2-9.寄生体
怪物が現れるまで後1時間ほど。
すぐに外に出れるように1階で待っている。
シェルターの人もすでに何人か待機しているようだ。
銃を点検している人や、仮眠をとっている人。中には食事をしている人もいる。
これから動くのに食べて平気なのだろうか。配られている肉を巻いたおにぎりを食べている。
ちなみにあたしは断った。舞は何か気分が悪そうに見ていたけど、仕方がないと思う。
バリケードの前は人が多くて嫌だったので、あたしは目立たないように隅の方に座っている。
舞はアイドルだったためか何人かに話しかけられ、そのまま雑談をしている。
…やっぱり少し、いやかなり性格が変わっている気がする。
最初に会った舞は、誰かの後ろに隠れてまともに会話すらできなかった。
記憶が少し戻ってからは多少改善されたが、今みたいに1人で初対面の相手と会話なんてする性格じゃなかった。
中には同級生がいるのかもしれないが、それでもコミュ力が跳ね上がっている。
もしかして記憶が戻るほど、その頃の性格に戻っていくのかもしれない。
あたしも記憶が戻ればそうなるのかな。
過去のあたしは自分を犠牲にして、他人を助けることだけ考えている人間だった。自己犠牲の塊。
まあ名前の由来を成し遂げるなんていう意味不明な家訓のせいだとは思う。実際いじめにあってからは、助けたくて助けたというより、言われたから助けている節があった。
それでも今のあたしとは真逆だ。正直あたしは…仲間が助かるなら、他がどうなろうとどうでもいいんじゃないかと考え始めている。…まあその仲間も今は舞1人だけだ。
最初は全員助けたいと思っていた。でも助けられなかったり、助けた人に裏切られたり、仲間だった人を殺したり…そんなことをしてきたからか、疲れてしまった。
最近人を信用できないのはそのせいなのかもしれない。
自分が傷つきたくないから、他人を遠ざけるため無意識に悪態をついてしまっている。
舞達にもそうだ。過去のあたしは多分善人じゃない。
そのあたしを知っているであろう2人から、過去の話をされるのが嫌で逃げ続けている。
記憶は取り戻したいとは思っている。ただ、記憶を取り戻すと性格が引っ張られるなら嫌だ。
天才なんて言われてても、誘拐したり、もしかしたら殺人しているような奴の記憶なんて戻したくない。
でも同時に償いと思っている。そのためには記憶を戻さないといけない。
もし記憶が戻ったら、その時あたしはどんなふうに変わるんだろう。
…人格ごと消えたりしないよね…でももしそうなっても、これ以上嫌な思いをしなくて済むならいいのかもしれない。
隅で膝を抱えているあたしとは対照的に、たくさんの人に囲まれて話す舞はすごく眩しくて…羨ましい。
それを見たくないから荷物の整理をして、視界に入れないようにした。…でも楽しそうに話す声はずっと聞こえ続けていた…
そろそろ時間なのか、人が増えてきた。
各々が銃を持ち最終確認をしている。あたしも荷物を整理して最低限まで減らす。
持っていくのは拳銃、ショットガン、マチェット2本、閃光手榴弾2個、銃の弾薬だ。
それ以外の食料などはここに置いていき、終わり次第取りに戻る。
…にしても人が多い。
見える範囲で数えても40人近くいる。これだけの人がいるとは思ってなかった。
