2-20.わたしの生きる理由 前編 side:雪原 舞
わたしはとても幸せでした。
優しい両親。
可愛い妹。
そんな家族に囲まれ、とても幸せでした。
…ですが、不運ではありました。
妹はとても可愛い。ですが、とても体が弱かった。
幼少の頃から入院を何度も繰り返す日々。そのせいで学校に行けず、友達もできない。
そんな妹をわたしや、両親はいつも慰めていました。
両親の稼ぎが良かったため、最初のうちは余裕がありました。
ですが、何回も…何年も繰り返すうち、少しずつ余裕がなくなっていきました。
両親にはいつも申し訳なく思っていました。
何か手伝うと言っても断られてしまう。小学4年生ではアルバイトもできない…けど、諦めるわけにはいきません。
近所の新聞屋のおじさんに頼み込んで、何とか手伝いとして雇ってもらい、微々たる金額でしたがお金を得ることができました。
そのお金を使って、妹にぬいぐるみや本を買ってあげると、とても喜んでくれたのを今でも覚えています。
…ですが、それも長く続きませんでした。
わたしを雇っていたおじさんが、近所の子供に手を出し、警察に捕まってしまったからです。
その時最初に思ったのは、お金を稼ぐ手段がなくなってしまった事でした。
それに、黙って新聞の手伝いをしていたことを両親に知られてしまい、同じことができなくなってしまいました。
学校でも相談できず、むしろ先生には目をつけられていたため、友達も減っていきました。
…けど、諦めるわけにはいきませんでした。
両親が大変な思いをして、妹も病気と戦っている…何もしていないのは、わたしだけ…
少しでも、両親の苦労を減らしてあげたい…妹に笑っていてほしい…
それだけが、わたしの願いでした。…だから、子供でもつける職業を探した。
役者、歌手、モデル、作家…なんでもいい…とにかくお金がもらえる物を、がむしゃらに探しまわりました。
そんな時でした。街中で声をかけられました。ーーアイドルにならないかと。
そこからはただ必死でした。
何の経験もない。対して運動ができるわけでもなく、歌が上手いわけでもない。
容姿でスカウトされたのはわかってる。
何も持っていないわたしができるのは、努力…ただ頑張ること。
足から血が出ても、ダンスの練習をした。
同期の子達に泣かれて教室を追い出されても、外で練習した。
喉の奥が切れて、血を吐いても歌の練習をした。
一度やりすぎて、病院に運ばれた。
先生に頼み込んで、学校で作詞、作曲に取り組んだ。
勉強についていくため、睡眠を削った。
全ては両親…そして、妹のために。
ただ自分にできることを続け、努力して身につけていった。
その甲斐あってか、4年後…中学2年生の時に、作詞作曲した曲が初めてオリコンに乗った。
おかげでCMにも起用され、知名度も上がり、それに比例して給料も上がっていった。
妹にそのことを報告すると、
「おめでとう!…お姉ちゃん、すごくかっこいいよ!」
そう言って笑ってくれた。
何度も入院したおかげか、妹の体は良くなってきている。
お医者様の話だと、今回退院したら社会復帰できるまで回復する見込みだ。
そのこともあってか、妹はいつもよりも元気だったのだろう。
その笑顔を見て、わたしはまた頑張ろうと病室を出ようとした時、
「ねえ、お姉ちゃん。…もしかして、わたしのために頑張ってるの?」
「もちろん。お姉ちゃん、未来が元気になれるように頑張るからね。」
「…無理しないでいいんだよ?」
「え?無理なんてしてないよ?ふふ、心配してくれてありがとう。」
「でも、お姉ちゃん…全然楽しそうじゃないよ…」
「そんなこと……あ、れ…」
目の前がにじむ。涙が溢れて止まらない。
楽しいとか、そんなこと考える余裕なんてなかった。
毎日必死で、1分1秒無駄にすることなんてできない。
起きてから、寝るまで、全ての時間を費やして…ようやく、ここまで来れた。
だから、今やっていることが楽しいかなんて、考えたことはなかった。
でも、未来に言われて…考えてみた。
わたしが最後に楽しいと思ったのはいつ?
