月と深淵の間
絵を見た愛子は、驚きのあまり少し目を見開いた。亮太郎は顔を真っ赤にして目をそらし、少女の顔を見るのが怖かった。美香と綾瀬も絵をよく見ようと近づいた。絵には、愛子がいたずらっぽい笑顔でウインクしながら手を振って別れを告げている姿が描かれていた。輝くような笑顔の少女は首をかしげ、少し頬を赤らめながら囁いた。
「…これ、初めて見る…」
「ああ、恥ずかしいよ」亮太郎は声が震えながら言った。「それに、すごく変だ。僕…これ、外そうかな…」
「だめ、外さないで」愛子は亮太郎が紙を破ろうとする前に彼の手を掴んだ。「…すごく綺麗。気に入ったわ」
「愛子?マジかよ?」亮太郎は信じられないといった様子で言った。「気に入ったのか?」
「気に入ったわ!本当に!」愛子は笑顔で言い返した。「あんな格好をする自分なんて想像もできなかった。でも、今なら想像できる。でも、恥ずかしさで死にそう」
その時、亮太郎の頭に、バニーガール姿の愛子が腕を押さえ、恥ずかしさで顔が爆発しそうなほど真っ赤になっている姿が浮かんだ。その光景に、普段は物静かな亮太郎も少し恥ずかしくなったが、同時に隠しきれない小さな、間抜けな笑みがこぼれた。
「ん?亮ちゃん?」また空想にふけっている亮太郎を見て、愛子が声をかけた。「何考えてるの?」
「愛子?何でもないよ」亮太郎は何度か瞬きをしながら答えた。
「想像してたでしょ?」愛子はいたずらっぽい笑みを浮かべて尋ねた。
「そうかもね」亮太郎はニヤリと笑った。
愛子はくすくす笑った。それから、愛子はそっと亮太郎の肩に頭を預け、うさぎ姿の愛子の絵をもう一度見つめた。静かな少年は彼女をそっと引き寄せた。
「こっちにおいで」と愛子は尋ねた。「どうして私がうさぎ姿の絵を思いついたの?」
「まあ…突然ね」亮太郎は囁いた。「Pinterestのフィードをスクロールしていたら、あの衣装を着たキャラクターの絵を見つけたんだ。それで、そのイメージが頭に浮かんだんだよ」
「ふーん」と彼女は言った。「もしかしたら、いつか私も着るかも…」
「やめてくれ」亮太郎は即座に反論した。「少なくとも…人前ではだめだ」
愛子は顔を上げ、いたずらっぽい笑みが以前よりもさらに強く浮かんだ。
「人前ではダメ?」と彼女は挑発的に首を傾げた。「じゃあ、二人きりならいいの?」
「愛子!?」「えーと」と、亮太郎は自分の仕掛けた罠に不意を突かれ、思わず叫んだ。
「じゃあ、亮太郎さん。お誕生日はいつですか?」
「えっと…八月十一日…」
「じゃあ、八月十一日には特別なプレゼントを用意しておこう」
そのたった一言で、亮太郎の脳はオーバーロード状態になった。情報量が多すぎたのだ。あっという間に、愛子が言うところの「ブルースクリーン」状態になり、目は大きく見開かれ、焦点がぼやけ、口は少し開き、頭は後ろに傾いた。恋人が完全に固まってしまったのを見て、愛子はくすくす笑い始めた。美香と綾瀬も少し抑え気味に笑ったが、それでも笑いが止まらなかった。
「もしもし、地球さん、亮ちゃん」と愛子は亮太郎の顔の近くで指を鳴らしながら尋ねた。「誰かいますか?」
亮太郎はまだショックから立ち直れず、何も答えなかった。
「あの子、凍り付いたんじゃない?」綾瀬は笑いをこらえながら言った。
美香はただ頷き、頬を伝う涙を拭った。すると愛子は亮太郎の耳元に近づき、囁いた。「ねえ、ベルベットみたいなのがいいと思ってたの。黒、あなたの好きな色。それに、ここに小さなリボンをつけて…」