前のフロアも最初はそのくらいの人数がいたと思うけど、生き残ったのは4人。
そう考えると、これだけの人数を生き残らせている蔓木はすごい。…あたしにはできなかったことだ。
でもなんでここの人は大人しく従っているのだろう。
正直蔓木にこれだけの人数をまとめ上げるほどの、カリスマ性があるとは思えない。
数時間シェルターで過ごしたが、喧嘩の一つも起きていない。…まあ、あたしはしたけど。
食料だって数が減ってきているのに不満をあげている人もいない。
いくら蔓木が覚醒者だからって、これだけの人がついていくのだろうか。
…でもそれができているから、これだけの人が生き残れている。
多分あたしは妬んでいるんだと思う。あたしにはできないことをできる蔓木を。
もし蔓木が前のフロアにいたら、もっと大勢の人が生き残れていた…そう考えてしまう。
そんなことを考えていると、誰かが手を叩く音が聞こえた。
ざわめいていたのが静まり返る。見てみると、蔓木がやったようだ。…隣に龍之介がいる。
「みなさん、これからまた怪物がやってきます。ですが恐れる必要はありません!いつものように落ち着いて対処すれば必ず勝てます。私だけでは勝てません…ですのでみなさん、力を貸してください!」
「「「おおー!!」」」
「…ありがとうございます。今日こそ全員で生き残りましょう!」
「「「おおー!!!」」」
「それとこちらの方が今日から私達の仲間になります。中にはいい印象を持っていない人たちをいるとは思いますが、どうか仲良くしてあげてください。では真壁君、挨拶を。」
「え〜紹介されました真壁です。え〜」
…聞きたくなかったから耳を塞いでそっぽを向いた。
しばらくすると拍手の音がしたので視線を戻す。
蔓木の指示で数人ずつ外へと出ていく。何人かはエレベーターで上へ行ったけど、わざわざさっきの聞くために来たのか。
そういえば、手伝うとは言ったけど作戦など全く聞いてない。
最後まで残っているとあたしと舞に、3人の男を引き連れて蔓木が話しかけてくる。1人は舞の銃を選んだやつだ。
「よかった、ここにいた。ごめんね話し合いが長引いて説明する時間がなくて。」
「それはいいです。それであたし達は何をすればいいですか。」
「あなた達は私と一緒に怪物を惹きつける役ね。近くの怪物に攻撃して気を引いて。」
「…あたしはいいですけど、舞にその役は危険すぎます。なので」
「あ、あの!わたしは大丈夫ですから!なので結さんと一緒に行かせてください!」
「と言ってるけど?」
あたしはため息をつきながら舞を見る。
舞はあたしをまっすぐ見ている。…冗談や仕方なく言っているのではなく、舞自身が決めたことのようだ。
…正直舞にはシェルターで待っててほしい。でも…舞の意志を尊重してあげるべきなのかもしれない。
「…わかりました。舞はあたしと一緒に行動します。」
「!ありがとうございます、結さん!」
「言っとくけど、危なくなったらすぐにあたしに任せること。…絶対に無茶はしないで、お願い…」
「…はい、気をつけます。よろしくお願いします。」
「決まったみたいね。それじゃあいきましょう。」
「その前に怪物の情報をください。」
「ああごめん、そうだった。他の人たちは毎回戦ってるから知ってるけど、あなた達は初めてだもんね。えっとね」
パァン!
