2-13.少女強襲
…こんなに普通に目が覚めるのはいつぶりだろう。
少しの眠気を感じながらも、頭がすっきりした気持ちの良さを感じる目覚め。
強張った体をほぐすように伸びをした。
隣を見ると舞がまだ眠っている。並べた椅子で寝ているのに落ちていないのはすごい。
感心しつつGフォンで時間を確認すると、7時前。
前のフロアなら外出禁止時間で、外には怪物がウヨウヨいた。
あの時は本当に酷い目にあったが、もう随分前のことのように感じる。
けどそのおかげで仲間ができたし、こっちのフロアがあることや、メモでどの階に何があるか知ることができた。
そう考えると全く無駄だったわけではない。…でも今いる仲間は舞だけだ。
最後に喧嘩別れをしてしまったし、ここにいないってことは蔓木のところにいるのだろう。
龍之介はなんで蔓木を信じたのか未だにわからない。
…もしかして、あえて残って情報を集めるためとか?
けどあたし達に何も言わずそんなことをする必要はない。
やっぱりあたしのことが信じられなくなったのかも知れない。
悲しいし、寂しさは感じるけど、龍之介が決めたなら止めることはできない。
…けどこんな別れ方は嫌だ。せめて納得できる別れ方をしたかった。
だからGフォンでメールを入れておくことにした。
でも上手い文面が思いつかなかったので、ひとまずあたしと舞が無事だってことだけ送ておく。
返事が返ってくるといいけど…それに後でちゃんと考えてからメールを送りたい。これで仲直りできるといいな…
そうこうしていると、扉の下から光が入ってくる。どうやら外の明かりがついたらしい。
さてどうしよう。明るくなったなら、探索を始めてもいいかもしれない。
それに…できるだけ早く着替えが欲しい。流石に上着だけで出歩くのは恥ずかしい。
準備をしようと部屋の中を探したけど鞄がない。
おそらく蔓木のところに置いてきてしまったのだろう。
あの中に着替えや食料も入っていたから残念だ。
でもそれだけ慌てていたのかもしれない。
舞をここに置いていくのは心配だし、起こすことにした。
「おーい舞〜。朝だよー、起きてー。」
「…ん…ふぁ〜ふみゅ……おはようございますぅ…」
「おはよ。寝起きで悪いけど出る準備をして。探索をするから。」
「ふぁい………ん?って結さん!正気に戻ったんですね!」
「うぇ?!いきなりどうしたの?」
寝ぼけていたと思ったら突然叫び出して驚いた。
いきなり抱きついてきて離してくれない。…どうやら昨日、余程のことがあったらしい。
舞を落ち着かせて話を聞いた。
どうやら怪物のせいであたしの体が溶けて、内臓やらがなくなっていたそうだ。
最初あたしが死んだと思ったそうだけど、突然立ち上がって怪物を食べ始めたと思ったら傷が治ったと。
…まさかそんな状態からでも再生するなんて思ってもなかった。
それでその場面をあそこにいた人たちに見られてしまい、あたしに暴言を言ってきた。
それを聞いた舞が怒って、動けないあたしを連れて逃げてくれた。こういうことらしい。
この場所はたまたまあった人が教えてくれたそうだけど、もしかして雨宮さんかな。
それにしても、本当に迷惑をかけた。
正直自棄になっていた。いろいろなことが重なりすぎて希望を持てなかったから、死んでもいいとも思っていた。
そのせいで油断してそんなことになった、このことは反省しないといけない。
こんなにもあたしのことを思ってくれている舞を放っておくことはできない。
あの時は相当参っていたけど、今は注射のおかげで落ち着いている。
同じ失敗はしない。投げやりにならないように、ちゃんと生きてここから出ることを考える。
「大変だったんだ。本当にありがとうね、舞。」
「いえ、お礼を言わないといけないのはわたしですから。」
「そんなことないでしょ?ここまで連れてきてくれたの舞だし。」
「…わたし拳銃で撃たれてわかったんです。結さんが今までどんなに大変で、痛くて苦しのか…少しだけ理解できました。」
「そんなのわかんなくても…」
「いえ、それじゃあダメなんです。今まで押し付けるだけでした…でも今は違います。一緒に背負っていきたいんです。」
「舞…」
「まだまだ頼りないと思いますけど、わたしを頼ってください。精一杯頑張りますから!」
「うん、そうさせてもらうね。」
「はい!…あれ?」
…舞の言葉は覚えがある。
それはあの時聞いた言葉。
「わたし前にも同じようなこと言ったような…気のせいですよね?」
そう…静華によって死にかけた時。
死ぬ直前にあたしに言った言葉だ。
…そしてその後あたしは…舞を怪物にした。
あたしの再生能力は人型の能力を受け継いだ静華を、食べたことで身についたもの。
じゃあそのあたしの血を使って怪物になった舞は?
