2-14.初めての−−
拳銃と大きな銃…アサルトライフルを持った二人組が、あたしに銃口を向けている。
状況的に間違えたというのはない、それは相手の目を見てもわかる。
こちらを睨みつけている瞳には敵意しか感じない。視線があたしに集中しているうちに舞を下がらせる。
そして抱きついている女の子を後ろ手に隠し、話しかける。
「いきなり撃ってくるなんてどういうつもり!場合によっては!」
「黙れ怪物め!人の言葉を喋るな!!」
「っ!…舞が言ってたのはこれね…」
「お前のせいで仲間が死んだんだ!俺たちにはお前を殺す権利がある!」
「そうだ!蔓木さんはお前を許すと言っているが、俺たちはお前を許さない!」
蔓木の命令じゃない?
てっきりそうだと思っていたけど…じゃあこいつらが勝手なことをしているだけ?
でもここでこいつらを殺したりしたら、また報復しに来るやつが増えるだけだ。
…言われたことはムカつくけど、ここは穏便に収めるしかない。
「あなた達の仲間を殺した件については悪いと思ってる。許せないとは思うけどここは話し合いでっい…!」
「結さん!」「ひぇっ!」
銃弾が肩を掠める。
掠めた箇所は血が流れ落ち、鈍い痛みが続く。
今まではずっと殺気だっていたからか、痛みもそこまで感じなかったし無視できた。
けど今は正常。そのせいか痛みを強く感じる気がする。
どうするべきか考えなくちゃいけないのに、痛みが思考を乱す。
ここで下手に相手を刺激してもいい結果にはならない。
けど、何もせずにいて何か解決する?絶対にしない。
何もしなければあいつらは間違いなくあたしを殺すとする。でも簡単に死ねないのがあたしだ、銃でも死ねないかもしれない。
そうなるとどうなる?…血生臭い結末が待っている気がする。それを考えると背筋が凍る。
じゃあ殺す?
でもそれじゃあ、あいつらと同じことするだけで…それにできればしたくない。
それに今はそれで解決できても、また同じように言ってくる人が増えるだけだ。
…それにそうやって人を殺す選択を続ければ、あたしはまた正気を失くすのが早くなるだけだ。
血を止めるために添えている手に無意識のうちに力が入ってしまい、傷口からさらに血が滲み痛む。
それがさらに思考を鈍らせる。
この場で一番の手は、あいつらを殺さずに無力化すること。
手や足を撃って動けなくするか、近づいて殴るなりすればいい。
ただ下手を打って怪我でもさせたら、彼らは生き残れなくなる…でもそうしないと仲間が殺されるかもしれない。
殺されたくはない、でも殺したくはない。
未だにそんな中途半端な考えをしているあたしを相手は待ってくれない。
こちらに狙いをつけて撃ってくる。
飛んでくる弾丸はあたしを貫くように飛来している。
あたしは後ろの少女を抱き抱えて、近くの物資が入っている箱に身を隠した。
距離があるから頭を低くしていれば当たらない。
でもそれも時間の問題だ。近づかれたら殺される。
…もう迷っている暇はない、いい加減覚悟を決めろ。
「ここにいて。絶対に顔を出したりしないで。」
「わ、わかった。…その…えっと…がんばりなさい…よ。」
「ふふ、あんがと。後でちゃんと話をしようね。」
姿勢を低くして駆け出す。
ただ馬鹿正直に真っ直ぐは向かわない。大きく動いて狙いをつけさせないよう立ち回る。
後方にいる2人に当たらないように考えながら走り続ける。
「っこいつ!ちょこまかと!」
「化け物はおとなしく死ね!」
あたしのすぐ後ろを銃弾が走り抜けていく。
この異常な身体能力のおかげで、落ち着いて動き回れば当たることはない。
こうやって無駄撃ちさせ続ければ、弾切れになるかもしれない。
そうでなくても装填する際には隙ができる。その隙に接近して殴り飛ばす。上手くいけば殺さなくて済む。
しばらくすると銃弾が止んだ。どうやら拳銃を持っている奴の弾が尽きたようだ。
「チッ!弾切れかよ!」
「ちゃんと狙え下手クソが!」
「うるせえ!あいつがちょこまか動くから!」
「テメェが下手くそなだけだろうが!」
「なんだと!?」
突然揉め始めた。
ライフルはまだ弾が残っているみたいだけど、こちらに撃ってこない。
−−−今しかない!
