2-21. わたしの生きる理由 後編 side:雪原 舞
お母さんからの連絡をうけ、帰宅後すぐに病院へ向かった。
病院に着くと、妹の病室へと急いだ。
けれど、そこに妹の姿はなかった。
近くの看護師さんに聞くと、検査室にいると言われ向かった。
様々な機械で検査されている妹の姿を、わたしとお母さんは固唾を飲んで見守る。
検査が終わりしばらくすると、お医者様がお母さんだけを別室へと連れて行った。
…いつもと何か違う。
いつもだったら、その場でどういう症状なのか、入院期間はどのくらいなのかの話をしていた。
でも今回は、わざわざ移動した。
それに、お医者さんの表情がやけに険しかった。
…何かがおかしい。
わたしは気になって、2人の後を追った。
2人が個室へと入って行くのが見え、扉の前へ行き聞き耳を立てる。
「…お母様、落ち着いて聞いてください。お子さんは…ALS。筋萎縮性側索硬化病の疑いがあります。」
「そ、それはどういった病気なのでしょう…」
「体中の筋力が低下していき、少しずつ生活が困難になり…最終的に亡くなられる病気です…」
「そんな!で、でも何か…何か治療法があるんですよね!」
「…残念ですが、この病気の治療法は存在しません。進行を遅らせるのが精一杯でして…」
「……そんな…」
…何を…言って…
妹が…未来がもう、助からない?
そんなはずない。だって、昨日退院した時はすごく元気だった。
それに今後は体も少しずつ良くなっていくって、言っていた。…言っていた…
わたしの聞き間違えかもしれない。そう思いたかったが、部屋からお母さんの嗚咽混じりの声が聞こえる。
きっと本当のことなんだろう。…妹が…いなくなる…
そう考えた時、全身から力がぬけ床にへたり込んでしまった。
わたしの今までは何だったんだろう…今まで頑張ってこれたのは、全部妹がいたからだ。
じゃあこれからは?…わからない。
今はただ…全部が無駄だった。そうとしか考えられなかった。
…帰ろう。今は未来の顔を見ることができない。
レッスンも、今日は休ませてもらおう。…今はただ、何も考えたくない。
ふらついた足取りで、病院から出る。
足元ばかり見ていたせいで、誰かにぶつかってしまった。
「…すみません。」
「は?ねえ、謝るならせめて相手の顔を見たらどうなの?」
相手にそう言われ、顔を上げる。
少し目つきの悪い、オレンジ髪の女の人だ。何だか、すごく睨まれている。
それに、相手を威圧するような雰囲気を感じる。
「はい…すみません…」
妹のことで頭がいっぱいなため、ちゃんと謝罪できたかわからない。
けど、わたしの謝罪を聞いて無言で横を通って行った。
視線がまた地面へと戻る。
…どうしたらいいのか分からない…
帰ろうにも、足が動かない。けれど、戻ることもできない。
……本当にどうすればいいのか……
「いつまでそこに突っ立てんのよ!」
「え…」
後ろから怒鳴られ、振り返る。
さっきわたしがぶつかった人が、不快そうにわたしを見ている。
なぜ怒鳴られたのか分からず、どう返せばいいか迷っていると、何かを渡してきた。
「その辛気臭い顔を見てると、イライラするの。…それあげるから、さっさと家に帰りなさい。」
「え、あはい。分かりました…えっと、その…」
「何?はっきり言ってくれる?」
「えぅ…その、ありがとう…ございます。」
「…お礼なんかいい。あんたを見てると、自分を見てるようで…なんでもない。はぁ…何でこんなことしてるんだろ…」
何か呟きながら、病院に入って行った。
手の中には、真っ黒いパッケージの飴。
あまりに突然の出来事すぎて、何だか気持ちが落ち着いてきた。
それにしても…初対面なのに、ひどいこと言われた気がする。
他校の制服を着ていたけど、あの制服は中学のものだ。ということは、同年代の人だ。
ちょっと威圧感があって怖かったけど、心配?してくれたのかな…
どんな考えがあったかはわからないけど、おかげで少し元気が出た。
また話せるといいな…もらった飴のお返しもしたい。
言われた通り前を向いて、家に帰る。
さっきまで動かなかった足は、何事もなかったように動く。
