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頼む時は簡単に思える願いがある。
一言。
一本の電話。
ただの助けを求める声。
だが、どんな選択にも必ず代償がある。
その瞬間には見えなくても、確かに存在している。
新しい友情が芽生え、
失われた輝きを取り戻す者がいる一方で、
誰にも見えない場所では静かに影が動いている。
願いの代価は、
それが叶った後になって初めて姿を現すのかもしれない。
翌翌日、午前6時30分。
マヒナはちょうど目を覚まし、髪を整えている最中だった。その時、カイトが彼女の後ろに現れた。まるで彼女がリョウタロウと何を話したのか知っているかのように、少し不安そうな表情を浮かべていた。
「何?」
「昨日、サトウと話した?」
「ええ、話したわ。ちょっと問題を抱えてたみたい。」
「どんな問題?」
「先輩とね。解決してほしいって頼まれたから、解決したの。」
カイトは何かおかしいと感じた。
「コネを使って解決したのか?」
マヒナは一瞬固まった後、慌てて別の答えを考えた。
「ええ、でも危険なコネじゃないわ。」
「誰に連絡したんだ?」カイトは少し声を荒げて尋ねた。
「静かにして。喧嘩でみんなを起こしたくないから。ブラックドラゴンに連絡したの。」
カイトの目は恐怖で大きく見開かれた。彼は謎めいた少女の連絡先リストを何度も読み、その中に「ブラックドラゴン」という人物がいた。彼らが何をしているのかは知らなかったが、彼の気に障る点だった。
「ブラックドラゴンだと!?」カイトはマヒナの肩を掴んだ。「特殊作戦部隊だと!?」
「ええ」マヒナは肩をすくめて言った。「彼らならうまく対処できるわ」
「あのベテラン兵士をどうするつもりなんだ?」
「暴力は使わないように頼んだ」マヒナはそう答えたが、視線を逸らし、重苦しい沈黙が流れた。
カイトは口を開いたが、閉じた。答えは分かっていた。マヒナの考えを変えることはできない。それが時々彼を苛立たせたが、どうすることもできないと分かっていた。
「彼女に何も起こらないことを祈るよ」カイトは壁にもたれかかりながら言った。
「大丈夫、私が保証するわ」マヒナは少し声を落として言った。 ―今日か明日、エルケは二度と佐藤ちゃんと愛子ちゃんを困らせることはないだろう。
その後、二人はドアをノックする音を聞いた。マヒナがドアを開けると、愛子が現れた。指で整えたものの、髪は少し乱れていた。目の下のクマは以前より小さくなったように見え、まだ眠そうではあったが、どこか警戒心のある表情をしていた。
「おはよう、黄金のプリンセス」マヒナは微笑みながら言った。「早起きね」
「他の家だとあまり寝ないの」愛子はあくびをしながら言った。「二人は何を話していたの?」
「佐藤ちゃんが先輩に困っていたの。エルケっていう名前の先輩よ」
この言葉で愛子は完全に目が覚め、嫉妬の表情を浮かべた。
「あの女、私の涼ちゃんに何をしたの?」愛子は氷のように冷たい声で尋ねた。
「要するに、涼ちゃんと寝たかったのよ」マヒナは肩をすくめて言った。 「そんな嫉妬顔しなくてもいいよ。彼が助けを求めてたから、僕が解決したんだ。」
「どうやって?」
「特殊作戦部隊に連絡したんだ」とカイトは肩をすくめて言った。「たぶん、ちょっと脅かしたんだろう。」
「え?特殊作戦部隊?」とアイコは戸惑いながら尋ねた。
「何人かね」とマヒナは肩をすくめて答えた。「大した人じゃないよ。」
「まあ、ちょっと脅かされても仕方ないわね」とアイコは二人にというより、独り言のように呟いた。
しかし、ベテラン兵士のことを心配していたのは一人だけではなかった。紫色の髪の少年も同じように考えていた。
大阪大学。午前8時30分。
リョウタロウはキャンパスに到着したばかりで、すぐに何かに気づいた。エルケのバイクがキャンパスの駐車場にないのだ。物静かな少年は安堵と不安が入り混じったため息をついた。マヒナは何をやらかしたのだろうか?
