2-10.歪な怪物との戦い
肉風船を突き破って現れた怪物は呻き声を上げながら辺りを見ている。
その様子からまだこちらを見つけていないように感じる。あたし達よりも遥かに大きい為、頭が2階に当たっている。
今まで会った怪物の中で一番大きい。それに一番醜い姿をしていて、気持ちわるい。
足を踏み出すたび地面が揺れている。もし踏まれでもしたら、体重だけで潰されるだろう。
それに腕が複数あるため、接近して切り掛かるのは難しい。
1、2本は避けられても6本は無理だ。かといってあの巨体に銃弾が効くかどうかわからない。
倒すのにはおそらくあるであろう核を壊す。問題はどうやって探して破壊するかだけど。
動きは鈍いが今までで2番目くらいには面倒な怪物だ。
ただ、気になっている点がある。
指がいくつか欠けているが再生してない。
それどころか動くたび体の表面が剥がれ落ちるように崩れ、そこから体液が漏れ出る度に鳴き声をあげている。
指や腕、尻尾に至るまで動くたび少しずつ崩れている。
それにさっきから足踏みして周りを見ているだけでそこから動いてない。でも動くたびに足から出血している。
…もしかしてこいつ放っておけば勝手に死ぬんじゃない?
おそらくだけど、重すぎて自重に耐えきれてない。
それに変異の仕方が違うせいかどうかわからないけど、明らかに失敗している。見た目も中途半端だ。
どうしよう。下手に手を出すよりも、このまま隠れてやり過ごした方がいいのかもしれない。
そう思っていたのに男2人が銃を構えて近づいて行こうとする。
「ちょっと、あれ放っておけば勝手に死ぬんじゃないの?」
「いや、今のうちに倒しておかなければならない。今は不安定な状態だが、時間が経つと徐々に安定していき手がつけられなくなる可能性があるらしい。」
「らしいって…誰から聞いたの?」
「以前あいつを倒した人が蔓木さんにそう言ったそうだ。俺たちはその場を見ていないので、聞いた話だがな。」
「そうらしいな。実際安定したのを見たわけじゃねえけど、目の前のやつがさらにヤバくなるならさっさとやった方がいいだろ。」
「…話は分かった、ならさっさとあいつを倒そ。そういえば前に倒した人って誰?未道って人?」
「いや違う。確か…雨宮?だったか…っと悪いが話は後だ。まずはこっちを済まそう。」
そう言って怪物に向き直る。
未だにその場で足踏みをしているその姿は、まるで駄々をこねる子供のようだ。
そういえば変異する前の男も発狂しながら銃を撃っていた。もしかしたらこいつは…
浮かんだ想像を頭を振って散らす。…目の前のやつはもう人間じゃない、だから意識が残ってようが関係ない。
それに同じ轍を踏むのはごめんだ。だから…こいつは殺す。
…そう決めたのはいいが、問題は解決してない。
このまま接近して攻撃しても返り討ちに合うのは目に見えている。
かといって接近しないと核の位置がわからない。どうするか…
一応2人に聞いてみる。
「作戦とかある?」
「ない。いつもは蔓木さんが惹きつけている間に、残りの人間が銃で撃ち殺していた。」
「そうだな。ん?そうだっけ…いやそうだったような…」
「お前…また隠れて酒を飲んだのか?やめろと言われていただろう…」
「いや、俺は」
「喧嘩は後でやって。じゃあ作戦はないってことか…いや、あーそういうことか…」
蔓木があたしを残した理由がわかった気がする。絶対にあいつ性格悪い。
あたしをここに残した理由。それはおそらく…
「多分だけどさ、あたしに蔓木さんと同じことをやれってことだよね。」
こういうことだろう。
そういえば前に、覚醒者が怪物を惹きつける囮役をやるみたいなことを言っていた気がする。
その時からこうなることを考えていたんじゃ…
「…そうか、確かにお前ならできそうだ。」
「はぁ…正直やりたくないんだけど。あなた達がやる気はないの?」
「悪いが無理だな。あんなのから逃げ続ける自信なんてねえな。」
「俺もだ。すまないが頼まれてくれないか?」
「でしょうね……分かった。なら2人はあたしの指示に従って、いいでしょ?」
「ああ。」「おう。」
…これが終わったら追加で何かもらおう。
そう決めたあたしは地面を揺らす怪物を倒すため動き始める。
あたしは1人怪物の足元にいる。