その言葉を遮るように1発の銃声が響いた。
それを聞いた蔓木達の顔つきが変わり、出口へと向かっていく。
「もう来たのね…実際見た方が早いわ、行きましょう!」
走り出す蔓木達に続く。
あたし達もそれに続いて外へと出た。
外へ出ると全員が同じ方向へ銃を向けている。
その先へと視線を向けると、べちゃっ…べちゃっと水ぽい足音を立てながらこちらへと向かってくるピンクの物体が見える。
まだ距離があるから正確な大きさはわからないけど、1〜2mぐらいの大きさのやつが3体いる。
蔓木を先頭に歩いて距離を詰めていると、蔓木が話しだす。
「…あれがこの時間の怪物。あたし達はパラサイトリザードって呼んでる。」
「っ…な、なんですか…あれ…う…うえぇ…気持ち悪いですぅ…」
そう言われたそいつらをしっかり見る。隣で舞がそいつらを見て吐きそうにしている。気持ちはすごくわかる。
確かに大雑把に見ればトカゲに見える。けれど、どちらかというと…ミミズだ。
いやミミズとトカゲを混ぜ合わせたような怪物だ。
表面は粘液で湿っており、光を反射している。
手足があるにも関わらず移動する時に、体を伸縮させながら動いているのが気持ち悪い。
ピンク色の体は皮膚が薄いのか中が透けており、赤い血管が浮き出ているのが見える。
丸く開いた口には無数の牙がびっしりと生えており、口に入れたものを逃さないのわかる。
眼球は体内にあるのか顔を動き回っており、縦横無尽に動きまわり獲物を探しているようだ。
…うん、パッと見ただけで吐き気がする。
ただ他の怪物と違う点が多い。
まず手足に爪がない。他の怪物はどれも鋭い爪を持ったやつが多かった。なのにこいつにはそれがない、どうやって襲ってくるのか…
それと思ったより小さい。大きいのでも四つん這いで移動しているためか、あたしの首より下だ。全長で見ても、2mもない。
ただ気になる点がある。それは名前だ。
「で、でもどうしてパラサイトなんでしょうか?あれだと…えっと…リザード…」
「worm lizardの方がしっくりくるね。どうしてですか?」
「…あいつらは人間に」
「う、うああああああああ!!し、死ねええええ!!!!」
「!何してるの!早く戻りなさい!!」
1人の男が錯乱しているのか銃を乱射しながら怪物へと向かっていった。
銃弾が怪物に当たるたび、風船に穴を開けたようにピンクの水が流れ出ている。
…あれ、弱くない?そう思っていると、先頭にいた怪物が突然男に向かって…伸びた。
「ひっ…ああ…うああ」
男は叫び声をあげて銃を撃とうとするが、眼前にいる怪物は体の倍以上に口を開け男を丸呑みにした。
…半透明な体を通して男が見える。水中にいるのと同じで、息ができずもがいている…そう思っていると、男が口を押さえ始めた。
よく見ると、体液が流れ込んでいるようだ。
口を押さえながらジタバタと手足を動かしてもがくが、息ができない苦しさからか抵抗できない。
男の体内へと体液が流れ込むにつれて、怪物が萎んでいく。
そして怪物の全てが、膨れ上がった男の体内へと収まった。男は虚な目で虚空を見つめている。
その様子を周りの怪物は首を上へ挙げゆらゆらと揺らして見ている。その姿はこれから起こることを喜んでいるように感じた。
「っ!お願い…間に合って!」
気を取られていたあたし達を引き目に、蔓木が試験管を3本投げつけた。
それが男に当たり中の液体が降りかかる。
瞬間男の絶叫が響き渡る。
降りかかった液体が煙を発しながら男の顔を溶かし、肩の肉を削ぎ落として骨を溶かしていく。
必死に払い除けようとしているが、触れた端から指が溶けて消えていく。
痛みのせいか崩れ落ち、床に残った液体が全身を溶かしていく。
必死に手をこちらに伸ばして助けを求めているが、もう手遅れなのは誰が見ても明らかだ。
そしてそのまま骨すら残らず、溶けて消えた。
…そう思っていた。
男の体がまた膨れ上がった。そして体を内側へと折り曲げ、粘土をこねるように丸まっていく。
そこに残ったものを表すなら…そう、頭と手足のない人間の風船だ。
その場にいる全員が動けずにいる。怪物はその様子を見て、嬉しそうに首を振っている。
「…まずいわ…。神代さん、これ以上犠牲を出さないためにも私は他のトカゲをやる。あなたはこれから出てくるやつの相手をお願い。」