今は、どうすればいいか分からない。しっかり考えて、答えを出すためにも今日は休もう。
明日また、落ち着いて今後のことを考えよう。
家へ帰る道中、もらった飴を食べた。
「っ〜!か、辛っ!で、でも貰い物を捨てるのは…うぅ…」
ものすごくミントが強くて、涙が出るほど辛かった…これは、初対面の人にあげていいものじゃないと思う。
それからしばらくは、前と変わらずアイドルとしての活動を続けた。
落ち着いて考えた結果、わたしにできることはお金を稼ぐこと。
妹の今後がどうなるか分からないけど、どうするにしてもお金が必要になる。
そのため、休業の話はなかったことになった。
結果としてこの選択は正しかった。
未来の治療費が思ったよりも掛かったからだ。
珍しい病気なため薬も高額だし、入院費も通常より高い。
維持し続けるためには、今まで以上にお金がかかるかもしれない。
妹のためにまたアイドルとして、頑張る道を選んだ。
…ただ、今までほどの熱意を持つことがどうしてもできなかった。
頑張ったところで、妹が治ることはない。
それなのにお金を稼いで、症状を遅らせる意味はあるのだろうか?
引き伸ばしたとしても症状は進行していく。
妹の病気について調べたが、とても苦しい病気だということがわかった。
最初は手に力が入らない程度だけど、いずれは全身が動かなくなり…死んでしまう…
それはとても苦しいものだろう。会話をすることすらできなくなる。
それがわかっているのに、そんな苦しみを妹にさせるのは本当に正しいことなのだろうか?
余命は、持っても5年ほど…その間に薬が出る確率は、限りなく低い。
けど、0ではない。だからこそ、わたしは期待してしまう。
流れ星に祈った願いが叶うように。わずかな希望を持ち続けるために…そうじゃないと、頑張れない。
あの後、妹と会っていない。
両親はどんなふうに説明したのだろう。…家では、誰もその話をしない。
もしかしたら、軽い病気だと嘘をついたのかもしれない。
…わたしには無理だ。今妹と会ったら間違いなく、抱きしめて泣きじゃくる。嘘をつける自信がない。
そんなことを考えていたら会いに行けず、そうでなくても仕事が忙しく時間が作れなかった。
状況が変化したのは、妹が入院して1ヶ月が経った頃。
…両親が失踪した。
レッスンを終え家に帰ると、明かりが消えているにもかかわらず鍵が空いていた。
最初は、早く休もうとして鍵をかけ忘れただけかと思っていた。
…でも、家の中に入って違うとわかった。
部屋の明かりをつけると、驚くべき光景が待っていた。
家の中が荒らされていたのである。
タンスの引き出しが無造作に開けられており、中身がほとんどない。
床には、書類や衣服が散乱しており、泥棒に入られたのかと思ったほどだ。
警察に通報しようとしていた時、机の上にわたし宛の封筒が置かれていた。
両親の字だ。…それを見た時、とても嫌な予感がした。
封筒の中には、紙が一枚。
震える手で、紙を広げ読んだ。
「…何これ…」
そこに書かれていたものを簡潔に説明するなら、こうだ。
妹のために掛けたお金が無駄になってしまい、今までの時間が全て無駄に思えた。
もう疲れたから、自分たちのことは放っておいてほしい…と。
………もう、何も言えなかった。
普通なら、呆れるとか、怒るとか、不満の感情をぶつけるべきかもしれない。
けれどわたしは、そう思えなかった。
…だって、わたしも同じことを考えてしまったから。
だから、両親を責めるつもりはなかった。
ただ、探す気もなかった。
だってそんなことをしている暇はない。
わたしだけは、諦めるわけにはいかない。
ここでわたしまで逃げ出してしまったら…きっと妹は、深い悲しみを味わうことになる。
…そんな思いはさせたくない。
床に散らかった物を片付け、その日は眠った。
…わたしは、絶対に諦めない。
あれから、2年が経った。
高校2年生になったわたしは、前以上に大変な日々を過ごしていた。
あの後、家の管理は祖父母に頼んだ。
まだ子供のわたしじゃ、何かあったときに困ると思ったからだ。