それが決定打だった。亮太郎の頭は既に混乱状態だったが、今や完全にショートしてしまった。物静かな少年は崩れ落ち、愛子の膝に頭を預けた。少女は驚きながらもくすくす笑い、亮太郎の紫色の髪を撫で始めた。
「愛子、絶対彼を殺したわね」美香は心の中で、もっと控えめに笑った。
「ただ気絶しただけよ」愛子も笑いながら言い返した。「嬉しすぎて気絶したのよ」
意識と失神の間をさまよう亮太郎は、愛子がほのめかしたような、あり得るシナリオを次々と想像した。「冗談だろ」と亮太郎は思った。「この黒鬼、佐藤亮太郎が、女の子の言葉で打ちのめされるなんて?」愛子の髪を撫でられたことで、彼は我に返った。
「起きたの、愛しい人?」愛子は甘く、悪意のない声で囁いた。
「愛子…」彼は少し眠そうな声で言った。「たぶん。でも、もうその話はしないでくれ」
「冗談よ、ばか」愛子はそう言って身をかがめ、亮太郎のこめかみにキスをした。
「じゃあ…君の言ったことは全部嘘だったの?」
愛子は背を向けてくすくす笑っている友人たちを見て言った。「ねえ…もしそれがあなたの好きなことで、あなたを幸せにするなら、それでいいのよ」
亮太郎は答えようとしたが、四時間目の授業開始のベルが鳴り、彼らは現実へと引き戻された。物静かな少年は顔を上げ、「行かなきゃ」と呟き、立ち上がって愛子に手を差し出した。愛子はそれを受け取り、立ち上がった。こうして一行はそれぞれの教室へと戻っていった。
愛子は美香と綾瀬の後を追う前に、こう尋ねた。「最初のプレゼント、忘れてないよね?」
「もちろん」と亮太郎は答えた。「昼休みに?」
「もちろん」
こうして二人は教室へと向かった。教室に戻る途中、亮太郎は図書館から戻ってきた蓮とばったり出くわした。
「あ!すみません、亮太郎さん」と蓮は頭を下げて言った。「もしよろしければ、授業以外で何をしていたんですか?」
「ちょっと焦っていたんです」と亮太郎は淡々とした声で答えた。「少し授業から抜け出したかったんです。あなたは?」
「ああ、図書館に本を借りてきたところです」と蓮は借りてきた本を掲げながら、滑らかで洗練された声で答えた。「友達とやっている日本語の課題に使うんです」
「なるほど…」
蓮が去ると、亮太郎は教室へと歩き出した。しかし、彼の頭の中は金髪の少年のことでいっぱいだった。何かがおかしい。教室に着くと、先生はまだ来ていなかった。そこで彼は真比奈と夏樹に近づいた。
「星奈」と彼は呼びかけた。「君の助けが必要だ」
「えっ?」真比奈は驚いたふりをして言った。「あら、今日はなんてこと!何なの、佐藤ちゃん?」
「生徒の一人を調べてほしい。桐生蓮だ」
「ああ、あの新進気鋭の生徒ね?彼のことを何を知っておく必要があるの?」
「できる限りのことを」
真比奈はペンキャップをかじりながら眉を上げ、尋ねた。
「どうして私に彼を調べさせたいの?何か危険や混乱を感じたの?」
「ああ…まあ、そんなところだ。彼はどうもおかしい。僕たちのグループや愛子にとって脅威にならないか確かめたいんだ」
「佐藤ちゃん、いつも高潔だね。ずっと尊敬してきたよ。ええ、君のためにやってあげよう」
「ありがとう、星奈」
「でも…代償がある」
「もちろんあるさ、この傭兵め。いくら欲しいんだ?」
「一万円」
亮太郎は息を呑んだ。
「一万円だと!?」と叫んだ。「俺が銀行に見えるか、星奈!?」
