2-19.情報の精査
「さて、神代さんは僕にどんなことを聞きたいんですか?」
「ん〜色々あるんだけど…まずこのフロアであったことを教えて欲しいの。初日から。」
「それは構いませんが、神代さんはいつここに来られたんですか?」
「え?えっと…8日前かな…?」
「僕もその頃からここにいますが、あなたを見かけたことがないのですが…」
「真那もー!しろっちどこにいたの?」
「どこって、別のフロアだよ。昨日ここに来たから、こっちのこと全然知らなくて。」
「本当ですか?!」
未道君がいきなり立ち上がり、詰め寄ってくる。隣で寝ていた筒裏さんが驚いて床に落ちているし。
机の金具にぶつけて痛かったのか、頭を押さえながらどこかに行っちゃった…自由だな…
ってこっちに来たことって、そんなに驚く事なのかな?
「今までこのフロアに移動してきた人はいません。上のフロアへ行く手段はありますが、そっち側へは行くことができなかったんです。」
「でも南側から行けるんじゃないの?」
「ロックがかかっていて開けません。解除する手段も無くて、実質ないものとして扱われていました。」
「そうなんだ。…そっか、それでここの人が1人もこっちに来なかったのね…」
「ええ。そっち側に移動する手段がなければ行くことができませんから。」
「あたしは行けるけど、戻っても特にやることも…」
「行けるんですか?」
「うん。けど行けるのはあたしと、舞、りゅ…真壁さんの3人だけだから…。ってそういえば舞は?」
「真那が連れてきていた方ですよね?それでしたら」
「だいじょーぶだよ〜、真那が適当なとこに寝かせといたから。」
…せめて、ちゃんとした所で寝かせてあげてほしい。
でも無事ならよかった。気を失う前に様子が変だったし。
「ご心配でしたら、先に様子を見に行かれますか?」
「寝かせてるってことは、眠ってるんだよね?無理に起こすのは可哀想だから、大丈夫だよ。」
「分かりました。それと別フロアの件は、後程聞かせていただけますか?先に、このフロアのことをお話ししようと思いますので。」
「うん、いいよ。じゃあまずはあたしから聞かせてもらうね。」
「はい。ではお願いします。」
あたしがここに来てから知ったことや、聞いたことを鈴蘭君に質問していく。
ここで起こったことに関しては、蔓木さんの所で聞いた事と同じだった。
最初の日、気がついたらこの施設にいた事。
そして全員記憶がなく、怪物が現れて人が死んでいった事。
それを誰かが、1人で倒した事。
この辺りは聞いたことと一緒だ。
けど、鈴蘭君はそれ以上を知っていた。
「大雑把に言えば、神代さんのいうことで間違いありません。けど、それだと不完全な情報です。」
「そうなの?」
「はい。まず初日に怪物は2回出ました。その場にいた人が目覚めてすぐ。それと、夜の2回です。」
「2回?でも、初日の怪物は1人が倒したって…」
「それは間違ってません。両方とも、フードの女性…雨宮さんが倒しましたから。」
「そこは聞いてた通りだね。」
「…問題なのは、2回目です。怪物に1人が飲み込まれ、怪物に変化しました。…雨宮さんは…その場にいた人を囮に使って怪物を殺したんです。」
「…え?」
それは初耳だ。
怪物を殺したとは聞いていたけど、方法までは聞いてなかった。
…でも、何の意味もなくそんなことをするような人とは思えない。
「そうしないと、倒せなかった…そういう事じゃなくて?」
「…いえ、明らかに故意に人を囮に使いました。怪物に向かって投げつけていましたから。」
それは、どう考えても擁護できない。
「推測ですが、理由はあると思います。まず最初に飲まれた人は、自分から怪物に向かっていき飲み込まれてしまいました。ですがそれは、雨宮さんが囮に使った人が強要したものだったんです。何せ、怪物に飲まれるのを笑って見ているような奴でしたから。…もしかしたら、雨宮さんはそれが許せなかったのかも知れません。」
「…理由はどうあれ、あんまり褒められたことじゃないよね…」
「そうですね。…けど、ある意味それがいい結果を生みました。」
「?どういうこと?」
「ほとんどの人が、雨宮さん1人に怪物を押し付けようとしていました。言い方は悪いですが、寄生しようとしていたんです。」
「…気持ちはわかるかも。何も分からないのに怪物まで出て、けどそれを倒せるような人が現れたら、頼りたくなるかも。」
「ええ。ですが囮を使ったやり方を見た人達は、雨宮さんに頼るのをやめて各々で何とかしようとしました。多分次は、自分がそうなるかも知れないと思ったのでしょう。」
「それで広間にシェルターを作って、集団生活をしてたんだ。」
「はい。1人だと、怪物に太刀打ちできませんから。」
「じゃあなんで鈴蘭君たちは、蔓木さんのところから出て行ったの?」
「…それは」
「あいつ、クソ野郎だからだよ!本当に嫌い!!」
あたしの膝の上で寝てた筒裏さんが飛び起きた。
「まあ、あんまり信用できない感じはするけど…」
「それだけじゃないの!あいつ、真那みたいな女の子を利用しようとしてたんだから!」
「…それはどういう意味?」
「ちょっと真那!」
「あそこの男連中の…処理?っていうのをさせられそうになったの!」
「!それって…」
「男子は大変だから、お前は役に立たないんだから…体でって。…そいつらに真那乱暴されて…それで…それでっ!」
「真那。無理しなくていい。説明は僕がするから、雪原さんの様子を見てきてあげて。」
「……うん…ごめんね、スー君…」
涙を堪えながら席を立つと、通路へと走っていった。
…筒裏さんの言っていたことが本当だとしたら…
「…すみません。真那がどんな目に合ったかは、話したくありません。」
「気にしないで。昨日向こうのシェルターに行ったけど、そこにいた女の子達は…」
「…生き残るためにそうしてるのかもしれません。けど、中には逃げられなかった人もいるのかもしれません。」
「随分胸糞悪い話だね。向こうにいる奴は全員、そんなのばっかりってこと?」
「分かりません。蔓木が指示しているのか、誰かが勝手にやっているのか…それを調べる前にあそこを出たので。」
「…そうだったんだ。じゃあ、蔓木の連絡を拒否してるのはそれが理由?」
「?いえ、僕は拒否してませんよ。情報や、取り決めの連絡を取るので。」
「そうなると蔓木は嘘をついていた事になるよね。何でそんな嘘を…」
「僕を信用させないためじゃないですか?自分は連絡したいけど、相手が応じてくれないなんて言い方をしていますし。」
「あたし達を仲間にする気だったし、他が信用できないと思わせようとしたって事?」
「ええ。それにあなたや、雪原さんは有名ですから、何としても味方にしておきたかったんだと思います。でも、言い過ぎると疑われるので、匂わせる程度にしたのでしょう。」
「はぁ…聞けば聞くほど、怪しくなってくるんだけど。って、あたしと舞はそんなに有名なの?」
「ええ。聞いた話になりますが、雪原さんはアイドルですし、あなたは医学の分野で有名と聞いています。」
「らしいね。あたしはまだその事思い出せてないから、実感がないんだよね。」
それが本当かどうかは舞に聞くとしよう。
そういえば、舞はまだ起きないのかな?