もしかしたら同じ能力を持ってしまっているんじゃないか?
…もしそうだとしたら、あたしは取り返しのつかないことをしてしまったかもしれない。
「結さん?どうしました?もしかしてまだ体調が…」
「…ううん、大丈夫。ちょっとね、ほら!舞が頼もしくて!」
「そ、そんなことないですよ!もうー照れちゃいますーえへへ。でもここに連れてくる時の結さん、ずっとああーとかううーしか」
でもそれを伝えることはできない。
そのことを知ってしまったら、きっと舞はあたしを軽蔑するだろう。
そしてあたしの元から去ってしまう。こんな会話ももうできなくなる。
だから今は伝えない。…いやきっとずっと伝えられない…
だって…1人はもう嫌だから…
外を探索することを伝え、所持品をまとめる。
といっても、ほとんど置いてきているようで拳銃が2丁しかない。
後は銃のホルダーに換えの弾が少しだけだ。
昨日の夜にもらっておいてよかった、舞は何も持っていないかったので1丁渡す。
でもこれだと心許ないので、一応鞄の事を聞いてみた。
「そういえば舞、鞄は?」
「…あっ!蔓木さんのところに置いてきてしまいました…どうしましょう…」
「まあ入ってるの食料とか着替えだし、また集めればいいから気にしないで。」
「はい…うう、失敗ですぅ…」
「危ない状況だったんだから気にしないで。それじゃあいくよ。」
「…はい。た、探索でいい所見せますから!」
「うん、期待してるね。」
扉を開き外へ出る。さっきまで暗い場所にいたから光で目が眩む。
目が慣れるのを待って店の外へと出た。
まだ早い時間だからか静かだ。
鳴き声も聞こえない事から、怪物もおそらくいない。
やっぱり前のフロアとここではルールが違うようだ。
けど、昨日雨宮さんが殺した怪物の遺体は消えている。
暗い間に片付けたのだろう。この辺りは一緒のようだ。
でも床に残っている血の跡が、昨日の事を夢ではないと教えてくれる。
…死体は4体ぐらいあったから血の跡も広い。隣で舞が気持ち悪そうにしているので、早めに離れることにした。
このフロアの探索をする前にまずは着替えだ。
とにかく服屋を探して歩く。
最初に見つけた店に入り、着替える。
…昨日の夜のようなことは二度としない。絶対に。
それと鞄ももらっておく。何か見つけても、入れるものがなかったら無駄になる。
舞にあたしがきていた服をどうしたか聞いてみたら、半分以上なくなっていたから捨てたそうだ。
まあ酸で体に穴が空いたら、服もそうなるだろう。
着替え終わり一安心していた時だった。
何か転がるような音が聞こえる。キャリーケースを転がすような音だ。
もしかしたら他の人も探索を始めたのかも。一応銃を持ち、いつでも撃てるようにしておく。
警戒しながら音のする方を見てみると、前に見た機械だった。
前に外出禁時間に何かを運んでいた機械。今運んでいる荷物も、あの時と同様人が入る大きさの入れ物だ。
その後ろからもう1体現れる。そっちは半分ほどの大きさしかない。
1体目の中身はおそらく人間。けど2体目は何を運んでいるのかわからない。
もしかしたら武器や食べ物が入っているかもしれない。
もしそうだとしたらラッキーだ、もらっておいて損はない。
2人で機械が止まるまで後をついて行く。動いている間に触ると攻撃されるかも知れない。…前に龍之介が言っていた。
しばらくついていくとフロアの中心で止まり、荷物を下ろして去っていった。
それを見届けた後、荷物を開く。
予想通り中に入っていたのは武器と食料。2人で抱えきれないほどの量が入っている。
これで餓死する心配は無くなった。2人で必要な分を鞄に詰めていく。
その時だった。
「そこの2人ー!何横取りしてんのー!それ、真那達のでしょー!?」
上階からそんな声が聞こえた。
見てみると、小さなツインテールの女の子が2階にいた。
幼さが残る容姿、おそらく年下だろう。両手に持つナイフを振り回しながらこちらを睨んでいる。
…あの子のって言われても、見つけたのはあたし達だ。それなのになぜ?
