表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDEN  狂気と裏切りの楽園  作者: スルメ串 クロベ〜
85/126

2-20.わたしの生きる理由 前編 side:雪原 舞

わたしはとても幸せでした。

優しい両親。

可愛い妹。

そんな家族に囲まれ、とても幸せでした。

…ですが、不運ではありました。


妹はとても可愛い。ですが、とても体が弱かった。

幼少の頃から入院を何度も繰り返す日々。そのせいで学校に行けず、友達もできない。

そんな妹をわたしや、両親はいつも慰めていました。

両親の稼ぎが良かったため、最初のうちは余裕がありました。

ですが、何回も…何年も繰り返すうち、少しずつ余裕がなくなっていきました。


両親にはいつも申し訳なく思っていました。

何か手伝うと言っても断られてしまう。小学4年生ではアルバイトもできない…けど、諦めるわけにはいきません。

近所の新聞屋のおじさんに頼み込んで、何とか手伝いとして雇ってもらい、微々たる金額でしたがお金を得ることができました。

そのお金を使って、妹にぬいぐるみや本を買ってあげると、とても喜んでくれたのを今でも覚えています。


…ですが、それも長く続きませんでした。

わたしを雇っていたおじさんが、近所の子供に手を出し、警察に捕まってしまったからです。

その時最初に思ったのは、お金を稼ぐ手段がなくなってしまった事でした。

それに、黙って新聞の手伝いをしていたことを両親に知られてしまい、同じことができなくなってしまいました。


学校でも相談できず、むしろ先生には目をつけられていたため、友達も減っていきました。

…けど、諦めるわけにはいきませんでした。

両親が大変な思いをして、妹も病気と戦っている…何もしていないのは、わたしだけ…

少しでも、両親の苦労を減らしてあげたい…妹に笑っていてほしい…

それだけが、わたしの願いでした。…だから、子供でもつける職業を探した。


役者、歌手、モデル、作家…なんでもいい…とにかくお金がもらえる物を、がむしゃらに探しまわりました。

そんな時でした。街中で声をかけられました。ーーアイドルにならないかと。


そこからはただ必死でした。

何の経験もない。対して運動ができるわけでもなく、歌が上手いわけでもない。

容姿でスカウトされたのはわかってる。

何も持っていないわたしができるのは、努力…ただ頑張ること。


足から血が出ても、ダンスの練習をした。

同期の子達に泣かれて教室を追い出されても、外で練習した。

喉の奥が切れて、血を吐いても歌の練習をした。

一度やりすぎて、病院に運ばれた。

先生に頼み込んで、学校で作詞、作曲に取り組んだ。

勉強についていくため、睡眠を削った。


全ては両親…そして、妹のために。


ただ自分にできることを続け、努力して身につけていった。

その甲斐あってか、4年後…中学2年生の時に、作詞作曲した曲が初めてオリコンに乗った。

おかげでCMにも起用され、知名度も上がり、それに比例して給料も上がっていった。

妹にそのことを報告すると、


「おめでとう!…お姉ちゃん、すごくかっこいいよ!」


そう言って笑ってくれた。

何度も入院したおかげか、妹の体は良くなってきている。

お医者様の話だと、今回退院したら社会復帰できるまで回復する見込みだ。

そのこともあってか、妹はいつもよりも元気だったのだろう。

その笑顔を見て、わたしはまた頑張ろうと病室を出ようとした時、


「ねえ、お姉ちゃん。…もしかして、わたしのために頑張ってるの?」

「もちろん。お姉ちゃん、未来が元気になれるように頑張るからね。」

「…無理しないでいいんだよ?」

「え?無理なんてしてないよ?ふふ、心配してくれてありがとう。」

「でも、お姉ちゃん…全然楽しそうじゃないよ…」

「そんなこと……あ、れ…」


目の前がにじむ。涙が溢れて止まらない。

楽しいとか、そんなこと考える余裕なんてなかった。

毎日必死で、1分1秒無駄にすることなんてできない。

起きてから、寝るまで、全ての時間を費やして…ようやく、ここまで来れた。

だから、今やっていることが楽しいかなんて、考えたことはなかった。

でも、未来に言われて…考えてみた。


わたしが最後に楽しいと思ったのはいつ?

