2-30.言い合い
side:雪原 舞
目を覚ましてすぐため息が出た。
原因は昨日、わたしがした事。友人の首を絞め、妹のことを言ってしまったからだ。
今思い返しても失敗したと思う。そのせいでまた、結さんを傷つけてしまった。去り際の彼女の引き攣った表情と、他人行儀な言葉が頭から離れない。
確かに妹を殺したのは神代結だ。…でもわたしは、その事で彼女を責めるつもりはなかった。だって結さんは…
だというのに、昨日はどうしてあんなことをしてしまったのかわからない。怒りの感情が溢れ出て、止められなかった。
照明が暗いせいか、気分も落ち込んでくる。昨日ここに来てから、一度もここから出ていない。
食事は筒裏さんが持ってきてくれたし、夜は結さんのこともあってずっと泣いていて、いつの間にか眠っていた。
すぐに結さんに謝りに行きたいけど、足が震えて立てない。
…怖い。次に会った時、明確に拒絶されたらどうしよう…そんな不安で、体が震えて動けない。
それに、気を失う前のことを思い出して、情けなくなった。
自分の中でどんなことでもする覚悟を決めたつもりだったのに、実際にそうなったら受け止められない。
気を失って周りに迷惑をかけている。…結局わたしは何も変わっていない。
…このまま、全て見ないふりをして眠り続けていたい。
そうすればもう、傷つかなくてすむ。それが、みんなにとっても一番の選択。
「それでいいの?」
「…え?」
どこからか、女の人の声が聞こえた。…でも、周りには誰もいない。
「ここで逃げ出して、あなたは後悔しない?」
「…絶対にします。」
そうだ、こんなんじゃダメだ。前に、結さんに注射を打ってしまった時と変わらない。
弱気になっちゃだめ。最初からうまくいかないのは、アイドルをやっていた時も同じだった。
何度も、練習して、失敗を重ねたから成功できた。ここも同じだ。一度の失敗で、へこんでいる場合じゃない。
ひとまずここから出て、結さんと話をしよう。それで、わたしが知っていることをちゃんと話そう。
そう決め、出ようとした時にもう一度確認する。
「…やっぱり誰もいない。なんだったんでしょうか…」
誰かの声が聞こえたい気がしたが、見渡した限り誰もいない。
それに今も、視線のようなものを感じる…けれど、姿は見えない。
きっと気のせい、疲れているせいでそう思っているだけ…そう思うことにして、ロビーへと向かった。
「…後少しね。」
ロビーで一番最初に目に入ったのは、フードの人に襟元を締め上げられている未道さんの姿だった。
状況はわからないが、とにかく止めないといけない。フードの人に向かって叫ぶ。
「ちょ、ちょっと何やってるんですか!」
「!っおはようございます。すみません見苦しいところを…この方は」
「…雪原舞…どうしてあなたがここに…」
「えっと、状況はよくわかりませんが、ひとまず未道さんを下ろしてください。」
わたしの言葉で手を離す。尻餅をつきながら、咳き込む未道さんに駆け寄った。
見下ろすようにわたしを見ている。フードのせいで顔がよく見えないが、声からして女の人だ。
…気のせいだろうか、声に聞き覚えがある気がする。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます…僕は大丈夫です。それに今回悪いのは僕なので、彼女に非はありません。」
「え?それはどういう…」
「未道鈴蘭。なぜ、結が出て行った時に連絡しなかった。」
「…すみません。すぐに戻ってくると思っていたので…」
「ちょ、ちょっと待ってください…え、結さんが…出て行ったんですか?」
わたしの質問に、未道さんが答えてくれた。
昨日の夜…わたしのGフォンを取り返すために、蔓木さんの所へ1人で向かったと。…そのことを、わたしには黙っていて欲しいと頼まれたことも。
そして、まだ戻ってきていない。連絡しても繋がらず、未道くん曰く捕まった…もしくは…。
その先を聞く前に、走り出していた。けれど、フードの人に腕を取られてしまった。
「離してください!わたしのせいで結さんが捕まっているんです!助けに行かせてください!」
「あなたが行っても出来ることはないわ。無駄死にしたいの?」
「っ!そ、それでも!何もしないよりはマシです!だから!」
「妹さんと同じように、死にたいの?」
その言葉を聞いた瞬間、頭がカッと熱くなり手が出ていた。
パチンと乾いた音が響く。相手は叩かれても、わたしの腕を離さない。
どうしてこの人は妹のことを知っている?それも妹が亡くなったことまで。
だってそのことは、世間に公表されてない。知られると、妹の病院に人が来そうだったから限られた人にしか話していない。
知っているのは、わたしの関係者か病院の人…それと、治療した人だけだ。
「あなたは誰ですか?どうして妹のことを…」
「……私は雨宮雫。神代結は私が助ける、だからあなたはここでじっとしてなさい。あなたに出来ることはないわ。」
「なっ!なんであなたが決めるんですか!それにその名前、それはあなた名前じゃ!」
「2人ともそこまでです!」
未道さんの声で黙った。
…少し、興奮しすぎた。この人の言った通り、わたしが行っても出来る事は無い。
行ったところで、未だに拳銃も碌に扱えないわたしじゃ、死にに行くだけだろう。
ふと彼女を見ると、気まずそうに視線を逸らした。…向こうも、言いすぎたと思っているのかもしれない。
「…雨宮さん、あなたは結さんを助けに行けないでしょう…忘れたんですか?」
「……誰も殺さなければ問題ない。」
「それが可能なんですか?僕には、不可能のように思えますが。」
「………」
「何か手はないか、考えてみます。今は抑えてください、お願いします。」
「…はぁ、明日まで待つ。決まったら連絡して。」
そう言い残して、去っていった。少し震えているその背からは、悔しさが感じられる。
…去り際にわたしを見ていたけれど、あの人は一体…
「…彼女のこと、気になりますか?」
「はい。だってあの人の名前…あれは…」
「わかってます。説明しますので、こちらへどうぞ。」
未道さんに促され、ソファーに座る。
彼はどこかに連絡していたが、相手が出ないのか諦めたようだ。
Gフォンをおき、一息つくと話し出す。
「さて、話をする前にまず言っておきます。」
「なんですか?」
「…僕は結さんを助けに行くのは反対です。」
「……え?」
予定として、後10話前後で2章が終わります。
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