2-22.胸の穴
首が熱い。
さっきまで締め付けられていた箇所が熱を持っている。
きっと跡が残っている。
…けど、これくらいで済んでいる方がおかしい。
だって、あたしはーーーー
「ねえ、舞…教えてよ。あたしは、舞の妹を…」
「………そ…れは…」
言葉に詰まっているのか、俯いたまま何も言ってくれない。
「ずっと知ってたの?それなのに、どうしてあたしと一緒に…」
「……」
黙ったまま何も言ってくれない。
けれど、ようやくわかった。何であたしの記憶が戻るのを嫌がったのか。
知っていたんだ、ずっと…あたしが人殺しだってことを。
それに知っているのは舞だけじゃない。
龍之介、それに雨宮さん…いや、きっとあたしと同じ学校で、記憶がある人はみんな知っている。
ああ…そっか……あたしは、最初から…怪物だったんだ。
内臓を鷲掴みされたような感覚がして、上手く呼吸できない。
今まで自分を支えてきた、人のために頑張ってきた自分のイメージが崩れていく。
あたしには、人を助ける資格がない。…いや、関わることすらおこがましいと思ってしまう。
…鈴蘭君のところに戻ろう。
それで、この先の事を相談しないと…
ここから舞達を無事に脱出させて…それで…
…………その後は?
ここから出た後、きっとあたしの居場所は…
「ま、待って…待って…」
鈴蘭君のところへ戻ろうとするあたしに、舞がすがり寄ってくる。
こちらを見る表情には、焦りと不安が見て取れる。
…何で?何でそんな顔をするの?
分からない…舞が何を考えているのか分からない。
なんであたしに話しかけて…ああそっか。
あたしに死んで欲しいの?
それとも、使い勝手のいい人がいなくなるのが困るのかも。
わからない…舞が何を考えているのか分からない。
そうだ、あたしまだ謝ってない。一緒にいて苦痛だったはず、謝らないと…
それにこれ以上親しくならないように、線引きをしておく必要がある。
「……今まで、ずっと嫌だったんだよね?謝って許される事じゃないってわかってる…本当にごめんなさい…」
「ちが…わたしは…」
「舞……雪原さんが出られるように、どんなことでもあたしが代わりにやります。もし、嫌だったら言ってください…」
「ゆ…いさん…」
「死んでお詫びしたいですけど、どうやったら死ねるか分からないから…本当にすみませんでした…」
そう言って、雪原さんか離れた。
何かを言いたそうにしていたけど、これ以上彼女に不快な思いをしてほしくない。
…今あたしにできることは、彼女をここから出すこと。
雪原さんを残し、シアターを後にした。
シアターを出てからも、気分が悪い。
雪原さんとは、もう以前のような関係には戻れない。全てはあたしが招いたこと…
結局あたしに残ったのは、胸にぽっかりと穴が空いたような喪失感だけだった…
エントランスに戻って、再び会話を始める。
2人とも、あたしを見て何聞いたそうにしていたけど、聞かれる前に話を進めた。
雨宮さんが囮を使って怪物を殺した後、何組かに分かれたらしい。
大人のリーダー…蔓木さんをリーダーとしたグループ。
子供だけのグループ。
そして、誰とも組まずに個人で動く人。この3つに分かれた。
…けれど、個人で動く人は生き残れなかった。雨宮さんを除いて。
「どうして…怪物に殺されたの?」
「それもあります。ですが1番の理由は…人間に殺されたことです。」
「何でまた…個人で動いてる人達が何かしたの?」
「確かに何人かは、問題を起こすこともありました。食料を独占しようとしたり、使えきれない武器を溜め込んだりなど。…ですが、一番の理由はこれです。」
そう言ってGフォンを取り出す。
…そう、これが一番の理由だ。あたしのGフォンにも届いたメール。
そのメールには、ここから出るための条件が書いてある。
記載してある人数を殺すこと。人数はそれぞれ違うが、全員に届いている。
考えれば単純な理由だ。
ずっとここにいるのは嫌だ。
記憶がない中、限りある物資で凌ぐ日々。夜には怪物が出る。
そんな時にこんなメールが来たら、人を殺そうとするかもしれない。
けれどグループで動いている人たちは、同じグループ内の人間を殺せなかった。
もし殺してしまったら、残った人たちによって報復を受けることになる。
でも、脱出するためには誰かを殺さないといけない。
そう考えた時、真っ先に標的になるのは個人で動いている人だ。
食べ物も無限にあるわけじゃないし、怪物が出たとしても協力してくれない。
グループの人達からすれば、そんな行動をする人は身勝手に映る。
だからその人達を殺しても、責める人間はいない。