最後にクラスメイトと、何気ない会話をしたのはいつ?

最後に友達と学校の帰りに遊びにいったり、休日にショッピングにいったりしたのはいつ?

…両親と妹。家族みんなで笑ったのは…いつ?

アイドル。子供の頃、テレビに写っている姿を見て憧れたのを覚えている。

そんな、憧れていたアイドルになった…でも。

わたしは、アイドルをやってて楽しいの?


「お姉ちゃん。もういいんだよ?」

「え?」

「もう、無理しなくていいだよ。わたしは、お父さんや、お母さん。それに大好きなお姉ちゃんがそばにいてくれるだけで幸せなの。」

「でも…お金が…」

「それも大丈夫だよ。補助金が出るから、心配いらない。…だから、ね?もういいんだよ?」

「………でも、だって…」


何か言おうとするけど、言葉が出ない。

そんなわたしを未来が抱きしめてくれる。

…暖かい。妹とこんなふうに触れ合うのも、随分久しぶりだ。


「ありがとう、お姉ちゃん。わたしのために頑張ってくれて…お疲れ様…」

「う…うぅ……うあ…あああ……」


妹の言葉で、今まで頑張って来た事全てが報われた気がした。




そこから、本当の地獄が待っているとも知らずに。









未来が退院して少し経った頃、わたしはマネージャーに休業したいと申し出た。

最初それを聞いたマネージャーは随分慌てていたけど、わたしが妹に言われたことを話すと納得してくれた。

どうやらマネージャーも前から、わたしのことを心配していたそうだ。

今休業するのは痛手だけど、今後に繋がるなら構わないと。


そう休業だ。

未来に言われたこと。妹の入院費を稼ぐためだけにアイドルをやっていたのかと。

そう考えた時、最初はそれだけだと思っていた。

でも、それは違うんじゃないかと思い始めた。


確かに、学校生活はボロボロで、友達もみんな疎遠になってしまった。

毎日必死で、ただお金を稼ぐことに必死になっていた。

けど、何も得るものがなかったわけじゃない。

努力して身につけたものは、自分の中にある。

身につけるために必死になっていた事は、今でも鮮明に思い出せる。

たとえここで辞めたとしても、ずっと自分の中に確かなものとして残り続けてくれる。


仕事で休みがちだった学校に、予定が合い登校した時のこと。

学校の休み時間に、わたしが作った曲が流れた。

改めて聞くと、もっとこうしたほうがーとか、ここは何でこんな風にーとか色々考えてしまう。

もしかしたら、あんまりいい曲じゃないかもしれない。上手くいったのは何かの間違いかもしれない…そんな不安に駆られてしまう。


目を伏せ周りの視線を遮る。…今どんな視線が向けられているんだろう。

下手だって笑われているかもしれない。

所詮は子供が作ったものだって、そんな会話をしているのかもしれない。

結局耐えきれず、席を立ちトイレの個室にこもってしまった。


緊張と不安で吐きそう…

気分が最悪の中、自分の曲が流れ続ける。

…やっぱりわたしなんかが作った物が…どうしても、不安でいっぱいだ。

その時だ、


「ねえ、これってB組の雪原さんが歌ってるんでしょ?」

「っ!」


誰かがトイレで雑談している。

どうやらわたしの曲について話している。

わたしは思わず耳を塞いでしまった。


きっと下手だと思われてる。

単調で、面白味のない曲だと。

そんな評価が怖くて、耳を塞いだ。

けれど、彼女たちの声を遮ってくれない。


「この曲さぁ〜」


やめて…

わたしの努力を否定しないで…


「めっちゃいい曲だよね!」

「…へ?」


聞き間違い…だよね?


「わかる!明るい曲なのに、どこか寂しげがあるっていうか…」

「うんうん。でも最後にそれが無くなって、1個の曲の中に色々な感じが混ざっててグッとくるっていうか〜」


ええっ?!

いえ、そんな気持ち全然込めてません!

明るくポップな感じで、聞いてて気分が盛り上がるような曲です!