そう思っていると突然2階から飛び降りた。
危ない!と思い駆け出したが、何事もないように着地をしてこちらに向かってくる。
「あんた達蔓木のとこの奴らでしょ!けど今日は真那達がもらう番じゃん!とっとと消えて!」
「いやあたし達はちが」
「言い訳なんて聞いてないし!その鞄に入ってるのも置いていってよね!全く…もっとちゃんとしてよね!」
「いやだか」
「これ以上言い訳するなら怪我するからね?わかったらどっか行って!」
…全く人の話を聞いてくれない。
どうやらこの物資を受け取る順番が独自に決まっているらしい。で、今日はこの子の番ってことみたい。
それなのに蔓木の仲間が奪いにきたと思っているようだ。あたし達は違うのに。
どうしたものか。説得はできそうもないし、かといって怪我させるのも…
「あ、あのわたし達は蔓木さんの仲間じゃ」
「あーもううっさい!もういい!ちょっと痛い目見てもらうんだから!」
「!消えた?!」
襲ってくると思い身構えると、さっきまで目の前にいた少女が消えた。
上下左右どこを探してもいない。まるで手品のようだ。
煙のように消えた少女を探していると、背後で足音が聞こえた。
すぐに振り返ると、舞に向かってナイフを振り上げているのが見えた。
引き寄せようと手を伸ばしたが届かない。ナイフが舞に突き立てられ…
…っと思っていたが、刺さる直前に突然舞がしゃがみ込んだ。
「ひゃっ!」
「えっ!?」「嘘?!うひゃあー!ぴぐぅ!」
しゃがみ込んだことでナイフが空をきり、ことなきを得る。
しかし刺す側は勢いを止められず、舞がしゃがみ込んだことで足を取られる。
体が浮き上がり、回転しながら地面に落ちた。…顔から。
両手にナイフを持っていたせいで受け身を取れなかったようだ。痛そう。
呆気にとられたがすぐに気をとり直し、ナイフを蹴り飛ばした後少女の上に乗り動きを封じた。
上から押さえているが全然抵抗してこない。
顔を覗き込んでみると、鼻血を出し白目をむいて気を失っていた。
「…えっと、どうしよう。」
「…あの、可哀想なので離してあげませんか?その子多分悪い子じゃないですし…」
「でもナイフで殺そうとしてきたけど。」
「そうなんですけど…なんとなく分かるんです。その子からは嫌な感じがしませんから。」
「そう?…まあ殺すのはちょっと気が引けるよね…」
確かに襲われたけど、今の状態を見るとむしろ可哀想に思えてくる。
それにいきなり殺すのは良くない。少しすれ違いがあっただけにも思えるし、起こして話してから決めることにした。
顔を軽く叩いて少女を起こした。
「おーい。ねえ、おきてー。」
「…はっ!あれ、って重!ちょっとー!何真那の上に乗ってんのよ!降りてよ、折れるでしょ!」
「そこまで重くないから!!やめてくれる?!はぁ…ねえ今の状況わかってる?」
「はぁ?!状況…って…あれ、なんで真那床に寝て…それにナイフどこ!」
「危ないから取り上げた。さて色々聞かせてくれる?」
「取り上げたって…じゃあ真那は…」
「うん抵抗しても無駄だから、おとなしく話してくれない?」
できるだけ落ち着いて聞いてみたけど、何も言わない。
けど抵抗もしてこない。これは長期戦になるかも知れない。
仕方ない。話すまで待ってみるかな。
「…………さい…」
「ん?」
そう思っていると、小さな声で聞き取れなかったが何か呟いているのに気づいた。
ボソボソと独り言のように呟き続けている。
聞き取ろうと耳を澄ましていると、
「ごめんなさぁぁぁいい!うわぁぁぁん!!」
「ええ!?」
いきなり大声で泣き叫び始めた。
思っていた行動とははるかに乖離している行動を見てまた呆気に取られた。
子供のように両手を大きく振り回してなく姿を見て、ますます可哀想に思えてくる。
…なんでこの子1人で襲ってきたの?
「ごべ…ごべんなさい…ひぐ…調子乗りました…」
「え?え?ええ…えっと、と、とにかく落ち着い」
「ま、真那…ほんとは…クソ雑魚なんですぅ…うあああぁぁん!!」
「いや、あのえっと…」
「ひ、1人でぇ…上手くやればぁ…す、すー君も褒めてくれると思ってぇ…わああああぁぁぁあん!!!」
「うるさ…!とにかく落ち着いて!ほらどいてあげるから!ほら立って!」
「ひぐ…うう…あり、ありがどゔ…ございますぅ…うう…」
「…えぇ……どうしてこうなった…」
なんであたしは襲ってきた人を慰めているんだろう?
女の子も抱きついてきて離れてくれないし、舞に助けを求めてもオロオロしててダメそうだ。
えぇ…どうしよう。対処に困ってしまい、ひとまず泣き止むまで抱きしめてあげる事に。
その時だ、
「うっ!」
左肩に熱と痛みを感じた。
肩を見ると、肉が裂け血が流れている。
最初女の子がやったのかと思ったが、すぐに違うと気づく。
驚いたようにあたしの傷口を見て震えている。それに心なしか心配してくれているようにも感じた。
それに痛みが来る直前にした発砲音。
…音がした方をみると、男2人が銃をあたしに向けている。
そいつらには見覚えがあった。
2人ともシェルターで見かけた…蔓木の仲間だからだ。
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