最後にクラスメイトと、何気ない会話をしたのはいつ?
最後に友達と学校の帰りに遊びにいったり、休日にショッピングにいったりしたのはいつ?
…両親と妹。家族みんなで笑ったのは…いつ?
アイドル。子供の頃、テレビに写っている姿を見て憧れたのを覚えている。
そんな、憧れていたアイドルになった…でも。
わたしは、アイドルをやってて楽しいの?
「お姉ちゃん。もういいんだよ?」
「え?」
「もう、無理しなくていいだよ。わたしは、お父さんや、お母さん。それに大好きなお姉ちゃんがそばにいてくれるだけで幸せなの。」
「でも…お金が…」
「それも大丈夫だよ。補助金が出るから、心配いらない。…だから、ね?もういいんだよ?」
「………でも、だって…」
何か言おうとするけど、言葉が出ない。
そんなわたしを未来が抱きしめてくれる。
…暖かい。妹とこんなふうに触れ合うのも、随分久しぶりだ。
「ありがとう、お姉ちゃん。わたしのために頑張ってくれて…お疲れ様…」
「う…うぅ……うあ…あああ……」
妹の言葉で、今まで頑張って来た事全てが報われた気がした。
そこから、本当の地獄が待っているとも知らずに。
未来が退院して少し経った頃、わたしはマネージャーに休業したいと申し出た。
最初それを聞いたマネージャーは随分慌てていたけど、わたしが妹に言われたことを話すと納得してくれた。
どうやらマネージャーも前から、わたしのことを心配していたそうだ。
今休業するのは痛手だけど、今後に繋がるなら構わないと。
そう休業だ。
未来に言われたこと。妹の入院費を稼ぐためだけにアイドルをやっていたのかと。
そう考えた時、最初はそれだけだと思っていた。
でも、それは違うんじゃないかと思い始めた。
確かに、学校生活はボロボロで、友達もみんな疎遠になってしまった。
毎日必死で、ただお金を稼ぐことに必死になっていた。
けど、何も得るものがなかったわけじゃない。
努力して身につけたものは、自分の中にある。
身につけるために必死になっていた事は、今でも鮮明に思い出せる。
たとえここで辞めたとしても、ずっと自分の中に確かなものとして残り続けてくれる。
仕事で休みがちだった学校に、予定が合い登校した時のこと。
学校の休み時間に、わたしが作った曲が流れた。
改めて聞くと、もっとこうしたほうがーとか、ここは何でこんな風にーとか色々考えてしまう。
もしかしたら、あんまりいい曲じゃないかもしれない。上手くいったのは何かの間違いかもしれない…そんな不安に駆られてしまう。
目を伏せ周りの視線を遮る。…今どんな視線が向けられているんだろう。
下手だって笑われているかもしれない。
所詮は子供が作ったものだって、そんな会話をしているのかもしれない。
結局耐えきれず、席を立ちトイレの個室にこもってしまった。
緊張と不安で吐きそう…
気分が最悪の中、自分の曲が流れ続ける。
…やっぱりわたしなんかが作った物が…どうしても、不安でいっぱいだ。
その時だ、
「ねえ、これってB組の雪原さんが歌ってるんでしょ?」
「っ!」
誰かがトイレで雑談している。
どうやらわたしの曲について話している。
わたしは思わず耳を塞いでしまった。
きっと下手だと思われてる。
単調で、面白味のない曲だと。
そんな評価が怖くて、耳を塞いだ。
けれど、彼女たちの声を遮ってくれない。
「この曲さぁ〜」
やめて…
わたしの努力を否定しないで…
「めっちゃいい曲だよね!」
「…へ?」
聞き間違い…だよね?
「わかる!明るい曲なのに、どこか寂しげがあるっていうか…」
「うんうん。でも最後にそれが無くなって、1個の曲の中に色々な感じが混ざっててグッとくるっていうか〜」
ええっ?!
いえ、そんな気持ち全然込めてません!