そう考えている時、筒裏さんが飲み物を持って戻ってきた。泣き止んでいたけど、目元が赤くなっている。
けれど立ち直れたのか、少し怒った顔で頬を膨らませながらジュースを飲んでいる。
…自分の分しか持ってきてないのはいいけど、あたしの膝を枕にして飲むのはやめてほしい。
「僕も記憶がないので同じです。お互い、早く思い出せるといいですね。」
「そうだね。で、筒裏さん。舞の様子は?」
「えー?特に変わりなかったけど?あーでも、うんうん唸ってたから…もしかしたら起きるかもよー?」
「そうなの?じゃあ一回様子を見に行こうかな。ちょっと休憩してもいい?」
「構いませんよ。雪原さんは2番シアターにいます。真那さん、案内してあげて。」
「えぇー!今戻ってきたばっかじゃん!そうだ、ばっちんに連絡して」
「真那?」
「あっ冗談です…すぐ行かせてもらいますぅ…。」
「案内はいいよ、大丈夫。あそこに案内板があるし。筒裏さんは休んでていいよ?」
「本当!?はぁーしろっちマジで神じゃん!それと真那のことは、真那って呼んで?スー君も名前で呼んであげたら?」
「流石に年上の女の人を呼び捨ては……えっと…じゃあ結さん…と呼ばせてもらいます。」
「あれ、スー君照れてる?照れてるの??顔真っ赤じゃん!めずら「真那」あっごめんなさい!調子乗りました!」
「ふふ。じゃあ真那ちゃん、鈴蘭君。ちょっと行ってくるね。」
戯れあっている2人を残して、舞の元へと向かった。
「ねえ、あれでよかったの?」
真那がジュースを飲みながら訪ねてくる。
…この太々しさには本当に感心する。
時々イラっとするが、彼女のおかげで何度も救われた。真那はムードメーカのような存在だ。
こんな状況でも、明るくいられる彼女は本当に尊敬するし、強い人だ。…アホなだけかもしれないが。
他の人もそれが理由で、真那にあまり強く当たらないのだろう。
「ええ。すみません、つき合わせてしまって。」
「真那はいいけど…でも、本当にしろっちって悪い人なの?」
「…ええ、僕の記憶に間違いがなければ…」
神代結…探偵である姉さんが調べていた人。
たまたま資料を見る機会があったから、ある程度知っていた。
経歴や実績を見る限りは天才。今まで治療できなかったALSを治療したのは、本当に偉業だ。
…ただ、黒い噂があまりにも多い。
少なくとも、同級生が4人消えている。資料によると、神代結に嫌がらせをした2週間後に失踪している。
近隣でも行方不明者が数人いたが、ほとんど彼女の通っている学校…もしくは病院近くに住んでいた。
姉さんは確証を持てていなかったが、関与はしている可能性があると言っていた。
そんなことを知っていたからか、真那から連絡を受けた時は思わず断ろうかと思ったほどだ。
ただ実際会って話してみると、普通の人という印象。いや、普通というよりも…この人は…
「そうは見えないけどなー。」
「記憶がないからかもしれません。雪原さんが一緒にいるのもそれが理由でしょう。」
「そうなの?」
「そうでないと、あの2人が一緒にいるのはありえない事ですよ。」
そう、絶対にありえない。
神代結と雪原舞が行動を共にするのは絶対にありえない。
なぜなら…
「ぐぅ…!ま、舞…苦…し…」
…何でこうなったのだろう。
舞があたしの上にまたがり……首を絞めている。
舞の細い手が、あたしの首を締め付ける。
いや、握り潰すの方が正しいかもしれない。指がめり込んで、肉をつぶし、骨が軋んでいる。
普段の彼女からは考えられないような力が込められており、振り解くことができない。
真っ赤な目をした彼女が、あたしを見下ろし、怒りと憎しみのこもった声で言った。
「…お前だけは絶対に許さない…」
「なん…で……」
「神代結…妹を殺したお前だけは…絶対に許さない……」
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