「冗談だよ、佐藤ちゃん」と星奈は言い、大げさに笑った。「この仕事は無料でやるけど、お金の代わりに君から情報が欲しいんだ。情報交換ほど公平なものはないだろう?」
「何を知りたいんだ?」
「あの時、君と黄金の姫が桜の木の下にいた時、彼女が君に鳥肌が立つようなことを言ったよね。彼女が俺の耳元で何を言ったのか教えてくれ」
亮太郎は目を見開いた。どうして彼女が知っているんだ? 明らかだ、彼女は彼をスパイしていた。真比奈なら当然そうするだろう。
「これは個人的なことだ」亮太郎は唸った。
「わかったわ」真比奈は肩をすくめて言い返した。「桐生蓮のことは調べるけど、その情報は私の個人的な情報よ。いい?」
亮太郎は我慢の限界に達した。真比奈の説得力は耐え難いほどだった。仕方なくプライドを捨て、ほとんど聞こえないほどの声で囁いた。
「わかった…教えるよ」
「本当?」真比奈はわざとらしく驚いた表情で言った。「あら、なんてサプライズ! さあ、教えてよ」
亮太郎は目を丸くして顎を強く噛み締めたが、真比奈の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「愛子が…誕生日に特別なプレゼントを用意してくれたって。何か形のあるもの。バニーガールのコスチュームだよ」
真比奈は少し驚いたように指先を口元に当て、いたずらっぽい表情で満面の笑みを浮かべながら亮太郎を見つめた。
「まあ、黄金の姫君にこんな大胆な一面があったなんて、誰が想像したでしょう?」真比奈は再び大げさに笑いながら言った。「でも大丈夫よ、佐藤ちゃん。この情報は私が厳重に保管しておくから。あなたの情報については…四十八時間待っていれば、日本のアリアーノに関する完全な資料があなたの机の上に置いてあるわ。夏樹、さっそく書き始めて」
「は、はい、真比奈先生!」少女はそう言ってメモ帳を手に取り、稲妻のような速さで書き始めた。
先生がやって来て、会話は中断された。亮太郎は自分の席に戻り、真比奈に最後にもう一度視線を送った。真比奈は彼にウインクした。四時間目の授業はあまりにもゆっくりと過ぎていき、亮太郎は危うくまた授業から抜け出しそうになった。先生の話は何も頭に残らず、興味も引かなかった。
ついに、休み時間のベルが鳴った。亮太郎は真っ先にロッカーからプレゼントをつかみ、急いで屋上へと登った。愛子はまだ来ていなかった。待っている間、亮太郎は不安そうにうろうろと歩き回っていた。その時、水たまりに気づいた。水面に映る自分の姿を見てみたところ、彼はあることに気づいた。
水面に映っていたのは、赤いスウェットシャツを着て、輝く瞳をした今の亮太郎ではなかった。それは、色褪せた黒いスウェットシャツを着て、濁った瞳をした「黒い幽霊」だった。彼の姿に映る世界さえも、灰色で死んでいるように見えた。亮太郎はそれを見た瞬間、息を呑んだ。一歩後ずさり、再び見てみると、彼はまだそこにいた。
「ここで何をしているんだ?」亮太郎は尋ねた。
「本当に俺を消せたと思ったのか?」彼の分身は言った。
「俺は…もうお前じゃない。俺の頭から出て行け」
「あの少女…本当に彼女がお前の味方でいると思っているのか?」
「そう思うよ」と、亮太郎は突然、はっきりとした口調で言った。「彼女は良くなった。すごくね」。そして、もう二度と世界を灰色に見ることはないだろう。
「お前はすっかり世間知らずになったな。目を覚ませ、佐藤亮太郎!お前の『友達』は偽物だ。自分の利益のため、恩義のため、あるいは一時の感謝のために、お前とつるんでいるだけだ。みんなお前から離れていく。人気者の女の子に至っては……お前の心を傷つけるのは時間の問題だ。もしかしたら、あの桐生蓮と浮気するかもしれないぞ」
