2-26.説得
非常灯のわずかな光を頼りに歩みを進める。
最初は手元も見えず、進むのに苦労したがかなり慣れてきた。
最初Gフォンで照らすことも考えたが、怪物や待ち伏せがいた場合自分の位置を教えることになる。
できれば蔓木さんの姿を見つけるまでは、誰かと会うのは避けたい。
…避けたいんだけど、
「ぴゃぁ!?あ、あそこ誰かいない?!」
「…静かにして欲しいんだけど…」
「あ、あっちなんか赤いのがこっち見てるんですけどぉ!」
「ただのランプじゃん…お願いだか」
「ひっ!今なんか踏んだ!ぐにゅってした!!」
「それあたしの足…」
この様子じゃあ無理だ。見つかりたくないから本当に勘弁してほしい。
…今思うと、龍之介や雪原さんは一緒にいても、邪魔になるような行動をしたことがなかった。
真那ちゃんは一緒にいて明るくはなれるけど、こういったことには不向きだ。
鈴蘭君もきっと苦労したんだろうなぁ。あたしは真那ちゃんの手をとり何とか落ち着かせる。
鈴蘭君に教えてもらったからフードコートの場所はわかってる。このままいけば、後数分で見えてくるはずだ。
蔓木さんと会う前にやることがある。隠れている人がいないかの確認だ。
話している途中、後ろから撃たれたら洒落にならない。そうならないためにも把握しておかないと。
こっちは2人……いや、実質1人か。あたしの腕にしがみついて、震えてるこの子が戦えるとは思えないし。
そうこうしていると、暗闇の中に看板が見えた。アイスの形をした看板、おそらくここがフードコートだろう。
壁際に寄り中を確認する。まばらに椅子と机が並んでいるのを見ると、ここで間違いないようだ。
見える範囲を見渡したが、蔓木さんの姿は見えない。もっと奥にいるのだろうか。
一旦壁から離れる。…暗くてよく見えないが、今見える範囲に隠れている人はいなさそうだ。
仮にいたとしても、この暗さなら相手もこちらを見つけるのは難しいと思う。
ひとまず反対側の入り口を確認して、それで安全が確認できた後に話し合いをしよう。
「ぴゃ!む〜〜?!」
突然、真那ちゃんが声を出したので、思わず口を塞いだ。
そのまま彼女を抱えてフードコートから離れる。…誰も来ないところを見ると、どうやら誰もいないようだ。
もごもごと動いている真那ちゃんを地面に下ろす。どうしよう、もう帰らせようかな。
「はぁ…今度は何?」
「これ!電話きてる!」
「!貸して!」
Gフォンを受け取り、表示を見る。画面には雪原 舞と表示されている。
鳴り続けるGフォンの画面を操作し、電話に出る。
「もしもし。」
『あっ神代さん?そっちも着いたみたいだから連絡したんだけど。』
どうやら見つかっていたようだ。けど、どうやって…
こちらから見える位置にはいなかったはず。それだと、向こうにもこちらは見えない。
もしかしたら、フードコートの外に誰かいたのを見落としたのかもしれない。
けど、見つかった以上は仕方ない、入って話をしよう。電話を切り、店内へ入ることにした。
置いてあるものにぶつからないよう気をつけながら、奥へと進む。
相変わらず暗くよく見えない。それに、真那ちゃんが腕にしがみついているせいで歩きずらい。
今襲われたら何も抵抗できそうにない。そうならないことを祈っておこう。
それと歩いていて気づいたことがある。椅子や机の配置や間取りを見て思ったのだけど、おそらく前にいたフロアとほぼ同じだ。
ここにくる前に、鈴蘭君にこのフロアの地図をを見せてもらったけど、前のフロアとほぼ同じ形だった。
けど、これならいざという時にどこから出ればいいのかわかる、少し安心。
でも油断できない。今も隠れているやつがいないか確認しながら進んでいるが、見えない場所が多い。
依然として不利な状況が続いている。目的を果たしたら、さっさと逃げよう。
警戒しながら進み、中間に差し掛かったところで蔓木さんを見つけた。向こうはこちらに気づいていたようで、手を振っている。
それと、隣に誰か座っている。近づいて、対面まで来た時ようやく誰かわかった…龍之介だ。これは好都合だ。
「こんばんは、神代さん。まずは座って。」
