2-32.わずかな希望
今回も、舞視点です。
夜。怪物が退治された後に、再び雨宮さんが現れた。
わたし達の沈んだ雰囲気を察してか、ため息をついている。
それをわたし達3人は、黙って受け止める。彼女が来るまで話し合っていたけれど、何も進展しなかった。
「その様子だと、なんの手立ても浮かばなかったようね。」
「…すみません。でも、もうどうしようもないんです。それに、2人が生きているかどうか…」
「その事だけど、蔓木から連絡があったわ。ひとまず、2人は生きている。向こうで預かっているそうよ。」
「っ本当ですか!?」
「ええ。…居場所が分かったのはいいけれど、人質に取られているのは変わらない。状況は何も変わっていないわ。」
その事実に、その場にいる全員が俯く。誰も何も言えず、沈黙が続く。
その状況をなんとか変えるため、案を出そうとするけれど、何も浮かばない。
浮かんだとしても、現実的でないものばかり。どうしても、実行できそうなものが浮かばない。
頼りたくはないはないけれど、雨宮さんの力を借りようにも、彼女は脅されているから手を出せない。
本当に手詰まりだ。口には出さないけれど、この場にいる全員がわかっていた。
「…もう諦めるしかないのかもしれません。」
だからか、未道さんがそうつぶやいた。本当に無意識だったのだろう。
けれど、そのつぶやきを聞いた雨宮さんが、すぐさま彼を締め上げていた。
「そもそも、お前があの子をちゃんと見ておかないから!取引しておいてこの様か!」
「僕は止めました!それでも彼女は出ていったんだ!そもそも…原因は雪原さんじゃないですか!どうして僕が…!」
「っ!…ごめんなさい…」
「あっ…いえ…その…すみません…。」
「…。」
もう分かっている。2人を助け出すのは不可能だ。
一番可能性があるのは、交渉して返してもらうことだけれど、すでに拒否されていた。
当然だ。だって、こちらから差し出せるものがなにもない。むしろ、今攻められないだけマシなのだろう。
交渉ができない以上、直接乗り込んで取り戻すしかないのだけれど、それこそ不可能だ。
全員が何も言えずにいた時、ずっと黙っていた大葉さんが口を開いた。
「鈴蘭。こうなった以上、もう上階に上がるべきなのかもしれない。」
大葉さんの突然の提案に驚いた。
もう手がない以上、ここに残ってもできることはない。
それなら上階に行って、脱出する方法を探した方が賢明だ。
…ただ、
「…そうしたら、行けるのは僕と君、それと雨宮さんだけだ。」
そう、わたしはついていけない。
上階に上がるための扉は、Gフォンがないと開かない。わたしのGフォンは今は蔓木さんのところにある。
つまりこの提案は、結さんと筒裏さんを見捨てるだけでなく、わたしも見捨てる提案だ。
何か言わないと。このままだと、わたしだけここに置いていかれる。
「大葉君。悪いけど、その提案には乗れない。」
わたしの心配とは裏腹に、未道さんは断っていた。
「…やっぱり、今の君はそう答えるよね。」
「うん。最初の頃なら、すぐに上階に上がったと思う。…でも今は、そう思えない。まだ諦めきれないんだ。」
「本当に君は、彼女のことが好きなんだね。」
「っ!そ、そんなじゃないよ!それを言ったら、君だってそうじゃないか!」
「僕のは家族愛とかのだから、君とは違うよ?」
「僕だってそうだよっ!!」
わたしは知らなかったけれど、筒裏さんは本当好かれているようだ。
彼女とは、わたしも少しだけ話した。落ち込んでいるわたしを気遣ってくれる優しい人だった。他の人にも、そうやって寄り添ってくれているのだと思う。
そんな彼女だからこそ、未道さんも諦めきれずにいるのだろう。…わたしも、結さんを諦めきれないからか気持ちがわかる。
「…無駄話はそれくらいにして。それで、助ける方法は浮かんだの?」
「実を言うと、1つあります。」
「え?!あるんですか!?」
今まで話をしていても、ずっと手はないと言っていたから驚いた。
大葉さんも驚いているのをみると、彼も知らなかったようだ。
「ええ。ただ、2人の位置がわからないので、できればやりたくないんですが…雨宮さん、頼んだ物は準備できてますか?」