税金などは全てわたしが出すつもりだったけど、ありがたいことに祖父母が払ってくれた。
だからわたしは、給料のほとんどを妹のために使った。
わたしは妹の延命を選んだ。
2年前、妹に両親の事以外を正直に話した。妹にどうしたいか尋ねた。
妹は言った。『生きたい』と…同時に、わたしの重荷にはなりたくないと。
わたしが辛いならやめていい。でも、望めるなら生きたい…そう言った。
どうしてか分からなかった。だって、待っているのは辛いことだけ。助かる確率は、限りなく0。
なのにどうして…それを尋ねた時、妹の言葉でわたしの覚悟が決まった。
「お姉ちゃんが、日本一のアイドルになるのが見たいから。」
その言葉で、わたしは妹の延命を決めた。
妹には必ずなると誓い、アイドルとして今まで頑張り続けた。
…妹は、わたしが重荷に感じるのを心配していたが、それだけは絶対にない。
小さな頃、妹が産まれてすぐ…その小さな手を握った時から、妹はわたしの全てになった。
未来がいないなんて考えられない。未来がいるから、今のわたしがいる。
その時にようやくわかった。わたしは、何があっても未来にいなくなってほしくない。
妹が苦しい思いをしても、わたし自身が頑張るためには妹の存在が必要不可欠だったんだと。
それを自覚した時、絶対に妹を助ける方法を探すと決めた。
…その方法は、2年経った今も見つかってない。
わたしはいつものように仕事終わりに、妹に会いに行った。
ノックをして、病室に入る。
「未来、起きてる?」
「あっお…姉ちゃん…うん…おき…てるよ。」
「今日も遅くにごめんね。体調はどう?」
「ん〜あんま…り…かな…」
ベッドに近づき、そっと手を握る。…硬くて、冷たい。
手足は、すでに麻痺している。
かろうじて会話ができるけど、顔の筋肉が少し固まってしまったためか、上手く喋れないようだ。
その姿があまりにも痛々しくて、目を背けたかったが、未来の前では絶対にしなかった。
妹にそんな姿を見せるのは嫌だったし、恥ずかしいことだと思ったからだ。
…けど、妹のいないところではいつも泣いていた。
何もできない自分に歯痒くて、悔しくて泣いた。
少しずつ弱っていく妹を見ていることしかできない…そんな自分に腹が立った。
その悔しさは全て、仕事にぶつけた。だからだろうか、アイドルとしての人気も上がった。
でも、そんなの全然嬉しくなかった。
どれだけお金を稼いでも、妹は治らない。
…お医者さんの話だと、想像以上に進行が早く、2年持たないかもしれないと…
誰か…妹を助けてください。
お金なら、いくらでも払います。
…関係を持てというなら、従います。
だから…妹を…未来を助けてください…
毎日、祈り続けた。突然現れた人が、ものすごい薬で妹を治してくれる。
そんな、夢みたいなことを毎日願った。でも心のどこかで、そんなことは起こらない…そう思っていた。
「雪原さんですね?妹さんの治療の件で、話があります。」
だからそれが現実になった時、わたしは最後のチャンスだと思い、何も考えずそれに飛びついた。
…それが最悪の結果を招くことになるとも知らずに…
妹の病室を出た時、白衣を着た男にそう言われた。
この病院には長い間通っているが、初めて見る人だ。
細い体に、痩せこけた頬。目の下にはクマがくっきり浮かんでいる。
身分証もつけておらず、怪しさが服を着ているようだ。
けど彼の話は、その怪しさを全て無視してでも聞かなければいけない。
…わたしは、話を聞くことにした。
どう考えても間違った行動。けれど、妹を助けられる可能性があるのなら聞いてみたい。
男についていくと、誰もいない病室へと連れて行かれた。
「ここなら聞かれません。私は雨宮、ALSの治療法を研究しています。それで」
「治療法は!治療法はあるんですか!!」
彼が何かを話し始める前に、わたしは詰め寄った。
聞きたいことはただ一つだけ、妹を助けられるかどうかだけ。他のことなんてどうでもよかった。
「落ち着いてください。まずは話を聞いてくれませんか?」
「あっ…はい…すみません…」
「…治療法ですが、完成はしてません。ですが、可能性はあります。」
