2-16.白衣の少女
白衣のような、白の長いロングコートを着た人物。
フード深く被っているため顔が見えないが、声に覚えがあった。
突然現れた彼女…雨宮さんに周りの視線が集中していた。
男達の視線からは困惑を感じられるが、それ以上に…彼女への恐怖が感じられる。
ボロボロになってるあたしには誰も興味を示さない、多分その余裕がないのだろう。
これは予想だけど、あたしを襲ったこいつらは雨宮さんのことを知っている。
最初の日に1人で怪物を殺して回ったのが、彼女だということを知っているから、これだけ恐れているのだろう。
強いかどうか分からないあたしよりも、その強さをよく知っている雨宮さんを警戒するのは当然だ。
いや彼らを見ていると、警戒するというよりも逃げ出したいと思っているようだ。
腕を撃たれて睨んでいるやつ以外は、少しずつ彼女と距離をとっている。
雨宮さんが怪物と戦っているところを見たわけではないが、昨日の夜1人で数体の怪物を殺していた。
それだけでもすごいが、彼らの怯えようを見るとそれ以上の事をしたのかもしれない。
「それで、どうしてその子がそんなふうになっているか…説明して。」
感情が冷え切ったように冷淡で、冷たい声だ。
フードのせいで顔が見えないが、彼らを見る目も冷え切っているのだろう。
関わりのないあたしでも分かる。…これは相当怒っている。
助けてもらっているあたしでさえ、冷や汗が出てくる。
「そ、そぉれは…えっと…こ、こいつ…いや、この子が俺たちの仲間を…」
「そ、そうだ!いえ…そうです…はい…。彼女が俺たちの仲間を殺したから…だから…!」
男達がなんとかこの場を納めようとしているのは分かるが、恐怖で声が上擦っている。
ここまで怖がらせるなんて、本当に何をしたの?
…気になるけど、今は黙ってよう。だって…
「じゃあ今からあなた達を殺すわ。」
「なっ!なんで!俺たちはあんたに迷惑はーー」
「理由は私を不快にさせたからよ。」
「ふ、ふざけー」
反論をしようとした男の頭が吹き飛んだ。
残った2人は動けずに固まっている。
…驚いた。いきなり人を殺した事もそうだけど、それ以上に動作が見えなかった。
話している間彼女は銃を持ってはいたが、構えてすらいなかった。
だというのに、男が話した瞬間コンマ数秒もかからず構え、頭に正確に銃弾を撃ち込んだ。速いなんてもんじゃない。
瞬きしている間に、人が死んでいた…そう思えるほどの速さ。
そして正確だ。あたしが真似しても、明後日の方向に飛んでいくだけだ。
確かにこのことを知っていたなら、彼女を恐れるのも納得できる。
今みたいに、少しでも彼女を不快にさせたら…1秒たたず殺されるのだ。
これは怖い。下手な怪物なんかよりも恐怖するのも分かってしまう。
「私は蔓木と取引をしている。だから、何もせず戻るなら手は出さない。」
「ほ、本当…ですか?」
「ええ。そこの手がないやつを連れて、早く消えなさい。」
「わ、わかりました!おとなしく戻ります!だ、だから殺さないで!」
そう言ってあたしの近くで、血を流している人を立たせようと手を伸ばす…がその手は別の方へ伸びている。
雨宮さんからは屈んでいる男の背で見えないのか、近くのナイフへと向かっている。
ナイフを手に取り、切先をあたしへ向け、20cmも動かせばあたしの体を貫ける位置だ。
そのことは彼も分かっているのだろう。横目で見た彼の顔は、歪んで笑みをこぼしながらあたしを見ているから。
けれどそれが叶うことはない。なぜなら、ナイフを手に取った瞬間彼の頭が無くなった。
その様子をあたしと、残った1人が見ていた。
丸めた体を制御するものが無くなっため、花が開くように地面に倒れ込んだ。
残った1人はまだ抵抗する意志を残しているが、それもすぐになくなるだろう。
「おとなしくしていれば死なずに済んだのに。まあ、手間が省けたから丁度いいわ。」
「なんで…なんで俺たちが死ななきゃなんねえだ…」
「?なんでって…おとなしく帰らないから。さっき言ったけど、聞いてなかったのかしら?」
「けど、悪いのはこの女だ!俺たちの仲間を殺した!だから俺たちがこいつを殺す!それの何が悪い!」
「じゃあ私があなた達を殺すことも、何か悪いの?」
「…は、はぁ?俺たちはあんたになんの迷惑もーー」
「私の友達を傷つけた。さっきあなたが言った通り、傷つけられたからやり返しただけ。それだけよ?」
「ふざけんな!こっちは人が死んだんだ!怪我させた程度でこんな仕打ちが!」
「殺そうとしたでしょ?」
「そ、それはさっきも言った通りこいつがやったから!」
「彼女は、自分から人を殺そうとはしない。大方あなた達が先に手を出したんでしょう?」
その言葉に男が怯んだ。事実を指摘され、反論できなのだろう。
…というかそのことを知っているってことは、こいつあの場にいた?
