2-31.手詰まり
今回も、雪原舞視点です。
わたしは机を叩きながら、彼に迫った。
結さんを助ける気がない。そのことがどうしても理解できない。
「どうしてですか?!さっきの人にも、助ける方法を考えるって言ってたじゃないですか!?」
「落ち着いてください、順番に説明しますから。」
乗り出しているわたしを諌め、席へ戻らせる。
なんとか落ち着いて彼の話を聞こうとするが、落ち着くことができない。
シェルターのシャッターが開いていたら、飛び出していたかもしれない。
そんなわたしを尻目に彼は話す。
「まず、助けるにしても戦力が足りません。向こうは3、40人。こちらはあなたを入れて…4人です。」
「未道さん、筒裏さん、大葉さん、わたし…あれ、さっきの人を入れたら5人じゃ…」
「あの人は戦力になりません。」
「…それは、戦えなってことですか?」
「いえ、はっきり言ってこのフロアで一番強いのは彼女です。彼女1人でシェルターの人を皆殺しにできるでしょう。」
「それじゃあどうして戦力に入れないんですか?」
「おっと、すみません。下に紙を落としてしまったので拾ってもらえますか?」
「え、はい。」
いきなりなんだろうと、疑問を持ちながらも机の下にもぐる。
言われた通り紙を拾う。ふと、書いてある文字が目に入る。
【彼女は運営に脅されている。】そう書かれていた。
「すみません、その紙返してもらえますか?」
「あっはい、どうぞ。あのそれって」
「ああごめんなさい。これゴミでした、すみませんうっかりしてて。」
「……」
「もう出てきていいですよ?」
言われた通り、席に戻る。渡した紙は、丸めてポケットに入れたようだ。
なんでわざわざこんなことを?よく分からない…
けど、彼女は脅されているから戦力にならない。だから、助けに行けるのは4人だということは分かった。
「ともかく、彼女は戦力ならないので、僕ら4人でどうにかしなくていけません。…できると思いますか?」
「……それは…」
「それにですね…はっきり言って僕は、神代結さんにいい印象を持ってません。あなたならわかりますよね。」
「!それは結さんじゃ…!」
「…確かに、今の彼女は記憶がない。だから過去のことは関係ないかもしれない。けれど戻ったら?」
「も、戻ったとしても、きっとわたし達の味方でいてくれます!」
「以前、記憶が戻った人がいたのですが、その人は戻った記憶に性格が引っ張られていました。もし、結さんもそうだとしたら?僕達の味方じゃなくなるかもしれないですよね。」
「…そ、それは…」
「それに、彼女には別の爆弾がある。不安要素が多すぎるんですよ、彼女は…」
「…でも、結さんは…」
「……結さんを抜きにしても、戦力的に無理です。あなたのGフォンは、僕が取引して手に入れますから。…申し訳ありませんが、結さんのことは諦めて欲しいです。」
結さんを諦める。未道さんの話を聞く限りだと、確かにそれが現実的な選択。
助けたくても、戦力がないのだからどうしようもない…行っても死ぬだけだ。
それにGフォンが戻ってこれば、わたしは外に出ることができる。彼の言う通り、見捨てるのが一番。
…けどわたしは、そんなことを選べるわけがない。わたしは、諦めたくない。
結さんはどんなに不利な状況でも、なんとかしてきた。それなのに、わたしが簡単に諦めていいわけがない。
ずっと足手纏いで、まだ何も返せてない。ずっと頼っているだけ…こんなのは仲間じゃない、友達でもない。友達なら、困っている時に手を差し伸べるはずだ。
だから、今度はわたしが助ける番。どんなに不利な状況でも、必ず助けてみせる。
「あの!」
「…なんですか?」
「わたしはやっぱり」
それを伝えようとした時だ、
「大変だ鈴蘭!真那ちゃんがいない!」
「なんだって!?」
太めの男の人が、息を切らせながらそう伝えてくる。前に筒裏さんが言っていた容姿から、おそらくこの人が大葉さんだろう。
言伝を聞いた未道さんは、慌てて連絡をしているけれど通じない。
何度もかけるが繋がらず、電話をしたまま駆け出した。
「僕は1階から見てまわります!お二人は2、3階をお願いします!」
言われた通りわたしと大葉さんは、手分けして筒裏さんを探したけれど見つからない。
基地内をくまなく探しても、彼女の姿はどこにもなかった。
仕方なく1階へ移動すると、ベンチで項垂れながら、Gフォンを見つめる未道さんがいた。
「どこにもいないし、連絡もつかない……一体どこに…」
「…もしかすると、外かもしれない。」
「いや、シャッターは開いてなかった。外から閉めることはできないから、出たとは思えない…」
「…その…出たのは昨日の夜…なのかもしれない。」
「…どういうことだ大葉君。」
「昨日の夜、見回りした時にシャッターが開いていて…真那ちゃんからメールで、閉めておいてくれって連絡があったから…」
その言葉に、未道さんがすごい剣幕で詰め寄った。
「どうして外にいるかもしれないのに閉めたんだ!!」
「ご、ごめん…真那ちゃんのメールに、開けたけど、閉めるの面倒だからって…いつものイタズラなのかと思って…それで…」
「っ!……すまない大葉君。ひとまず、他の人には伝えないように。聞かれたら体調不良だと言ってほしい。」
「うん、そうする…本当にごめん。できる事があったら言って、協力するから。」
大葉さんは肩を落としながら、トボトボとどこかへ行ってしまった。
未道さんはというと、柱に手をついて動かない。
…わたしはどうすれば…どうにかして、励ました方が…
「真那ちゃん…真那は、この基地の希望なんです。」
「え?」
「彼女はいつも、僕達みんなのために明るく振る舞って、元気をくれました。」
「……」
「そのおかげで、この場所で怪物になる人はいなかった。みんな彼女に支えられていたんです。」
「そう…ですか…」
「もし彼女が死んでしまったら、みんな強いストレスを感じてしまう。そうなったら、全員変異を起こしかねない。…それだけはなんとしても、阻止しないと…」
消え入りそうな声で話す未道さん。…筒裏さんとは少ししか話していないけれど、彼の気持ちはわかる。
結さんに酷いことをして、泣いているわたしに明るく声をかけてくれ、ご飯を持ってきてくれた。
わたしが無視しても、ずっとわたしを元気づけようとしてくれたのを覚えている。
きっと、この基地にいる人たちも、わたしのように立ち上がれなくなっている。そんな人たちに寄り添っていたのだろう。
数十分後、大葉さんが外に探しに向かった。わたしもついて行こうとしたけれど、断られた。その代わり、普段大葉さんがしていることを代わりにやることに。
基地内で引きこもってしまっている人たちに、声をかけて食事を配る。みんな、初対面のわたしを警戒していたけれど、なんとか代わりを務めることができた。
引きこもるだけで、何もしない彼らを疎ましく思う人はいるかもしれない。けど、わたしはそう思わなかった。
…少し前までわたしも、この人たちと同じだったからか気持ちがわかる。辛いことがあって、そをうまく飲み込めず引きずって…進むことができなくなって閉じこっているのだろう。
この人たちに元気を与えていた筒裏さんを、本当に尊敬する。…わたしもアイドルとして、彼らに寄り添ってあげたい。
そうこうしていると、あっという間に時間は過ぎていった。
…結局、筒裏さんは見つからず、雨宮さんと会う時間になってしまった。
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