「本当ですか!?」
「ええ、ですが問題があるのです。」
「問題…ですか?」
「ええ。薬の効果については保証します。ですが…認可されるのに時間がかかるのです。」
「…つまり…どういうことでしょうか?」
「薬の安全性が認められるまで何年もかかります。つまり、今は使うことができないんです。」
「そんな…それじゃあ、妹は…」
せっかく巡ってきたチャンスだと思っていたのに…
ショックのあまり床に手をついてしまう。
「治験をご存知でしょうか?」
「え?」
「治験。すなわち、検査段階の薬を試して、使用時の副作用や効果の有無を確かめることです。」
「……!もしかして…」
「そうです。私があなたに…妹さんに頼みたいのは、我々が作った薬の治験…被験者にならないかということです。」
まだ、チャンスは消えてなかった。
その治験を利用すれば、妹を助けることができる。
…これを逃せば、もう次はない。
だから、
「受けます。」
「…妹さんに相談をしなくて、よろしいのですか?」
「構いません。これを逃せば、妹は絶対に助かりません…ですから、お願いします!妹を助けてください!」
「わかりました。では準備が整い次第、また連絡します。」
そう言って、連絡先を渡された。
これで妹は助かる。
退院したら、いろいろなところに連れて行ってあげよう。
そうだ!わたしのライブに招待してあげたら喜ぶかもしれない!
それに美味しいものをたくさん食べさせて、もっと元気になってほしい。
それで、いつかお母さんとお父さん…家族4人で幸せに暮らしたい。
これからは、未来も普通の生活ができる。
そんなことを想像して、家に帰った。
…治験から1週間後、妹の…未来の心臓が止まった。
本当に突然止まった。
治療を受けて2日で動けるまで回復した。むしろ、入院する前よりも元気になっていた。
ずっと寝たきりだったはずなのに、平気で走り回れるほどだった。
そして、すぐに退院が決まった。
わたしは入院最終日に妹の病室を訪れ、明日からの話をした。
嬉しそうに話す未来の顔が、とても眩しくて、久しぶりに晴れやかな気持ちだった。
そして面会時間が終わり、帰ろうと扉に手をかけた時だった。
うしろで何かが倒れる音がした。
なんだろう?っと確認しようと体を向けようとするが、動かない。
その時ふと、変な疑問が浮かんだ。
そういえば、妹はどんな治療を受けたんだろう?
わたしは治験を受ける時、内容に関して全く聞いていなかった。
それに、使用される薬に関して何も聞いていない。
妹に、何かの薬を注射しているのを見ただけだ。
どんな効果があるのか?いつ頃治るのか?どんな副作用があるのか?……安全なのか。
どうしてそんなことを考えてしまったのだろう。
それはきっと、なんの疑問も持たずに、知らずに、全てを他人に委ねた結果が後ろに待っているからだ。
背筋が凍る。
降りみて確認しなくていけないのに、自分の中の何かがそれを拒む。
振り向いたら、全てが終わる気がする。
「み、未来?何か倒したの?」
返事はない。
…何も聞こえない。
静かな病室だ。小さな音でも聞こえる。…妹の呼吸音も…
それなのに…今は何も聞こえない。
扉の取手を掴んだまま動けない。
頭が真っ白で、今自分が何をしているのかすら分からない。
我に返った時、わたしは病室前の椅子に座っていた。
いつここに移動したのか覚えてない。
未来の病室が騒がしい。お医者さんの焦った声や、看護師さんが妹に声をかけているのが聞こえる。
…そして、ドラマなどで聞いたことのある音。ぴーっと甲高い音。…心臓が止まった時に流れていた。
今すぐ病室に入って確認しなくてはいけない。
椅子から立ちあがろうとした時、廊下の先を見覚えのある人が歩いている。
わたしはその男の後を追った。
何度も見失いそうになったが、諦めなかった。
妹に何をしたのか、聞かなければいけない。
必死に後を追うと、薄暗い病室に入って行った。
扉に近づき、聞き耳を立てる。
中には、もう1人いるようで何かを話している。
声からして女の人。それも若い、わたしと同じくらい?