知っていながら殺そうとしてきていたならもう手に負えない。
「そ、そんな証拠…どこにあ、あんだよ…」
「そんなのは必要ない。だって」
「へ?どうあぐっ!」
右足が膝から千切れ飛んだ。
そのせいでバランスを崩し、地面へ倒れ伏した。
訳も分からず苦痛にもがいている男に、雨宮さんがゆっくりと歩み寄り言った。
「お前はここで死ぬから。」
「ひぃぃいいい!!」
「安心して、もう少しだけ生きられるわ。」
「た、助けて…ゆ、許してもらえぎぃぁぁあああ!!!」
「その子をそんな風にしたのに、すぐに死ねるわけがないでしょう?」
「あ…ああ……ひぁ…ああああ……」
「お前の死体を細切れにして、蔓木に届けてあげる。そうすれば同じことする馬鹿はいなくなるわね。」
「いだい…い、いやだ…!だずげ…だずげでぐだざい……お願いしまず…」
「恨むなら、馬鹿な自分を恨むのね。」
「だずけて…だずけてくだざい…!…助けて…」
「まず残った足を」
「待って!」
…思わず止めてしまった。
痛みと恐怖、流れ出る涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、あたしへと助けを求めてきたせいだ。
正直助けたいとは思わない。…でも、ここまでする必要は絶対ない。
ここで助けても意味はない。この傷じゃ、もう助からない。
仮に生き残ったとしても、ここから出るのは不可能だろう。
でも…それでも、止めないといけない。あたしのことを友人と呼ぶ彼女に、こんな残酷なことはしてほしくない。
節々が痛む体に鞭を打ち、立ち上がって彼女に言う。
「雨宮さん…これ以上はやめてほしい。」
「こいつらはあなたをリンチした。それでも、あなたは許せるの?」
「…許せはしないよ。でも、それ以上に…あなたにそんなことをしてほしくない。」
「……そう、分かった。あなたがそう言うならやめる。」
「た、助かった…あっ!ありがとう…!ありがとうございま」
男の感謝の言葉を最後まで聞くことはできなかった。
残った手足であたしへと擦り寄ってきていた。
その表情には生き残れた事と、助けてくれたことへと感謝で溢れていた。
けどその表情も、写す顔がなくなってしまえば終わりだ。
そう。雨宮さんが頭を撃ち抜いて殺してしまった。見向きもせず殺す様は、虫を殺すようだった。
今あたしは、複雑な気分だ。
襲ってきた奴らは全員死んだ。ざまあみろという気持ちは確かにある。
でも、これが正しいかと言われると分からない。間違っているとも違う。
自分の中の常識、倫理観が狂わされて訳が分からない。
本当にここまでする必要があったの?こんな見せしめのような真似を。
そもそも殺す必要があったのか?…後に残ったのは、後味の悪さだけだ。
けど…助けてもらった分際でそんなことを悩むのは、おこがましい事なのかもしれない。
でも分からないままじゃだめだ。だから、
「昨日の夜ぶりね。…神代結。」
「そうだね。雨宮…雫さん。」
この後味の悪さを晴らすためにも、あたしは彼女を知らなければいけない。思い出さなければいけない。
あたしのことを友人と呼ぶ彼女と話し、理解すれば、答えが見つけられるかもしれないから。
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