「私が使っている薬局に置いてある。数もそれなりに用意できている。」
「そうですか!…2人とも、僕の作戦聞いてくれますか?」
「はい、聞かせてください。」「もちろん。」
「僕の作戦、それはーー」
未道さんが言いかけたその時だ。
「クソっ、外から開かないのか…おい!誰か、ここを開けてくれないか!」
誰かがシャッターを叩きながら、叫んでいる。
その声に、わたしを除いた全員が銃を取り出して警戒する。
声からして、男の人。切羽詰まっているのか、ひたすら叩き続けている。
3人とも警戒しつつ、シャッターに近づいてすぐに撃てるようにしている。
そんな中、わたしだけは声を聞くことに集中していた。なぜなら…その声に聞き覚えがあったからだ。
この声…まさかと思い、向こう側に声をかける。
「…龍之介さんですか?」
「!舞か?!頼む、ここを開けてくれ!向こうから逃げてきたから、隠れないとまずいんだ!」
…本当に開けるべきだろうか。
最後、彼と別れる時、彼は結さんにひどいことを言う人たちを止めようとせず傍観していた。
その前にも、ずっと一緒にいたわたし達よりも、会ってすぐの蔓木さんを信用して離れていった。
そのことを思い出すと、開けるのをためらってしまう。罠の可能性だってあるのだから。
「!真那!」
未道さんが操作パネルを見て叫んだ。
見てみると、カメラの映像が映っており、そこには…血まみれの筒裏さんをおぶった龍之介さんがいた。
そのことに気づいた未道さんは、すぐにシャッターを開き彼を中へと迎え入れた。
「ぷはぁ…!はぁ…はぁ…ふぅ〜、助かった…」
シャッターが閉まり、もう危険がなくなったと思ったのか、座り込んで一息ついている。
そんな龍之介さんから、ひったくるように筒裏さんを奪い取り安否を確認する未道さん達。
「真那!返事をして!」
…どれだけ声をかけても、反応がない。
側から見てもひどい状態だ。全身血まみれで、髪も乾いた血で固まっている。そんな状態だからか、尋常じゃないほどの異臭がする。
それだけじゃない。目は開いているのに、何も見ていないのか微動だにしない。口も半開きで、口から唾液が滴り落ちている。
筒裏さんそっくりの人形だと言われた方が納得できてしまう。
「どきなさい!」
未道さん達を押し除け、雨宮さんが彼女の容体を確認する。
テキパキと手慣れた様子で確認すると、すぐにわかったことを教えてくれる。
「…ひとまず生きてる。目立った怪我もないし、この血も彼女のものじゃない。命に別状はないでしょう。」
「よ、よかった…」
「反応がないのは、何か薬物を盛られたでしょう…血液検査をしてみないとなんとも言えないわ。ただ、ここには設備がないから…」
「では、薬局に行きましょう!僕がおぶって行きます。申し訳ありませんが、みなさんついて来てもらえますか?」
「悪いけれど、少し待ってなさい。先に確認しておくことがある。」
慌てる未道さんにそう伝える。
すぐにでも行きたいからか、急かすが無視。1人で先に行こうとしているのを、大葉さんに止められている。
しばらくは雨宮さんを説得しようとしていたが、先に行っても雨宮さんがいないと無駄だと理解したからか、渋々待つことに。
「この子を連れてきたあなた。聞きたいことがある。」
「え?なんだ?」
「神代結はどうした?」
その声を聞いて悪寒がした。怒りがこもった低い声。すぐに、彼女が怒っているとわかった。すぐにでも彼を殺しかねないほどの怒気を感じる
でも、わたしも気になっていた。どうして、筒裏さんだけを連れてきたのだろう。わたしの知っている彼なら、結さんを見捨てるとは考えられない。
…もしかしたらすでに…いや、そんなわけない。きっと何か事情があったんだろう。
彼がどう答えるか、少しの不安を感じながら待つ。苦い表情をした彼が、答えずらそうに言った。
「…結は、置いてきた。」
瞬きをした一瞬だった。雨宮さんが、彼の額に銃を突きつけていた。
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