2-29.調理
今回、ちょいグロ注意です。
彼女の行動はあまりにも猟奇的だった。
なんの躊躇もなく、目も前の生き物を…人間を肉へと変えていく。
時折鼻歌まじっているのは、食料が増えて嬉しいからだろう。自分のやっていることに、疑問を感じていない。
刃が皮膚を裂き、神経や血管、筋肉を切断するたび、切り裂かれている少女は絶叫をあげる。
腹を割いた時には、ピンクの内臓がこぼれ落ち床にぶちまけられた。
邪魔だと切り落とせば、すぐに新しい臓器が再生する。しかし、想像を絶する痛みが彼女を襲った。
薬を生み出すことができる彼女ならば、痛みをなくすことも可能だったろう。しかしそれをしない。
能力を見せるために、酸を生み出した。だからしばらく出せない等と、もっともらしい嘘の言葉を並べる。
嘘をつくのは、きっと聞きたいのだろう。見たいのだろう。
肉を削ぎ落とした時の苦痛の声を。削ぎ落とされた部分を見て、事実と受け止めた時の絶望の表情を。
解体ショーが始まって、まだ30分も経っていない。だというのに、ひどい有様だ。
床には体から流れ出た、大量の血や、胃液、糞尿等の様々な物が散乱し異臭を放っている。
蔓木はその臭いに、困った表情を浮かべながらも解体を続けていく。
彼女にとっては、ただの作業でしかない。それは、切り裂いた肉を嬉しそうに箱に詰めていく様子からもわかる。
自分たちの食料が増えていく。しかも、切った端から再生するので、無限に手に入る。そのことが純粋に、嬉しいようだ。
神代結も、最初は必死に抵抗していた。
切られるたびに悪態をつく。そうやって、僅かながらの抵抗を続けていた。…いや、そうすることで耐えていたのだろう。
けれどそれも、無駄な足掻きでしかない。なぜなら、この調理には終わりがないからだ。
通常の家畜ならば、回収できる量には限りがある。当然のことだ。
しかし、彼女は違った。切った端から再生していくのだ。つまり、何度でも肉が取れる…永遠に。この場において、結の能力は呪いでしかなかった。
そのことに気づいた彼女は、涙を流し抵抗をやめ、命乞いを始めた。
どれだけ体が怪物になろうと、過去に非道な行いがあったとしても、彼女は死にたくなかった。
というよりも、死ぬことができない以上、もう出来ることはそれしかなかった。
これ以上の苦しみは、体は死ななくても、心がもたない。
涙と鼻水で顔を汚しながら必死に媚を売り、なんとか終わらせようとあがいた。…それが、蔓木の調理を加速させるだけだと知らずに。
結局調理が終わる事はない。むしろ、悪化していく。
神代結の無様な命乞いも無意に終わり、体を引き裂かれていく。
腕を切られ、足を切られ、腹を切られ、胸を切られ、耳を切られ、舌を切られた。
常人ならばショック死している。しかし、彼女は死なない。…いや、死ねない。
タチが悪いことに、一部は面白半分で切り落としたのだろう。器に入れることもなく、床に投げ捨てられていた。
身体中のあらゆる部位を切り取られていく。その度に再生し、切り取られるの繰り返し。
常に激痛を感じていたためか、もはや痛みを感じる機能が麻痺し、何も感じなくなっている。
けれど、切られた記憶が彼女の心を傷つけていた。苦痛の記憶が、感情を消していく。
最終的に彼女は声を上げることをやめ、光を失った虚な瞳は虚空を見つ続けていた。
…常人であれば、この光景を見ただけで卒倒するか、発狂して逃げ出すだろう。
人が人を、嬉々として解体している。それも食べるために。聞いただけでも、気分が悪くなるに違いない。
この現場を見ている人が…1人しかいないのが幸いだ。
そう彼女は見ていた。
薬によって体の自由を奪われているが、意識はあり、目の前で行われていることを認識できていた。
筒裏真那はこの現場を、何もできずただ見せられていたのだ。友人が、何度も、何度も、何度も切り裂かれ、叫び声をあげているのを。
それは切り裂かれている彼女と同じで、拷問でしかなかった。
目の前にいて、数歩で届く位置にいるにもかかわらず何もできない。
流れ出た血が、床を伝って顔にかかっても。半開きになっている口に、血が入っても何もできない。
目を閉じることもできず、凄惨な光景を見せられる続ける。悲鳴を上げることもできず、動かない体でそこに横たわることしかできない。
そして、見続けるうちにある考えが、浮かんでしまう。…もし、神代結が死んだらどうなるのか。
取れるものがなくなった彼女を廃棄して、次へと移る。そう、筒裏真那へ。
そう思った瞬間、さっきまでとは違う恐怖が心を、思考を侵食していく。
神代結に重なって、絶叫を上げ、体を切りさかれる自分の姿が見えた。
…結果、すぐに彼女の心は壊れ始めた。
目の前の光景を誤魔化すために、自分の身に起こるかもしれない未来を否定し、ありもしない幻想の世界に逃げ込んだ。
ぬいぐるみが、楽しそうに踊っている。花が歌い、草木が踊っている。
動かないはずの体を動かし、花を手にとる。はちみつに似た、甘い香りが漂っている。
絵本の世界の登場人物になったように、その世界へと逃避する。
けれど、それは仕方ないのかもしれない。
動けず、意思を示せない彼女にとって、そうやって現実から目を背け逃げることが、彼女にできる唯一のことだったのだから。
ただ彼女は知らない。その行いが、自分の首を絞めていることに。
現実と妄想のギャップが激しいほど、正気に戻った時の絶望は深くなる。
そしてそれを繰り返せば繰り返すほど、心はひび割れ壊れていく。
いずれは、現実を否定して妄想の世界に閉じこもることになるだろう。
そうなった時、彼女は本当に人形へと成り下がるだろう。
「ふぅ…これだけあれば、十分ね。」
そう言って血まみれの袖で汗を拭い、刃物を置く。
ワゴンに用意されていた器には、何キロもの肉が積まれている。シェルター全員が食べるには十分な量がそこにはあった。
「ありがとう神代さん。おかげで、今日のご飯は豪勢になりそうだわ♪」
「……………」
「あなた達の食事は後で用意するわね。それと、筒裏さんの薬も。」
「……………」
「もお!話しかけてるのだから、返事して欲しいわ。…まあいいわ。後で、人をやって掃除させるからそれじゃあ。」
「……………」
蔓木の問いに答えるものはいない。仕方がないとため息をつき、ワゴンを持って出て行った。
ばたりと扉が閉じる。
静寂。悪臭が漂う部屋で、言葉を発する人は誰もいない。床は夥しい量の血で満たされており、水たまりを歩いた時のように血が跳ねるだろう。
鎖で繋がれた結は、ぴくりとも動かない。まるで電池が切れたおもちゃのようだ。それは、真那も同様である。
結局残ったのは、壊れた少女が2人。何度も体を切り裂かれた哀れな少女と、妄想の世界へ逃げた人形の少女だけだった。
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