キャンパスの建物に入ると、医学部の学生たちとすれ違った。涼太郎は「怪我」「黒服の男たち」「ひどく動揺している」といった囁き声を耳にした。しかし、ある一語が彼の背筋を凍らせた。誰かが、彼女の右頬に切り傷があり、まだ血が流れているのを見たと証言したのだ。やがて彼は仲間たち、由美、舞、春樹、真琴を見つけた。秀隆も一緒だった。涼太郎が近づくと、由美が彼に声をかけた。「やあ、涼太郎!聞いた?」
「何を聞いたんだ?」涼太郎は尋ねた。
「エルケよ」舞は腰に手を当てて言った。「医学部を中退したの」
涼太郎の目は少し見開かれた。真比奈。彼はすぐに、あの謎めいた少女に頼んだことを思い出した。「無茶なことはしないでくれ」
「しまった」彼は思った。「きっと何かとんでもないことをしたに違いない」
「どうして?」涼太郎は地面を見つめながら、答えは分かっているのに尋ねた。
「真夜中に黒ずくめの男たちが彼女の家に現れたらしい」とマコトは答えた。「何を言われたかは知らない」
新入生はごくりと唾を飲み込んだ。「彼女に何かあったのか?」と彼は思った。「くそ。残された道は俺が彼女の殺害を命じることだけだ」
「彼女、怪我でもしたのか?」と彼は尋ねた。
「あのね」と春樹は言った。「俺は彼女の家のすぐ近くに住んでいるんだ。もう寝ていたから、叫び声とかは何も聞こえなかった。だから分からない。」
「それで、どうして彼女のことを心配しているの?」と舞はいたずらっぽい笑みを浮かべて尋ねた。「もしかして、彼女に興味があるの?」
「違う!正気か!?」と涼太郎は少し顔を赤らめて叫んだ。「ただ気になっただけだ。」
「まあ、少なくとももう彼女に邪魔されることはなくなるだろう?」と秀隆は気楽そうに笑った。「一つ問題が減ったな。」
「確かに」と彼はため息をついたが、完全に諦めたわけではなかった。
秀隆はしばらく黙って涼太郎を観察していた。静かな涼太郎はそれに気づいた。
「どうしたの?」と彼は少し居心地が悪そうに尋ねた。
「君には独特のオーラがあるね、新入生」と秀隆は言った。 「君は綺麗な顔立ちで、髪もツヤツヤしてるね…」涼太郎は自分の姿、自分の体を見つめ、髪の毛を一本つまんだ。
「そんなこと関係ない…」涼太郎はうつむきながら呟いた。
「関係あるだろ、新入生!」秀隆は指を鳴らしながら言い返した。「いい考えがあるんだ。今日は何か予定ある?」
「いや、どうして?」涼太郎は首を傾げて尋ねた。
「君の写真を撮ろうと思って」秀隆はカメラを手に取りながら答えた。「いいよ、君がよければ」
涼太郎はしばらく床を見つめ、考え込んだ。いい考えかもしれないし、愛子に送るのもいいだろう。しかし、注目されるのはあまり好きではない。殻を破ろうと努力している最中だったので、彼はこう言った。
「いいよ」
「やった!」秀隆は叫んだ。「午後4時にスタジオで会おう。じゃあな!」東京都六本木。同じ時間、愛子の高校。
大阪では重苦しい緊張感が漂う中、六本木高校の廊下はひときわ明るい雰囲気に包まれていた。
愛子の学校では、彼女はまるで光り輝いているかのようだった。金髪の少女の容姿、そして心境の変化に人々はすぐに気づき、口々に語り始めた。
「本当に愛子なの?」
「すごく輝いてる!髪もすごく綺麗!」
「ちょっと羨ましい。」
愛子は皆に笑顔で優しく手を振った。その笑顔はもはや作り笑いではなく、心からの、偽りのない笑顔だった。隣を歩いていた美香と綾瀬はそれに気づき、嬉しそうに微笑んだ。少し後ろにいた悠太、潤、ナタリア、そしてヒロも嬉しそうだった。
悠太、潤、ナタリアはそれぞれの教室へ向かい、愛子、美香、綾瀬は一緒に記念写真を撮りに行った。ヒロは教室へ向かうことにした。いつもの席、ミカの隣に座って本を手に取った。3分ほど経った頃、誰かがくしゃくしゃになった紙を首の後ろに投げつけた。振り返ると、背が高くて力の強い3人の少年が笑いをこらえているのが見えた。ヒロはため息をつき、読書に戻った。すると、またくしゃくしゃになった紙が投げつけられ、机の上に落ちた。ヒロはそれを広げてみると、こう書かれていた。「特別支援学校へ帰れ、変人!」
