2-17.生き抜くためには
衣服の埃を払いつつ彼女に尋ねようとする。
けど言葉が出てこない、それには理由がある。
正直あたしも、雨宮さんのことが少し怖い。
雨宮さんは人を殺す時も一切躊躇いがなかった。
あたしの感覚なら、まともな人なら複雑そうな顔をするし、おかしな人でもそれ相応な態度をしていた。
けど彼女は違う。何もなかった。まるで当たり前のことのように人を殺していた、それが不気味に感じてしまう。
そんな人にあれこれ尋ねたり、人を殺すことがどうかなんて聞くのは気が引ける。
けど助けてくれたことは事実だし、それに友人と言ってくれている人を疑いたくはない。
けど、どう聞いたものか…
「そんなに警戒しなくていい。」
「へ?!い、いやそんな、警戒なんて…」
「あからさまに態度に出てる。それに、私が近づくたび震えてる。」
「そ、それは〜…えっと、ごめんね?正直言うと、ちょっとビビってる。」
「はぁ…まあいい。それよりも怪我は?少しなら薬持っているけど。」
「それなら大丈夫。…どうせすぐに治るから。」
「…そうみたいね。」
あたしの手を見てそう言った。
さっきまで爪が剥がれて、指が変な方向に曲がっていたのに治っている。
体の中から感じていた痛みも消えているし、蹴られた時に出来たあざも無くなっている。
けど足にまだ銃弾が残っている。…これは一度切って取り出すしかなさそうだ。
その箇所を見て雨宮さんが言った。
「ナイフ貸して。」
「へ?えっと、自分で…」
「そんな何を切ったかわからないナイフで足を切る気?いいから貸して。」
奪い取られるようにナイフを持って行かれた。
すぐにナイフに色々し始める。薬品をかけて消毒したり、火で炙ったりし始めた。
その行動から医学の知識があるように感じられる。もしかしてあたしが教えたのかな…
そう思っていると、ナイフの処理が終わったのか、あたしの足に薬品を塗り始めた。
「冷っ!」
「我慢して。それと、麻酔なんてないから痛いわよ。」
「ぅう…うん。まあ、痛いのは慣れてるし…」
「そう。じゃあいくわよ。」
「っ!」
「…もういいわ。」
「早っ!?え、もう出来たの?!」
痛みに耐えるため刃を食いしばって、目を瞑っていたから見ていなかった。
1分も経ってない、数秒ほどで弾を取り出した。
それに傷口も小さく、必要最低限しか切っていない。
まさか医学の知識だけじゃなくて、経験もある?…ますますこの人がわからない。
「あっえっと、ありがとう。…すごいね、こんなにすぐできるなんて。」
「弾が皮膚のすぐ下にあったから、そこまで難しくなかったわ。」
「そ、そうなんだ。もしかしてそういう経験があるの?」
「…それはあなたね。私は、あなたから聞いただけ。」
「あたしが?そうなんだ…けど、あたしに出来る気がしないんだけど…」
「そんなことより、あなたはいつまでここにいるの?」
「いつまでって…できるだけ早く出て行きたいけど…」
「そう。出る気はあるのね、それはよかった。」
出る気はある?その言い方だと、あたしが出る気がないように思っていたように感じる。
…けど正直なところ半々だ。ここを出ていく条件…それを満たすためにはしなくていけないことがある。
Gフォンで来ていたメール。あそこにはこう書いてあった。
『カードキー付与条件
規定人数の殺害 1/5』
つまりここから出ていくには、少なくとも後4人殺さなくていけない。
でも人を殺すの嫌だ。自分が出るために人を殺すなんて間違ってる。
…けど、一生ここから出れないないのも嫌だ。…結局どうするか決めれずに今も迷っている。
「それなら早く条件を満たして。それでここから出る時に、声をかけて。」
「待って。…雨宮さんは人を殺すことをなんとも思わないの?」
「…あなたからそんな言葉が聞けるとは思わなかった…」
「え?」
「なんでもないわ。人を殺すのが嫌かどうかなんて関係ない。必要だからするだけよ。」
