2-33.立ち止まる人には
今回も舞視点です。
雨宮さんのおかしな行動に、その場にいた誰もが動けずにいた。
数秒の沈黙。最初に口を開いたのは、銃を向けられている本人。
「お、おい!いきなり銃を向けるな!」
焦った様子の龍之介さんが叫んだ。
いきなりの事で固まっていたが、その声で我に帰る。
未道さんと大葉さんは、筒裏さんを後ろに隠し矛先が向かないようにじっとしている。
わたしはというと、どうするべきか迷っていた。正直、2人のどちらもあんまり信じられない。
内心そう思いつつも、この場をどうにかするのが先だと思い雨宮さんを諌める。
「雨宮さん、何を怒っているかわかりませんが、とりあえず銃を下ろしてもらえますか?」
「…分からないの?こいつのせいで、神代結を助けるのが難しくなったのよ?」
「それはどういう…」
「……はぁ…あなたが2人の人間を捕まえたとする。そのうち1人が逃げ出したら、あなたならどうする?」
「えっと…捕まえに行くと思います…」
「考えなしならそうして両方逃すわね。けどその前に、残った方が逃げないようにするとは思わないの?」
「あっ…」
「こいつのせいで、残った方…あの子が逃げられないように、監視が強化されているでしょうね。それだけじゃなく、私達が来ると予想して警備を増やされたりしたら、助けるのがさらに難しくなる。…本当に余計なことをしてくれたわ。」
龍之介さんが筒裏さんを連れてきた時、わたしは浮かれていた。
筒裏さんが無事だった事が嬉しくて、助けられたから結さんもなんとかなる…そう思っていた。
でも、それは甘かった。彼女の言う通りになったら、結さんを助ける事ができなくなるかもしれない。
龍之介さんもそれに気づいたのか、落ち込んでいる。
「…お、俺はせめて何かしたくて…それでその子を…」
「そうやって自己満足できてよかったわね。残った方は殺されるかもしれないと考えないの?」
「っ!俺は…!」
「黙ってなさい。これ以上話すことはないわ。待たせたわね、移動するわよ。」
「…わかりました。真那は僕が背負って行きます。なので、敵が出た際はお願いします。」
「ええ。私が先行して、排除しておく。あなたたちは、後からついてきなさい。」
未道さんがシャッターを開くと、雨宮さんは先に行ってしまった。
残ったわたし達も、すぐに後を追う…つもりだったけれど、雨宮さんが飛び降りていたのを見て足踏みしてしまった。
どうやら薬局は1階にあるようで、彼女を追うため1階の出口に移動する。…けれど、龍之介さんは座ったまま動かない。
その姿はとても小さく見える。彼にして見れば、良かれと思ってやったことが裏目に出た。
しかもそれが、助けたかった人を危険に晒している。…少し、気の毒だとは思う。けど…
「…ずっとそうしているつもりですか?」
「……なあ舞。俺はどうしたらよかったんだ?毎度毎度、俺が何かすれば結のやつに迷惑をかける…俺はあいつの力になりたいだけなのに…」
「真壁さん。あなた、本当にカッコ悪いですね。」
「なっ!」
それ以上にわたしは怒っていた。
彼が裏切っていたことに関しては、仕方ないと思える。蔓木さんの能力でそうなったのだから。
でも、全部を許せるわけじゃない。ずっと一緒にいた結さんよりも、初対面の人を信じると言ったり。彼女が貶されている時、何もしなかったのは許せない。
それに今の態度。雨宮さんも、こんな姿を見せられたから責めるのをやめたのだろう。…本当に情けない。
「さっき雨宮さんに言われたばかりなのに、またそうやって自分を慰めて自己満足する。本当に結さんを助けたいんですか?」
「あ、当たり前だろ!?」
「じゃあなんで座っているんですか!!結さんは今、危険な状態なんですよ!?それなのに、ウジウジと…しっかりしてください!」
「!…けど、俺が行ったって…また何かして迷惑かけるかもしれない。だったらいっそ、何もしない方が…なあ、舞もそう思うだろ…?」