「…いえ、必要なものを受け取ったらすぐに帰ります。」
長話をしに来たわけじゃない。さっさとGフォンを受け取り、彼を連れて立ち去りたい。
そんなあたしとは対象的に、長話でもしたいのか、お茶を飲んで和やかな態度の蔓木さん。渡されたが断った。何が入っているかわかったもんじゃない。
あたしが座るまで話を始めそうにないので、仕方なく座る。真那ちゃんには、すぐに逃げれるよう後ろに立っててもらう。
着席したのを確認すると、ようやく話を始めた。…なんだか肌寒いし、早く戻りたい。
「まずは謝罪させてください。昨日は本当に申し訳ございません。私の仲間が、あなたに酷いことを…」
「そうですか。その時のことは聞いてますが、覚えていないので謝ってもらわなくていいです。」
記憶にないことを謝ってもらっても、何とも答えようがない。
それに、それよりも謝ってほしいことがある。
「それよりも、今日あたしを襲ったことについてはどう説明するつもりですか?」
「…それについては本当に申し訳ありません。一部の物が、自分勝手に動いたようで…」
「勝手にやったから知らないってことですか?」
「いえそんなつもりは!部下を止められなかったのは私の責任でもあります。本当にごめんなさい…」
申し訳なさそうに頭を下げているが、それが本心なのかわからない。
部下の暴走を止めれないだけなのか、それとも狡猾にあたしを殺す画策しているのか判断できない。今の所は黒よりの灰色といった印象だ。
本当に何を考えているのかわからないが、先に受け取らないといけないものがある。
「そんなことよりも、雪原さんのGフォンを返してください。それと、入れてあった鞄も。」
「もちろんよ。はい、どうぞ。」
鞄の中身を確認する。…Gフォンや銃の弾、それに着替えはある。けど、食べ物類やショットガン等がない。
そのことを指摘すると、部下が食べてしまったとのこと。武器も、昨日の戦闘で使って壊してしまったらしい。
…信用できない。その場を取り繕うための嘘にしか聞こえない。
けど、これ以上追求して時間を取られるのは避けたい。Gフォンは返してもらったし、後は龍之介を連れて戻るだけだ。
ただ鈴蘭君が想像していた通りなら、龍之介は洗脳されている可能性がある。何とか龍之介だけと話して、説得しないと。
「荷物の事はもういいです。すみませんが、彼と2人で話をさせてもらえますか?」
「ええ、構いませんよ。では私は少し席を外します。真壁君、終わったら連絡してください。筒裏さん、よかったら私とお話しでもどうですか?」
「はい。」「嫌!どっかいって!!」
「嫌われてしまいましたか…はぁ…」
肩お落としながら去っていった。…随分あっさり引き下がったのは気がかりだけど、今がチャンスだ。
あらためて彼の様子を見てみるが…目立って変わった様子はない。強いていうなら、前よりも静かになった気がする。
「龍之介…この前はごめん。頭ごなしに否定して…」
「気にしてない。…結はまだ、真白のことを疑ってるのか?」
「…うん。龍之介には悪いけど、あの人は信用できない。」
「そうか…少し残念だな。あいつのこともっとちゃんと知れば、その考えも変わるのに。」
「そうなんだ。でもごめん、あたしにはできそうにないよ。」
「はぁ…お前な、もっと他人を信用したらどうだ?真白はよくやってる。シェルターの奴らも、ちゃんと話せばいい奴らだってわかるはずだ。」
「本当に?表面的な部分しか見えてないからそう思うとかじゃなくて?本当に、全部知ってそう思ってるの?」
「当たり前だろ?そういやぁさ、シェルター内で舞がすげぇ人気なんだぜ!知ってたか?それにさぁーーーー」
楽しそうにあったことを話し続ける龍之介。こちらに話かけているはずなのに、こちらを見ていないように感じる。…何だろう、酔っているように見える。
その様子から、鈴蘭君の言った通り洗脳されているように思えてくる。
そんな彼の話を遮って、あたしは質問を続ける。
「じゃあ、そこの人たちがあたしを殺そうとしたことはどうなの?」
「?それはさっき真白が言ってただろ?勝手な連中がいたって。」