「それは!…そうなんだけど。でも…!」
「じゃああなたはここに残りたいの?」
「…それは…」
「迷ってる…というよりも、あたしが人を殺す理由…自分に嘘をつく為の言い訳が欲しいのでしょう?」
「!」
「他人が決めたものに従っていると、いずれ耐えきれなくなる。だから、自分で決めなさい。あなたはどうするべきだと思うの?」
そうだ。あたしは言い訳が欲しかった。
人を殺した時、自分を楽にする言い訳があれば自分を納得させられる。誤魔化せると思っていた。
だから雨宮さんに聞きたかった。雨宮さんの持っている言い訳があれば、納得できると。
けど、それはじゃあダメなのかもしれない。結局目を背けているだけで、彼女の言った通り、いずれ耐えられなくなる。
それに、あたしはもうわかっている。ここで生き残るためには、いい加減甘さは捨てなくてはいけない。
「…ここから出るために、人を…殺す。必要なことだから、そう…自分で決めた。」
「決めたら、ならそうしなさい。この先、生き抜くためには必要なことよ。」
「うん。…もしかして雨宮さんも、条件のために3人を?」
「………………………そうよ。」
あっ…これ絶対違う。
「それであなたはこれからどうするの?」
「ひとまずそこの物資を持って仲間と合流かな。」
「そう、それじゃあお別れね。連絡取れるようにだけしてもらえる?」
「え?一緒に行かないの?」
「…そうしたいのだけど、理由があって一緒にはいけない。」
「そっか…雨宮さんがいれば心強いんだけど…」
「何かあれば連絡して。すぐに行くから。」
「ありがと。あっそうだ…」
別れる前にこれだけは聞いておきたい。
「あたしのこと友人って言うことは、雨宮さんって記憶があるの?」
「…ええ、そうよ。」
「ねえ、あたしってどんな人だったか教えて欲しいんだけど…」
「それは…」
「…やっぱりダメ?なんかみんな教えてくれなくて…それに栄華さんは思い出すなっていうし…」
「!ねえ…栄華さんに会ったの?いつ?どこで?」
栄華さんの名前を出した途端、すごい勢いで肩を掴まれた。
この感じだと雨宮さんとも知り合いなのかもしれない。
「どこでって…前のフロアだけど。すぐにどこかに行っちゃうから、一緒には行動してないんだよね。」
「別のフロアって…そういうことね。わかった、ありがとう。それと、悪いけど記憶のことは教えられない。」
「…理由は?」
「絶対に後悔するから。そんな記憶は思い出さない方がいい。」
「…栄華さんにも言われた。そんなに酷いの?」
「………それは…」
雨宮さんの答えを遮るように、彼女のGフォンが鳴った。
会話が聞こえないようにか、あたしから少し距離をとって対応し始めた。
短い会話をしたと思ったら、すぐに戻ってくる。
「悪いけどここまでね…もう行くわ。」
「…わかった。」
「ごめんなさい…色々納得できないことがあるとは思う。でも、私はあなたに生きていて欲しと思っていることは信じてほしい。」
「うん、ありがと。…それじゃあ、何かあったら連絡するね。」
「ええ。…気をつけて。」
そう言って彼女は去っていった。
…どうして誰も、あたしの記憶のことを言ってくれないんだろう。
あたしのためを思って黙っているのかもしれないけど、正直不安だ。
自分が何かをしてしまったなら、知っておきたい…それは間違っているんだろうか。
雨宮さんは教えてくれそうにないし、栄華さんはどこにいるのか…そもそも生きているのかもわからない。
けど、あたしの記憶を知ってそうな人がもう1人いる。
それを確認するためにも、先に合流しないといけない。
あたしは近くに転がっている物資の箱を持ち上げ先を急ぐ。
これを届けて、彼女が起きたら聞いてみよう。
きっと…舞なら知っているはずだ。
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