鏡の中の自分が歪んだ、悪意に満ちた笑みを浮かべ、亮太郎の呼吸を速めた。どれだけ否定しても、疑念は消えなかった。鏡の中の自分は続けた。
「考えてみろ、亮太郎。光と影は正反対だ。『正反対のものが惹かれ合う』なんて、ただのロマンチックな戯言だって、お前も知っているだろう」
「黙れ……」亮太郎はどもった。
「影は影としか混ざり合わない。光は他の光としか混ざらない。それは君とあの甘やかされたガキには共通点がない。君も彼女もそれを知っている」
「そんなはずない…」
「この話の結末は分かっているだろう。彼女は君を辱め、皆は君を笑いものにし、君を見捨てる。そして最後には、また君と僕だけになる。いつものように」
屋上のドアが開く音に、亮太郎は飛び上がった。愛子が来たのだ。少女は少し息を切らし、まるでマラソンを走り終えたかのように膝をついていた。亮太郎が動揺しているのを見て、彼女の輝くような笑顔が少し曇った。
「亮ちゃん?大丈夫?」彼女は心配そうに尋ねた。「動揺しているみたいだけど」
亮太郎は再び自分の姿を鏡で見た。黒い幽霊は消え、いつもの自分の姿だけが映っていた。彼は一瞬ためらい、胸に手を当てて速い呼吸を感じた。そして深呼吸をして言った。
「大丈夫だ。なんだか…まだ不安なんです」
「座りますか?」愛子は心配そうに尋ねた。「顔色がとても悪いですよ」
「いいえ、大丈夫です。あなたは…最初のプレゼントを受け取りますか?」
愛子の顔がぱっと明るくなった。
「喜んで!」愛子は笑顔で叫んだ。
二人は低い欄干に腰掛け、亮太郎はごくりと唾を飲み込み、愛子の顔を見るのをためらいながら最初のプレゼントを手渡した。少女は包みを丁寧に受け取り、絹の布に指を滑らせた。
「開けてもいいですか?」彼女は尋ねた。
「もちろん」亮太郎は微笑みながら答えた。
愛子はリボンをほどき、絹の包みを開けた。黒い額縁を見た瞬間、彼女の心臓は高鳴り始めた。しかし、中身を見た途端、心臓は飛び出しそうになった。
額縁の中には、スケッチ風に描かれた彼女の肖像画があった。それはまるで幽玄な姿で、るろうに剣心と同じ線画スタイルで描かれていた。愛子はあの独特の仕草で首を傾げ、黒と金の混ざった髪が滝のように肩と背中に流れ落ち、瞳は二つの星のように輝いていた。彼女は家でも学校でもなかった。月明かりに照らされた緑豊かな野原にいて、流れ星が夜空を横切っていた。そして右上隅には、万年筆で完璧な筆跡で書かれた献辞があった。
『私の世界に光と色彩をもたらしてくれた神谷薫へ。高根愛子より。緋村剣心より、佐藤亮太郎』
しばらくの間、誰も何も言わなかった。愛子は息を整えるのに数秒かかり、指先がかすかに震えた。亮太郎はごくりと唾を飲み込み、ためらいがちに囁いた。
「…気に入った?」
一方、中庭では、蓮が屋上を注意深く見つめていた。彼は携帯電話を取り出し、匿名の番号にメッセージを送った。
蓮:あの娘が僕と話してくれない。
???:自分で解決しろ、蓮。お前はいつもそうしてきたじゃないか。何でもかんでも俺たちに解決させろとは言うな。
蓮:頼んでない。自分で解決する。不死川のために。
ご読了ありがとうございました。
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