼らは自分たちの人生に絶望したんです。自由のない、監視と実験の続く毎日に嫌気がさしたんだと思います。それともう一つ、これはワグナー所長に確認する必要がありますが、シンクロ率の低下も大きな原因になっているはずです」

「シンクロ率の低下? そんなことが起こってたっていうんですか?」

「おそらくね」

 ゼノンは力強くうなずいた。

「考えても見てくださいよ、シュナイダーさん。一人は人を刺し殺し、一人はそれを制止したんですよ。これほど大きな環境のちがいはないでしょう。共謀していたとはいえ、実際に人を殺すというのは正常な精神において相当な負荷がかかります。時間が経てば経つほど部分的に精神を麻痺させたり、思考を捻じ曲げたりして、平静を保とうとする。シンクロ率の維持なんて無理ですよ」

「そうでしょうか?」

 私が疑問を口にすると、ゼノンは頭をかいた。

「まあ、断言はできませんがね。それを今から調べに行くわけだし。でも、互いに相手を刺したのは、その現れだと思いますよ。自分たちのシンクロ行動に自信がなかったから、彼らはお互いを刺したんだと思います。一方が苦しむ姿を見て、もう一方がなにを思ったのか、そして、二人はなにをしたか、そう考えると、他殺のような自殺もしっくりきませんか?」

「うーむ」

 しっくりくるような、こないような……。

 私が曖昧な顔をしていると、ゼノンは少し残念そうにいった。

「まあ、行って調べることにしましょう。そのほうが確実です」

 定期船の乗船準備が整い、待っていた乗り場の人波が動き出した。私とゼノンがゲートにむかって歩きだすと、黒いコートを着たビジネスマン風の男が近づき、すれ違いざま、捨て台詞のような言葉を吐いた。

「よくもやってくれたな。この代償は高くつくぞ」

 振り向くと男は雑踏のなかに消え、見えなくなっていた。

「いまのは一体……?」

 首をかしげると、ゼノンは頭をふった。

「さあ、なんでしょうね」

 眠そうな目を少しだけ見開いたゼノンは、しばらくの間、黙って男の消えた方を見ていたが、それ以上はなにも言わなかった。

 妙な違和感。

 その違和感は、なかなか消えなかった。

 月面第二基地に着き、ゼノンがユペル事件のすべてを立証しても、私は上の空だった。

 あれは単におかしな男の独り言だったのだろうか。

 それとも――……。

 私は、そのことばかり考えていた。

〈了〉

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