上の階に目をやると、2人が銃を構えて待機。あたしの後方、少し離れたところには舞が待機している。
…さて、始めるか。
覚悟を決め、手に持っているマチェットを力一杯足に突き立てた。
柔らかい感触。肉というよりもゼリーを切っているような感触だ。
突き立てたものをそのまま横へと薙ぐ。
すぐに後ろへと下がると、さっきまでいた場所に体液が吹き出していた。体液がかかった場所から少し煙が出ている。
おそらく溶けている。手元のマチェットからも同じ音がしているので怪物に投げつけた。
投げつけた物は簡単に体に刺さった。
この怪物は色々脆い。酸が厄介だけど、これだけ脆いなら銃を撃ち込み続ければ倒せるかもしれない。
そう思っていると周りが少し暗くなる。
上を見る前に横へと跳ぶ。さっきまでいた場所に、重い音と共に大きな拳が振り下ろされていた。
危なかった。あのままあそこにいたら死んでいた。
いくらあたしに再生能力があっても、潰されたらどうなるかわからない。ここで死ぬつもりはない…今はまだ。
あたしはショットガンを構え撃つ。広がる銃弾が怪物に傷をつけ、ジョウロのように体液が漏れ出す。
そしているとついに、怪物がこちらに目を向けた。ここからはあたしが攻撃する必要はない。
とにかく避けることだけに集中する。
ショットガンを後方へと投げ捨て、マチェットを構える。
怪物が右側3本の腕を振るい、拳を繰り出す。
…同時に振り下ろされるかもしれないが、タイミングをずらしてくるかもしれない。
右、左、前、後ろ、上。その中からあたしが選んだのは…前。怪物の足元へと駆け出した。
股の下を潜り抜ければ拳が当たる確率は低い。ただこの方法には問題があった。
「っ!熱…!」
怪物から流れ出る体液が体にかかってしまうことだ。
露出している手の甲に体液が少しかかっただけで、皮膚が溶けて赤い筋肉が露出している。
…これが顔や頭にかかった場合、最悪死ぬかもしれない。一応フードをかぶっているが、気休めにもならない。
この方法はあまり多用できない。どうしても躱せそうにない時だけにしよう。
後ろへと回り怪物の視界から外れる。すぐに怪物が頭を動かしこちらを探し始めたので、動かした方向に走りだす。
そしてGフォンを取り出し、上にいる仙道にワン切りをする。
数秒後、3人の銃弾が怪物を貫いた。
「うがあああ!!!いでぇええええ!!!ああああああ!!」
怪物は痛みで絶叫をあげている。
あたしはすぐに怪物から距離を取り、さっき捨てたショットガンを拾いに行く。
銃弾で蜂の巣にしたから身体中に穴があいて、体液が雨のように降り注いでいる。
流石にあの状態の怪物に近づくのは無理だ。
銃弾を浴びせていると、怪物が腕を使って人間の方の頭を守り始めた。
…もしかして核はあの中?
銃弾をそこへ集中して打ち込むが、腕が邪魔をする。
3方向から打ち込んでいるが腕が6本もあると防がれてしまう。
持久戦に持ち込めばこのまま打ち続ければいいかもしれないが、そうも言ってられない。
さっきまで風船から水が抜けるように噴き出す体液が、体に沿って流れ出るようになってきている。
それに銃弾で出来る傷も、少しずつ少なくなってきている気がする。
…おそらく安定し始めている。もう時間がない。
ならあたしがやるしかない。あたしは怪物へと駆け出す。
3人のおかげで腕の動きに制限ができている。あとは残りの腕を避け切り、頭を切り落とす。
あたしの動きに気づいたのか、怪物が拳をつくりこちらへと振るう。
3本は銃弾で動かせない。
そのため残った3本がこちらへと向かってくる。1本目、右側中央の腕を振り上げのを確認して避ける方向を決める。
そう思っていたが、誤算があった。向かってくる拳の速度がさっきよりも速い。
さっきまでは速い自転車ぐらいだったのが、速い自動車ぐらいの速度だ。
すぐに右へ跳ぶ。
「っ!つあぁ!あああああ!!」
避けきれず左足の先に掠った。
音もなくあたしの左足首から先が弾け飛び、尋常じゃない痛みがあたしを襲う。
そのせいで体勢が崩れ、手から地面につく。
けれど怪物は待ってくれない。すぐに2本目、右側3本目の腕が着地するあたしへと向かってくる。
足を地面につけてから跳んでも間に合わない。そもそも片足で跳んでも飛距離が足らない。
…一かバッチか!