「…それで済ますの?仮にも、仲間だった人が狙われたのに?」
「でもよ、無事だったんだしいいじゃねえか。ほら!結は簡単に死なねえだろ?」
目元が熱くなる。こぼれそうになるものをグッと堪え、話を続ける。
「……じゃあシェルターにいる女性が、酷い目にあってることをあなた知ってるの?」
「それもデマだって。シェルター内でもそういう話はあったけど、見たやつはいないし。」
「デマじゃない!!」
後ろにいた真那ちゃんが、机を叩きながら叫んだ。
「さっきから聞いていればあんた何なの!?喧嘩して別れたにしても酷すぎるでしょ!しろっちが殺されかけたのに無事だったからよかったって…本当最低!」
「な、何だよ。初対面でいきなり…お前には関係ないだろ。」
「あるよ!しろっちは真那の友達だもん!その友達に、酷いこと言う奴を無視できるわけないでしょ!!」
「真那ちゃん、もういいから。」
「良くない!こんなクソ野郎でも、しろっちの仲間なんでしょ?だったらわからせてやらないと!」
「く、クソ野郎って俺のことか?」
「他に誰がいんのよ!それに知っているとか言ったくせに、全然理解してないじゃん!そんなんだから、蔓木に騙されるんだよ!」
「はぁ?!俺は騙されてなんかねえよ!」
「じゃあなんで、女の子が酷い目にあってることを知らないの?」
「だからそれはデマだって!」
「あそこの男連中はほとんど関わってたんだよ?隠してるに決まってんじゃん!」
「そんなことする奴らじゃ…」
「ちゃんと調べてそう言ってんの?どうせ、適当に話してわかった気になってたんでしょ?」
「っそ、そんなことはない!俺はちゃんと話して分かってんだ!」
「だったら何でーーー」
「2人ともやめて!」
「「!」」
言い争う2人の間に入り、落ち着かせる。
…話していて分かった。今の龍之介に何を言っても聞いてくれない、都合のいい解釈をして取り合おうとしてない。
これ以上は時間の無駄だ。こうなったら、もう諦めるしかない。…あたしには龍之介は助けられない。
「戻ろう、真那ちゃん。これ以上は無駄だよ。」
「え、でもいいの?こんなんでも、しろっちの仲間だったんでしょ?」
「あたしが殺されかけて、無事だったからいいなんて言うのはもう別人だよ。…もういいの。」
「そっか。しろっちがそう言うならわかった。けど!」
パチンと乾いた音が響く。真那ちゃんが龍之介に平手打ちをした。
「ッ!痛って!何しやがる!」
「真那こいつのこと嫌い!しろっちに酷いこと言った分は、しっかりやらせてもらうね。」
「ありがと。…龍之介、最後だから言っとく。蔓木さんは男の人を洗脳する能力を持ってるらしいよ。」
「…何だって?」
「今の龍之介がどんな状態かわからないけど、洗脳されてないといいね。それ……じゃ…あれ……」
別れを告げて帰ろうとした時だ。
突然体が動かなくなった。石のように固まってしまい、倒れ込んでしまう。
視界の端には同じように倒れて動けない真那ちゃんの姿が映っている。
…何で、どうして動けなくなった?
渡されたお茶は飲んでない。何か打ち込まれた?いやそれなら痛みで気づくはず…
何かされたわけじゃないのに、全身が麻痺して動かない。
「ようやく効いたわね。ん〜、空気中に散布すると効果が出るまで時間がかかるのがネックね。」
「!つ…る……ぎ…」
「あら?まだ、意識があるのね。さすがは神代さん、すごいわぁ〜」
「真白、どうしてだ?ただ話をするだけだって。」
「はぁ…まだ、足りなかったわね。大丈夫よ真壁君。後でちゃんと、説明してあげるから。」
蔓木が誰かに連絡している声が聞こえる。
どうやら応援を呼んで、あたし達を連れて行くつもりらしい。
…それだけはだめだ。ここで捕まったら終わりだ、何をしてでも逃げないと。
けれど、その意識とは裏腹に視界が閉じていく。
もう指1本も動かせない。…だめなのに……ここで捕まったら………
沈んでいくように、意識が暗闇に落ちた。
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