確かに、緩急をつけるために要所にすこーし静かな曲調は入れましたけど、寂しげとかそんなの入れた覚えないです!


「すごいよね〜わたしらと同い年でしょ?まじ天才じゃん!」

「本当本当!あっわたし今度サインもらおっかな〜♪」

「えぇ〜!いくら同じ組だからって、それはずるいよ!ねね、わたしも一緒に頼んでよ?ね?」


何でしょう…さっきとは別の意味で教室に戻りたくありません…

それに、サインはマネージャーの許可を取らないと。ああ、でもクラスメイトぐらいなら…

ってそんなこと考えてる場合じゃない!

さっきの曲の感想、それをもっと聞かないと。

自分の想定と違った感想が出ているなら、それを次の曲に生かしたい。

…でも、この人たちの前に出ていくのはちょっと…


「けどさ〜、雪原さんも少しは相談してほしいよね。」

「相談?」

「うん。なんかいっつも切羽詰まってるっていうか、余裕がなさそうなんだよね。」

「まあ、学生でアイドルしてるんだから仕方ないんじゃない?」

「でもクラスメイトじゃん?少しは助けてあげたいじゃん!…けど、声かけると申し訳なさそうに断るんだよね…」

「友達じゃないからなじゃないの?」

「ひどっ!わたしだけじゃないしー!みんなそうだっての!」


そんなふうに思っていてくれたなんて、知らなかった…

いつも断っていたから、てっきり嫌われてしまっていると思っていた。


「だからさ、クラスのみんなで勝手にやってるのよ。」

「なになに?」

「ほら、日直とか掃除当番とか、変わってあげれるやつをね。そのくらいしかできないから。」

「へぇ〜。そうゆうのって、雪原さんも感謝してるんじゃない?」

「そうだといいな〜。雪原さん色々大変だし、応援ぐらいはしてあげないと。クラスのみんな、雪原さんの大ファンだからね!」

「まっ頑張んなさいな。っと予鈴、そろそろ戻ろっと。」

「あっちょ!置いてくなー!」


彼女たちがいなくなったのを確認し、個室から出る。

…知らなかった。クラスのみんながそんな風に思っていてくれたなんて。

心のどこかで、お金を稼ぐために作った曲なんて…そう思っていた。

そんな邪な考えで作ったものは、大した物じゃない。そんな風に考えてしまっていた。

けど違った。わたしのやってきたことは、みんなの心に響いていた。よかった…


もう大丈夫。わたしは、これからも頑張れる。

これからは妹のためだけじゃなく、みんなのために頑張れる。

この先もアイドルとしてやっていける。…わたしを応援してくれる人達が、確かにいるのだから。


「あっ!わたしも授業に行かないと!」


急いで、トイレから出る。

そこで思い出した、次は移動教室だ。

必要なものを抱えて、目的の教室へと向かった。


「あうっ!」


階段を降りている途中で、誰かにぶつかって尻餅をついた。

幸い、相手は倒れずに済んでいた。

相手の服装から、上級生。

緑髪の小柄な女性だ。わたしと同じくらいかな…

華奢な容姿から、怪我をさせてないか心配になった。


「すみません…大丈夫でしたか?」

「…………」


声をかけたが無視され、そのまま行ってしまった。

なんだか、変わった人。ぶつかられても、少しも表情が変わってなかった。

…本当に全く変化がなかった。怒ったり、笑ったり…そういった感情が全く感じられない。

まるで機械に話しかけているような…

あまりにも無表情だったためか、少し寒気がした。


改めて向かおうとした時、わたしの携帯が鳴った。

画面には、『お母さん』の文字。

何だろう?この時間に連絡が来たのは初めてだ。

不思議に思いながら電話に出た。


「もしもし、お母さん?どうかしまし」

『舞!今すぐ帰ってきなさい!』

「えっ…何かあったんですか?」

『あの子が…未来が……病院に運ばれたわ。』

「………………え…」


…お母さんが…何を言っているのか、分からなかった…

モチベーションになりますので、感想コメント、いいね、評価お待ちしております。

下の星もお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