地面に手がつく前に、持っているマチェットを怪物へと投げつける。これで手は自由に使える。
そして地面に手がつくと同時に、逆立ちの要領で上へと跳ぶ。
天地が逆転し、地面が上に見える。そこを大きな腕が通り抜ける。
その腕に転がるように着地し走り出す。
左足はまだ再生しきっておらず、足先のない状態で走った。
踏み出すたび足の骨への衝撃が伝わってくる。…痛みと同時に膝から骨が突き出るかもしれない錯覚を覚えた。
それでも唇を噛み締め痛みに耐えながら走った。
二の腕あたりまでついた時に3本目、左側中央の腕がこちらへと向かってくる。
腕スレスレで向かってくる腕を避けるため、倒れるように腕の上から飛び降りる。
落下中にさっき投げたマチェットの位置を確認する。…右足に刺さっているのが見えた。
4m落下の威力を殺すため、着地すると同時に前へと転がる。
「っ…いった……足直ってる…これなら。」
着地で体から軋むような音がしたが、代わりに無くなった足先が再生していた。
あとは武器を取って、体を上り首を落とすだけ。
すぐに足元へと走り寄りマチェットを引き抜く。
怪物が足をあげて踏み潰そうとしてくるが、あたしは既に尻尾の上だ。大きい体のせいで足元が見えてなくて助かった。
尻尾を駆け上がり背中へ。猫背になっているから駆け上がることができる。
こちらの姿が見えないため、がむしゃらに腕を振り回してあたしを振り落とそうとする。
けれど先までの速さはない。しっかりと見て躱す。
そうして首元まで辿り着いた。後は叩き切るだけだ。
「結さん!伏せてください!」
そう聞こえ咄嗟に伏せる。
?何も来ない…そう思っていたがすぐに上を腕が通り抜けた。
あっぶな。助かった…後で舞にお礼を言わないと。
素早く立ち上がりマチェットを構える。そして大きく振りかぶり、怪物の首へと刃を入れる。
「はああああああ!!!」
「ぐぎゃああああ!!やべロおおオオお!!!」
皮膚を裂き、肉を断ち切り、骨を砕く。
巨大化した血管が切れるとそこから血液が噴き出る。
骨は石のように固かったが、峰の方で強引に砕いた。
首を半分ほど切り落としたところで怪物の腕があたしを掴んだ。
なので頭を持ち、力一杯引きちぎった。ミチミチ…と肉がちぎれる音は…
ブチリ!と完全に頭をちぎった瞬間、あたしを掴んでいた腕から力が抜ける。
その後怪物の巨体は、崩れ落ちるように地面へと倒れ込んだ。
あたしは手に持っている顔のない巨大な人間の頭を地面に投げ捨てる。
まだ生きているからか、巨大な頭は顔をクネクネと動かして抵抗している。…後はこの中にあるであろう核を壊すだけだ。
近くに落ちているマチェットを拾い、頭へ突き立てる。
…あたしは完全に油断していた。だから銃で撃って確認するべきところを怠った。
首と違って柔らかい感触。それはまるでゼリーのような感触にハッとした。
それに気づいてすぐに飛び退こうとしたが遅かった。
切り口から吹き出した体液があたしの体にかかった。
「ぎゃあああああああああ!!!」
「いやあああああ!!そんな!結さん!!!」
あたしの絶叫に気づいたのか、舞の叫び声が聞こえた。
「ああ!!痛い痛い痛い!!熱っ熱い!嫌…体がぁ…溶け!っかは…息…が!」
かかった部分が無くなっていく。
酸によって尋常じゃない痛みと熱があたしを襲った。
すぐに振り払おうとするが払おうとした手も溶けてしまいどうすることもできない。
溶けた肉や骨、臓器が空気に触れ痛みで悶えると、体から臓器がこぼれ落ちさらに苦痛が増していく。
胃が飛び出し、腸が流れでて、肝臓や腎臓が失われていく。
何時間にも感じられる苦痛の時間は現実では数分なのだろう。
ついには痛みを感じなくなった。そうなった時に気づいた。
胸元にかかったせいだろうか、呼吸ができない。肋骨が溶けておそらく肺が溶けている。
…仰向けで倒れ込んでいるあたしを見下ろしているのは、歪んだ笑顔の舞。
それが本物なのか偽物なのか今のあたしにはわからなかった。
…ああ…このまま心臓も溶けて…
そこで意識が消えた。
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