2−27.囚われ
熱でダウンしていて遅れました、すみません。
「ごめん!明日は学校の友達と帰るから、一緒に帰れない!」
学校の帰り道、あたしの唯一の友達が突然そう言い出した。
明日一緒に帰れないと言うことよりも、友達ができたことの方が驚きだ。
「え?学校に友達いたの?」
思わず聞いてしまったけれど、彼女は嬉しそうに話してくる。
「うん!転校生なんだけどね、私のやってることを分かってくれて…それで友達になったの。えへへ…」
「ふーん…」
…ズキリと胸が痛む。
彼女とは小学校の頃からたった1人の友達。彼女がいれば、他に友達がいなくても構わない。むしろいらない。
昔から色々な理由をつけていじめられることが多かった。今のクラスの奴らも、表向きは何もしてこないけれど、裏で何を考えているかわからない。
だから、学校では誰とも話さない。それを苦だと思ったことはないし、むしろ余計な手間が省けて楽だと思っている。
そんなあたしの唯一の友達。学校が違うから、彼女と会えるのは放課後の下校か、休日だけだ。
彼女もあたしと似たようなもので、学校に友達がいなくて1人だと思っていた。
だから、友達ができたと聞いた時は本当に驚いた。それに彼女のことを分かってくれる人が増えて、嬉しいとは思う。
けれど、それ以上にこう思っていた。
ーーそいつ、死ねばいいのに。
中学生の今まで、ずっと彼女のそばにいて支えてきたのはあたしだ。それなのに、どうしてポっと出のやつがあたしの居場所を奪うの?
けれど、その感情は表に出さない。嬉しそうに笑う彼女には伝えない。
この感情は胸の奥にしまって、静かに友人の幸福を祝ってあげよう。だから、その場ではおめでとうと言ってあげる。大丈夫、作り笑いは慣れてるから。
…ああやっぱり、目障りだから早く死んでほしいな。
不治の病にでもかかって、できるだけ惨たらしく死んでほしい。そうすればきっと、前みたいにあたしだけを見てくれる。
…ここに来てから、何度目だろう。また気を失っていた。
気を失っている時に、何かを見た気がするけど思い出せない。…多分記憶だと思うけど、それを思い出すよりもやらなければいけないことがあった。
今いるのはどこかの一室。その場所で、天井から伸びた鎖が両腕につながれており拘束されている。
そのせいで座ることもできず、拘束部分が内出血で黒くなっていた。
最初鎖を引きちぎろうとした。今のあたしなら難しくはない…けれどできなかった。
腕に力が入らない。…いや腕だけじゃない、全身が痺れたようにうごかない。
そこで思い出した。意識を失う直前に蔓木が言っていたことを。…油断した。
麻痺のせいでどうすることもできず、どうしたものかと物思いに耽っていると誰かが入ってきた。
硬いヒールの音が、静かな室内に響く。現れたのは、蔓木だった。
「あら?もう目が覚めてるなんて、思ったよりも薬の効きが悪いのね。」
「あたし、薬を盛られた覚えがないのだけど。何をしたのか聞いてもいい?」
「水溶性の麻痺毒を使ったのよ。加湿器を使ってね。」
「その方法だと、あなたたちも無事では済まないはず…ああ、あのお茶ね。」
「鋭いわね、その通りよ。あなたが私を警戒しているのは知っていたし、私が出したものは飲まないでしょ?」
薄暗かったせいで加湿器に気が付かなかった。少し肌寒いと感じたのはそのせいか。
どうやらあたしは、完全に術中にハマっていたみたいだ。あの場に行った時点で、あたしの負けは確定していた。
だからこそ不思議だ。どうして殺されなかったのだろう。
「そうね…それで?あたしを捕まえて、どうする気なの?」
「んー一応聞くけど、私達の仲間になってって言ったらどうする?」
「お断り。」
「わかってはいたけど、即答されると傷つくわ…」
「こんな目に合わされて仲間になるとでも?」
「ええ、もちろん。あなたは私に協力してくれるわ。」
微笑みを浮かべ、そう言ってのける。
馬鹿のだろうか。ここまでされて、仲間になる人はいない。