「なんであたしが…あなたの方が対処法がわかっているんじゃ…」
「私じゃあ倒すのに時間がかかる。他のトカゲの相手をしながら指示をださないといけないし、あなたの方が適任なのよ。」
「そんなこと突然」
「みんな!私が残りのパラサイトリザードを引き付ける!変異体はこの子達が対処するから、私について来るやつの対処をお願い!」
「は?ちょっと!何言って!」
「ごめん、話している時間はないの!残った3体はなんとかするからお願い!それと絶対に叩き割ろうとしないで!」
そう言って風船を無視して残ったトカゲへと向かっていき、銃を撃ちながら奥へと走っていく。
すり抜けざまに銃弾を撃ち込んだからか、3体のトカゲは蔓木を追っていく。
そして後ろにいる人たちも蔓木を追って行ってしまった。残ったのはあたしと舞、それと男が2人。…1人足りないんだけど。
1人は銃を選んだやつ。そしてもう1人も見覚えがあった。このフロアに来たときに2人に銃を向けて、あたしと話したやつだ。
…最悪だ。よりにもよってなんでこいつらなの…信頼度0じゃん…
「あの時ぶりね。」
「ああ、まさかこうして一緒に戦うことになるとは思ってなかったがな。」
「全くだ。まあ、あの時は俺らが先に手を出したからな。嫌だろうけど、手を貸してくれ。」
そういう彼の言葉に、もう1人の男は驚いている。
そりゃあれだけ突っかかってきていたやつが、素直に謝って協力を申し込んでいる姿を見たら驚くだろう。
…というか。
「あなた達名前は?」
「松村 圭一 (まつむら けいいち)だ。」
「仙道 啓司 (せんどう けいじ)だ、よろしく頼む。」
「あたしは」
「大丈夫だ。すでに蔓木さんから報告はもらっている。」
「そ。じゃあ、そろそろ気合い入れたほうがいいかもね。舞は下がってて。」
「で、でも。」
「後ろから撃って援護してくれればいい。…頼りにしてる。」
「!は、はい!がんばります!」
嬉しそうにあたし達の後方へと走っていく。
目の前の風船が脈打つように等間隔で震える。…さっきまで2mぐらいだったのが、少しずつ大きくなっている。
「…口が上手いな。」
「さあね。ねえこれから出てくるやつの情報持ってる?」
「悪いがない、前に出たやつは他の人が倒した。それに同じやつが出てくるとは限らないからな。」
「じゃあ前に出たやつはどんなだったの?」
「…表せる言葉がない。だが…人狼など、あれに比べれば可愛いものと言えるレベルだ。」
「人狼と比べられてもねぇ…というか今のうちに叩き割ればいいんじゃないの?」
「やめといた方がいいぜ。前の時はそれやって、中の液体被ったやつが消えたからな。」
「それなら…」
手持ちのショットガンを構え撃ち込む。皮膚を突き破り、中の液体が漏れ出す。
撃ち込むたび何かが溶けるような音が聞こえるが…銃弾が溶けている?
それでも穴を大きくして液体を全部出せば中のやつも死ぬかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら銃弾を装填し、肉風船へと銃を向けると突然風船が萎んだ。
死んだ?と思ったが、肉風船が中にいるものの形で佇んでいる。
そして中のやつが暴れじ始めたのか、肉風船がその形に合わせて伸び縮みしている。
…ついには穴が空いた部分が破れ、ゆっくりと全身の姿が露わになる。
「くるぞ…。全員警戒!」
出てきたそいつは、他の怪物とは違った。
今まで見たのは単一の生物が巨大化したりしたものだったが、目の前のそいつは違う。
言うならば人間と、恐竜を混ぜ合わせたような怪物だ。
目と口が塞がれた人間の頭と、歪に歪んだ恐竜のように大きな頭。鞭のようにしなる大きな尻尾。
腕が6本ついていて巨大になった人間の腕と、鋭い爪がついた獣腕が混じっている。しかしいくつかの指が欠けている。
脚は4本あるが2本の人間の足は小さすぎて地面についておらず、怪獣のような脚が地面を揺らしている。
すごく歪な姿をしたそいつはあたし達の見つけると、人間の叫び声に違い絶叫を上げこちらへと向かってきた。
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