それに誰かに見られなければ、怪物がやったとでも言える。
だからこのフロアには、個人で動いている人がいない。…他の人が生きるために真っ先に殺されたからだ。
「そのせいで、何人も殺されて…。その時僕等は、蔓木さんのグループにいたので助かりましたが…ひどい有様でした。」
「…何と言えばいいか。」
「気にしないでください。その後の、2日間…3日目までは何事もなく済んでいました。ですが、」
話を聞く限り、一応グループとしてまとまったらしい。
蔓木さんのところが、今でも平穏なのがその証拠だろう。
けど、そこからまた事態が動いた。
「個人で動く人がいなくなり、みんなが協力して何とかしようと…そんな時でした。グループ内で怪物になる人が出たんです。」
…それは最悪だ。そんなことが起こったら、誰も身近の人を信じられなくなる。
協力している人が突然怪物になるかもしれない。
そんな事を知ってしまったら、誰とも一緒に行動できない。
事実、このフロアでもそうなった。
一つにまとまりかけていたのが、再びバラバラになり…そして、出ていくために殺し合いになりかけたそうだ。
…そう、なりかけたのだ。
「どうやって止めたの?止めれると思わないんだけど。」
「あなたにも覚えがあるはずです。」
「え?…あっ!」
「そう、現れたんです。怪物にならずに、人間の姿を保ったままの人…蔓木さんが。」
それが分岐点だった。
そこから蔓木は、怪物にならずに済むことをみんなに伝えて人望を集めた。
それに、変異の影響で人間離れした能力を身につけたおかげで、信頼を得て行ったそうだ。
…けど、その話を聞いて、あたしはどこか納得がいかなかった。
怪物にならずに済んだとはいえ、そんな疑心暗鬼が蔓延っている状態で信頼を得ることができたなんてあり得ない。
最悪真っ先に殺されてもおかしくない。
それなのに、どうしてそこまで周りに信頼されたんだろう。
「それこそが、僕達が蔓木さんの元を離れようと思った原因なんです。」
「え?」
「確かに、蔓木さんはグループ内での信頼も厚く、信じようという人も多くいたとは思います。けれど、蔓木さんが怪物になりかけた時ほとんどの人が彼女を殺そうと言っていたんです。」
「でも、蔓木は生きてるよね?どうして?」
「結さんも気づいていると思いますけど、変異が起こると何かしらの能力を得るみたいなんです。」
「能力…」
あたしの再生能力のことか。
確かに、変異してから身体能力がめちゃくちゃ上がった。
大理石に埋まった柵を引っこ抜けるくらいの怪力がある。
あれ?そう考えると、あたしの能力は身体能力じゃないの?
もしかしたら、あたしみたいに複数身につけている人もいるのかもしれない。
「ええ、僕は集中すると時間がゆっくりと感じられます。真那は、超人的な脚力を身につけていました。…おそらく蔓木は、その能力を使ってグループの人たちを味方につけたんだと思います。」
「あたしが会った時は何も感じなかったけど、洗脳みたいなこと?」
「おそらくは…それも、男性にしか効果がない確率が高いです。」
鈴蘭君曰く、蔓木さんが変異した時は、ほとんどの人が蔓木さんを殺すことに賛成していた。
けれど半日経った頃、グループ内の男性陣が反対し始めた。
そして、1日経った時には男性全員が蔓木のことを信頼していた。
まるで、怪しげな宗教のよう心酔していたそうだ。
鈴蘭君はその変化に気づいて、仲の良かった人に声をかけて逃げた。
真那ちゃんのことがあって信じられなくなっていたのに、突然信じてもいいと思い始めたのもきっかけだったそうだ。
「じゃあ、女性陣は?」
「蔓木のグループは男性比が多いですから、空気に流されてしまったのかもしれません。それに、出て行ったとしても生き残れなかったでしょうから。」
「選択権がなかった…ってことだね。」
「そうだと思います。今もそうなのかもしれません、ですが助けるのは現実的ではないです。」
「………」
…可哀想だとは思う。
でも、連れ出したところであたしに何ができる?
人数が多くなれば動きづらくなる。
それに、連れ出した人達が条件を満たしてなかったら?
その時は、彼女達の分も人を殺さなくてはいけない。
…そこまでのリスクを背負ってまで、あそこにいる子達を助けるべきなの?
いや、そもそもあたしにももうその資格がない。
あたしが考えることはもう一つだけでいい。
雪原さんをここから出すこと。それだけのために行動しないと。
…それぐらいしか、あたしにできる贖罪はないんだから。
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