ただ、声に感情が感じられない。…まるで機械が喋っているような不気味さを感じる。
「結君、君の予想通りだ。寄生虫が被験者の体を作り変えることには成功したが、それ以上の働きをしてしまっている。」
…寄生虫?
被験者の体を作り変える?一体何の話を…
「そう。制御する方法を考える必要があるわね。」
「できるのかい?」
「できるまでやる。今回はそれなりにデータが取れたから成功ね。」
「そうか、流石は神代 結君だ。たった2年でここまでのものを作り上げるなんて。」
「まだ完成してない。」
「謙虚だねぇ…被験者のサンプルは必要かい?」
「ええ、研究所に運んで。」
「どの程度を?」
「全て。」
「わかった。…あーだが、彼女には姉がいたな。遺体を渡さないかもしれない。」
その言葉で、誰のことを話しているのかわかった。
…妹のことだ。
そして、こいつらが妹にしたことも…
こんな奴らに、妹を渡せない。
「関係ないわ。邪魔するようなら殺せばいい。」
その言葉で、全身が凍りついた。
「あのね…それ処理するの僕らになるんだけど…っ誰だ!」
殺すと言われた時、扉に触れてしまい物音を立ててしまった。
すぐに扉から離れ、逃げ出す。
今の話が何なのかは、まだわかってない。
けど、まともな事じゃないのはわかる。
人間に寄生虫を入れて、何かをしようとしている。
その実験台として、妹が利用された。
…きっと、最初から妹を治す気なんてなかったんだ。
ただ、実験するためのモルモットが欲しかっただけだろう。
そこに、都合がいいのがいたから利用した。
そんなの…絶対に許せない。
わたしだけでなく、妹の気持ちまで踏み躙ってもて遊ばれた。
こんな理不尽が許されていいわけない。
決めた。これを世間に公表しよう。
簡単に人を殺せるような人が、まともな研究をしているわけがない。
だから、このことを伝えればきっと…
…そこで、わたしの意識は途絶えた。
そして今、わたしは妹の仇である…神代 結の首を絞めている。
こいつだけは絶対に生かしておけない。
妹を実験に利用して、殺した。
わたしの全てを奪ったこいつだけは、必ずわたしの手で殺すと決めていた。
…それに、今はもう一つ理由がある。
きっと彼女も、こいつに利用されたに違いない。
わたしを守ってくれた結さん…本当の事を話す事がまだできてない。
これが終わったら、ちゃんと話そう。
今まで話せなかった事を打ち明けて、結さんと仲直りしたい。
…でもその前に、
「妹を殺したお前だけは、許さない…」
「あがぁ…う…ま…い…」
「気安く名前で呼ぶな!」
手に力が入る。
首の筋肉を掻き分け、指が奥へと沈んでいく。
沈むたび、呻き声が漏れ出て…罪悪感が増していく。
…憎い相手だけど、人を殺すことには抵抗がある。
でも、これだけはやり切る。そうじゃないと、妹に申し訳が立たない。
呻き声が小さくなり、掠れた声だけが聞こえる。
口から流れ出た唾液が、手に流れ落ちてきて、その生温かさで相手がまだ生きていると分かる。
けど、呼吸もろくにできない様子から、後少しでこいつは死ぬ。
これで…妹の仇を…
「あなたの仇は本当にその子?」
「え?」
ふと、声がして辺りを見る。
…誰もいない。
っ!突然、頭の中で何かが弾けるような痛みを感じた。
それと同時に、さっきまで溢れていた憎しみが落ち着いてくる。
そのせいで、手から力が抜けしまった。
その時、さっきまで殺そうとしていた人を見て愕然とした。
…だって、そこにいたのは…
「ゲホ!ゲホ!……舞…」
「ち、違う…なんで…わたし、さっきまで…」
ずっとわたしを守ってくれて…
「…ねえ舞…教えて…」
何もできないわたしを助けてくれて…
「あたしは…」
そして、かけがえのない…大切な…
「あなたの…妹を殺したの…?」
大切な友達がそこにいた。
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