その場凌ぎで嘘をつく人はいるかもしれないけど、あたしは嘘でも言いたくない。
だと言うのに、どうしてそこまで自信満々に言えるのだろうか。何かあたしが仲間になる理由でも…
そこでハッとした。
「…真那ちゃんはどこ?」
「やっと思い出したのね。そう、あなたの返答によって彼女がどうなるか決まるの。」
「その言い方だと、まだ生きているのね。よかった。」
「ふふ、安心しているところ悪いけれど、まだ無事に帰すと決まってないわよ?どうなるかは、あなたの返答次第…さあ、どうする?」
…仕方ない。ひとまず、真那ちゃんが無事に戻ることを優先する。
蔓木が、真那ちゃんを帰すとは思えない。何とか隙をついて、真那ちゃんを逃さないといけない。
雪原さんのGフォンは彼女が持っている。ここであたしが捕まっていても、真那ちゃんが戻れば目的は達成できる。
腑が煮え繰り返るほど腹が立つが、今は協力する振りでやり過ごそう。薬が抜けたら鎖を引きちぎって逃げるだけだ。
「…あたしに何をさせたいの。」
「何をさせたいか…ね。ねえ、何をさせられると思う?」
「誰かを殺させるとかそんなことでしょ。」
「いいえ。この先、あなたが人を殺すことはないわ。」
「?それじゃあ、あたしは何を…」
「ここにいる。ただ、それだけよ。」
「……は?」
「ここにいるだけ?それに何の意味があるの?」
「あら、意味ならあるわよ。けどその前に、どうするかの返答をもらえる?」
「まずは真那ちゃんに会わせて。」
「随分仲間思いね。学校で見た時とは大違いね、色々と。」
「それはどういう…いやそれよりも早く会わせて。」
「はいはい。今連れてきてあげるから、おとなしく待っててね。」
面倒そうに出ていった。…ここにいるだけって、一体何のつもりなのかわからない。
敵に回すと厄介だから閉じ込めておくつもり?いや、それなら気を失っている時に殺されている。
目的がわからないからか気味が悪い。じっとしていられなくて、拘束を外そうともがくが金属の擦れる音が鳴るだけだ。
何度も無駄な抵抗を続けているうちに、手首の皮が剥け、腕が赤く染まっていく。
「何をしているの?…はぁ、少しくらいおとなしくできないのかしら。」
「!真那ちゃん!」
「………」
蔓気に連れられて来た彼女は、俯いたままおぼつかない足取りで部屋へと入ってくる。
両手を後ろでに縛られているが、目立った怪我などはない。
けど、様子がおかしい。意識はあるようだが、声をかけても反応しない。
目を開いているが、どこか虚でどこを見ているのかわからない。半開きの口からは、唾液が垂れている。
「その子に何をした!!」
「起きたらうるさいでしょ?だから、ちょっと静かにしておいたの。この状態なら何をしても無反応だから楽なのよ。」
そう言って乱暴に髪を掴んで、顔を上げさせた。何の反応もなく、あたしの方を向いている。
試したかったことができて満足だったのか、手を離すと地面に倒れた。硬い床に鼻を打ちつけたせいで血が流れている。だとというのに、声も上げない。
何をされても無反応。瞬きもせずその場に倒れ込んでいるそれは、まるで等身大の人形だ。
「…あたしが協力したら、その子を元に戻してくれるんでしょうね…!」
「ええいいわ。まあ、あなたに拒否権はないのだけど。それじゃああなたには仕事をしてもらうわね。」
「ここにいればいいんでしょ。…早く出ていって。」
「そうね、少し準備があるから、終わったらまた来るわ。それまで仲良くね。」
どうでもいい、さっさと消えて欲しかった。友達が、物言わぬ人形にされて内心穏やかじゃない。
もし拘束されてなかったら、間違いなく目の前のやつを八つ裂きにしていた。けど、それは叶わない。
…歯痒い。こいつを殺せる力は持っているのに、いざという時には何もできない。
けど必ずチャンスは来る、それまでの辛抱だ。…必ず後悔させてやる。
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