明るくポップな感じで、聞いてて気分が盛り上がるような曲です!
確かに、緩急をつけるために要所にすこーし静かな曲調は入れましたけど、寂しげとかそんなの入れた覚えないです!
「すごいよね〜わたしらと同い年でしょ?まじ天才じゃん!」
「本当本当!あっわたし今度サインもらおっかな〜♪」
「えぇ〜!いくら同じ組だからって、それはずるいよ!ねね、わたしも一緒に頼んでよ?ね?」
何でしょう…さっきとは別の意味で教室に戻りたくありません…
それに、サインはマネージャーの許可を取らないと。ああ、でもクラスメイトぐらいなら…
ってそんなこと考えてる場合じゃない!
さっきの曲の感想、それをもっと聞かないと。
自分の想定と違った感想が出ているなら、それを次の曲に生かしたい。
…でも、この人たちの前に出ていくのはちょっと…
「けどさ〜、雪原さんも少しは相談してほしいよね。」
「相談?」
「うん。なんかいっつも切羽詰まってるっていうか、余裕がなさそうなんだよね。」
「まあ、学生でアイドルしてるんだから仕方ないんじゃない?」
「でもクラスメイトじゃん?少しは助けてあげたいじゃん!…けど、声かけると申し訳なさそうに断るんだよね…」
「友達じゃないからなじゃないの?」
「ひどっ!わたしだけじゃないしー!みんなそうだっての!」
そんなふうに思っていてくれたなんて、知らなかった…
いつも断っていたから、てっきり嫌われてしまっていると思っていた。
「だからさ、クラスのみんなで勝手にやってるのよ。」
「なになに?」
「ほら、日直とか掃除当番とか、変わってあげれるやつをね。そのくらいしかできないから。」
「へぇ〜。そうゆうのって、雪原さんも感謝してるんじゃない?」
「そうだといいな〜。雪原さん色々大変だし、応援ぐらいはしてあげないと。クラスのみんな、雪原さんの大ファンだからね!」
「まっ頑張んなさいな。っと予鈴、そろそろ戻ろっと。」
「あっちょ!置いてくなー!」
彼女たちがいなくなったのを確認し、個室から出る。
…知らなかった。クラスのみんながそんな風に思っていてくれたなんて。
心のどこかで、お金を稼ぐために作った曲なんて…そう思っていた。
そんな邪な考えで作ったものは、大した物じゃない。そんな風に考えてしまっていた。
けど違った。わたしのやってきたことは、みんなの心に響いていた。よかった…
もう大丈夫。わたしは、これからも頑張れる。
これからは妹のためだけじゃなく、みんなのために頑張れる。
この先もアイドルとしてやっていける。…わたしを応援してくれる人達が、確かにいるのだから。
「あっ!わたしも授業に行かないと!」
急いで、トイレから出る。
そこで思い出した、次は移動教室だ。
必要なものを抱えて、目的の教室へと向かった。
「あうっ!」
階段を降りている途中で、誰かにぶつかって尻餅をついた。
幸い、相手は倒れずに済んでいた。
相手の服装から、上級生。
緑髪の小柄な女性だ。わたしと同じくらいかな…
華奢な容姿から、怪我をさせてないか心配になった。
「すみません…大丈夫でしたか?」
「…………」
声をかけたが無視され、そのまま行ってしまった。
なんだか、変わった人。ぶつかられても、少しも表情が変わってなかった。
…本当に全く変化がなかった。怒ったり、笑ったり…そういった感情が全く感じられない。
まるで機械に話しかけているような…
あまりにも無表情だったためか、少し寒気がした。
改めて向かおうとした時、わたしの携帯が鳴った。
画面には、『お母さん』の文字。
何だろう?この時間に連絡が来たのは初めてだ。
不思議に思いながら電話に出た。
「もしもし、お母さん?どうかしまし」
『舞!今すぐ帰ってきなさい!』
「えっ…何かあったんですか?」
『あの子が…未来が……病院に運ばれたわ。』
「………………え…」
…お母さんが…何を言っているのか、分からなかった…
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