「…はぁ…本当に軽蔑します。もう勝手にしてください、真壁さん。」
「…………」
…内心では彼に期待していたのに、裏切られた。彼なら立ち上がってきてくれると思っていたのに…
けど、これ以上何を言っても無駄だろう。それに今は時間がない。すぐに追わないと、雨宮さんを見失ってしまう。
彼に見切りをつけ、先にいた人たちを追う…その時だ。
「彼をこのままにしておくと、後悔するわよ。」
「え?」
どこからかそんな声が聞こえた。思わず立ち止まり、辺りを見る。
その声は今日、シアターで聞いた声。その時と同じで、声だけ聞こえ周りに誰もいない。
…気のせい?いや、確かに聞こえた。前と同じ女の人の声。一体どこから…いやそれよりも…
わたしはもう一度、彼を見る。…未だに座ったまま地面を見つめ、動こうとしない。
「………」
…このまま彼を置いて行ったら、もう立ち直れない気がする。
真壁さん…龍之介さんに、わたしは何度か助けられた。頼りになりそうなことを言うのに、実際は頼りない人。
怪物だらけのこの場所で、仲間だと言える数少ない人。彼がいなくなったら、結さんは悲しむだろうか。少なくとも、喜ぶとは思えない。
…そうだ。結さんだったらこんな時、彼を見捨てたりしない。なんとか立ち直らせて、一緒に行こうと言うと思う。
どんな人でも助ける、そんな彼女の姿がは本当にかっこ良くて…憧れた。わたしも、あんなふうに誰かのためになりたいって。
ため息をつき、彼へと歩み寄る。
近くで立ち止まると、こちらに気づいたのか顔を上げる。
…今にも泣きそうなのに、自責の念で泣けない。…その表情には覚えがある。
石塚君に酷い扱いを受け、何も信じられなくなって…結さんを傷つけた。
その時わたしと同じ顔だ。…後悔に押しつぶされて動けない。何かしたくても、怖くてどうすることもできない。
見えない鎖が、全身に巻き付いて地面に縛り付けてくる。きっと彼もそうなのだろう。けど、どうすればいいかなんて、すぐに思いつかない。
…だからわたしは、
「えぇいっ!」
「ッ!痛ってぇ!いきなへぶっ!ちょやぶへっ!まっぶう!」
思いっきり引っ叩いた。力一杯、何度も。その度に小気味いい音が、響き渡る。
彼が後悔しているのは十分わかっている。今必要なのは、やったことに対する罰だ。
失敗したのに誰にも責められない。それはある意味、怒られるよりも辛いこと。
失敗したとわかっているのに、それをどう受け止めればいいか分からず前に進めなくなる。
だからわたし、しっかりと怒ってあげる。彼がもう一度立ち上がれるように、罰を与える。…多少、私怨が混ざっている気がするけれど…
とにかく叩き続けていたが、彼が何も言わなくなったところで我に帰る。両頬が真っ赤に膨れて、タコのようだ。
思ったよりも楽しくて、やりすぎたかもしれない。でもここで謝ったらダメだ。…謝ったら、ただ虐めたような気がしてしまう。
冷や汗を拭い、できるだけ平静を装いつつ話す。
「は、反省しましたか?」
「ひゃい…ひゅみまへんへしひゃ…」
「!…ふ…くっ…!」
真っ赤な頬。それに膨れっ面で話す人なんて今まで見た事がない。
そのせいか、彼を見るたび吹き出しそうになる。いや、やったのはわたしなのだけれど…
これ以上見ていると、絶対に吹き出してしまう。わたしはそっぽをむき、肩を振るわせながら彼に手を差し出す。
「…っ!ぷく…そ、それなら…早く立って…ぷぷっ…行きますよっ!」
「ふぁい…ひゃいがひょうな…」
「ぶふぅっ!!」
ようやく立ち上がった彼の手を引き、必死に笑いを堪えながらみんなの後を追った。
上手くできた自信はないけれど、わたしも結さんのよう誰かを助けられたことが誇らしく思える。
そんなわたし達の姿を見て、誰かが微笑んでいる気がした。
気温が落ちてきたからか、執筆しやすくなってきました。
できれば9月中には2章を描き終えたい。
モチベーションになりますので、感想コメント、いいね、評価お待ちしております。
下の星もお願いします。