ヒロは目を見開いたが、反応したくなかった。再び紙をくしゃくしゃにして脇に置いた。しかし、また3枚のくしゃくしゃになった紙が飛んできて、今度は笑い声が聞こえた。自閉症の少年は本の端をぎゅっと握りしめたが、すぐにそのうちの一人がこう言った。「反応するのかしないのか、変人め!」
一瞬、ヒロは立ち上がってその男の顔面を殴りつけたい衝動に駆られた。しかし、そんなことはできないと分かっていた。目が焼けるように痛く、思わず目をぎゅっと閉じた。その時、戸口から怒鳴り声が聞こえた。「お前ら3人!」
ヒロが目を開けると、ミカ、アヤセ、アイコがいた。3人とも苛立った表情をしていたが、ミカだけが本当に激怒していた。彼女の叫び声を聞き、ドアのところに3人が立っているのを見て、3人は顔面蒼白になった。
ミカは5歩で部屋を横切り、怒りに燃える目で3人の前で立ち止まった。
「よく聞きなさい」と、リーダーの顔に指を突きつけながら、彼女は唸るように言った。「もう一度ヒロにちょっかいを出したら、あんたたちの指を全部引きちぎって喉に突っ込んでやるからね!分かった?!」
「分かりました!」と、3人は敬礼しながら答えた。
「ふん」と、彼女はそれだけ言った。そして、ヒロに近づき、甘い声で尋ねた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ…」ヒロは、ミカの反応に少し戸惑いながらも、かすかに微笑んで囁いた。 「そんなことしなくてもよかったのに、ミカさん。私…自分で何とかできますから。」
「そんなことないわ。私はあなたの友達でしょ?」ミカは優しく微笑みながら囁いた。「私…不快にさせちゃった?」
「ちょっとね。」
「ごめんなさい。私…時々、つい…自制心を失ってしまうの。」
ミカはヒロの髪を撫でた。相変わらず優しい笑顔を浮かべているが、少し罪悪感も感じさせる。ヒロは顔を赤らめて微笑んだ。先生が教室に入ってきて、席に着いた。同じく席に着いた綾瀬と愛子はそれに気づき、意味ありげな視線を交わした。
「これが恋じゃなかったら、何なの?」綾瀬はウインクしながら囁いた。
「もし二人が結ばれなかったら、嘘よ。」愛子はくすくす笑いながら囁いた。
大阪大学。写真スタジオ、午後4時。
スタジオはかなり広く、ライトスタンドが3つ、白いインフィニティバック、モデル用の椅子、衣装が入った小さなキャビネット、そして3台のコンピューターが置かれたテーブルがあった。亮太郎が中に入ると、秀隆が椅子の一つに座っているのを見つけた。新入生の姿を見ると、亮太郎はいつものように笑顔を浮かべ、「やあ、新入生!ちょうどいい時間に来たね!」と言った。
「時間厳守だよ、秀隆」と亮太郎は肩をすくめて言い返した。
「へっ、相変わらず謙虚だな。さあ、写真を撮ろう」
亮太郎はインフィニティバックの後ろに陣取り、秀隆はすぐに撮影を始めた。亮太郎は真剣でクールな表情から、親しみやすくリラックスした表情まで、数え切れないほどのポーズを取り、表情を変えた。物静かな少年は、本人は認めようとしないものの、とても写真写りが良かった。秀隆はそれを最大限に利用した。少年はフラッシュの光で目がくらみそうになった。
ある時、秀隆は少し考え込み、亮太郎を疑わしげに見つめた。そしてついに、ある考えが浮かんだ。
「そうだ!」秀隆は叫んだ。「もう少し自然なことをしようよ。」
「どういうこと?」と涼太郎は戸惑いながら尋ねた。
「新入生、シャツを脱いでくれ。」
涼太郎はたちまち顔を赤らめた。一体どこからそんな考えが出てきたんだ?!
『黒桜』を読んでいただき、ありがとうございます。
今回の物語では、いくつもの出来事が同時に進みました。
大切な友人を守るために行動した真陽菜。
少しずつ距離を縮めていく美香と宏。
そして、新しい環境の中で少しずつ成長している涼太郎。
この章では、
「誰かを守ること」と
「その人のために全てを決めること」の違いについても描きたいと思いました。
善意から始まった行動であっても、結果まで思い通りになるとは限りません。
そして涼太郎に関しては……
大学生活よりも、カメラの前に立つ方が大変かもしれませんね。
それでは、また次の章でお会いしましょう。