あたしはライフル持ちの背後側から回り込むように近づく。
拳銃持ちは気づくかもしれないけど、死角になっているもう1人は気付けない。
数mまで近づいた時、拳銃持ちがこちらに気づいた。
けどもう遅い。
振り返りかけている男の側頭部に回し蹴りを入れた。
骨が軋む音と共に、男は自動車にぶつかったように吹き飛んでいった。
一応手加減はしたつもりだったけど…
「クソがぁ!」
その様子を見ていたもう1人が懐からナイフを取り出し、こちらへ突き出してくる。
拳銃以外に武器を持っているとは思わなかった。それにあたしは今動けない。
お腹背中だと気を失うまでに至らないと思って頭を狙ったのが失敗だった。
身長差があり、飛んで蹴りを入れなければいけなかった。
なんとか転がるように躱すが、左足を切られ痛みが走る。
撃たれた時と違った傷みのせいか、すぐに動けなかった。
その様子を見て喜んでいるのか、背中越しに男の笑い声がする。
後ろ目に状況を見ると、ナイフをあたしに振り下ろそうとしているところだった。
血が滴るナイフが迫ってくる。せめて頭を守るべきだった。
でも、刺さった後…あたしがどうなるかを想像してしまい、体が麻痺して動けなかった。
「っつ…!」
「死ねぇぇぇえ!ぴぎゅ…」
「…っひ…」
突然変な声を上げたと思ったら…男の頭が弾け飛んだ。
ぶちまけられた液体があたしへと降り注ぐ。細切れになった肉が頬に当たる。
残った体は無くなった部分から血を吹き出しながら、糸の切れた人形のように崩れ落ちあたしに覆い被さってきた。
ナイフは地面で跳ね、甲高い音を立てている。
体の上の男から、生暖かい血が首元へと流れ込んできているがあまりの出来事に動けないでいた。
…何これ。
え?違う。あたしはやってない。でもそこにいる人は間違いなく死んでいる。
でもどうして……何かがこの人の頭を吹き飛ばして…それでこんなふうになってしまった。
そう何かが飛んできて………飛んできて?
…吹き飛ばしたものはどこから来た?
その直前に聞こえた破裂音は何?それを鳴らせるのは2人。あたしじゃない。
じゃあ残ったもう1人……そうか。
油が切れた機械のようにゆっくりとそちらを見る。
…そこに答えはあった。
視線の先にあったものは、あたしが渡した銃を持ったままへたり込んでいる舞。
その顔は血の気が引いていて、青を通り越して真っ白に見える。
口元を抑えると、顔を伏せながら地面に胃液を吐き出している。
しばらくすると顔を上げる。まだ顔色が悪い。
焦点が合わず、眼球が揺れ動き続けている。
その様子からまだやったことを理解していない。
けれど、血まみれになっているあたしと、その血の元を見た彼女は理解してしまったのだろう。
…舞は声も上げずに、静かに泣き出した。
そう、理解してしまった。彼女自身がしたことを。
…彼女が、舞が…人殺した事を。
side:
ただ、必死だった。結さんが刺されそうになっているのを見て、助けたかったから。
当てるつもりなんてなくて、気をそらす程度のつもりだった。
でもわたしの銃から飛んでいったものは、望む結果とはかけ離れた結果になってしまった…
拳銃を撃ってすぐ衝撃と音で、後ろに倒れ込んでいて何が起こったのか分かってなかった。
むしろ、これで結さんの助けになる。わたしも少しは役に立てた、と達成感を持ってすらいた。
でも体を起こしてどうなったのか確認した瞬間、全身が凍りついて頭が真っ白になった。
さっきまで立っていた男の人が、結さんに倒れ込んでいて、なぜか真っ赤になっている。
それを見て真っ白になった頭に、パズルのピースをはめるように少しずつ理解していく。
なんで倒れ込んでいるの?……銃弾が当たったから。
なんで結さんが真っ赤になっているの?……男の人の血を浴びたから。
なんで見て分かるほど真っ赤になっているの?……わからない…わからない…わたしにはわからない。
でも知っているはず。何度も見たことがある。
怪物の体が千切れて、血が吹き出したのを何度も見た。
そして視線の先にそれと同じ光景が待っている。
…つまり…それは…あそこにいた人が…
パズルが埋まっていくほど、理解したくない現実のせいで体に拒否反応が出る。
口の中が渇き、体温が一気に下がり、手足の先まで震えている。
目の前がチカチカと明滅し、胸の中をかき混ぜられているような不快感が襲ってくる。
それらに耐え切れず、込み上げるものを手で押さえようとしたけれど無理だった。
「っうぅ!…うぇぇぇえええぇ…!…ゲホ!ゲホ!」
何度も酸っぱいものがこぼれ出る。
自分でもなんで戻しているのかわからない。
そのせいだろう。少し気分が落ち着いた時、顔を上げてしまい…自分がしたことを理解した。
自分が放った銃弾が、男の人の頭を粉々に吹き飛ばした。
そう…わたしがやった…やってしまった…
わたしが…殺した…人を…殺してしまった…
わたしが憎んでいる、あの人と同じことをしてしてしまった…
それが分かった時、ただ泣くことしかできなかった。
涙で現実を覆い隠そうとした。
…けれど、何も変わらない。現実は残酷で、わたしがしてしまったことは…そこに…
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