2-5.情報交換
蔓木という女性が部下達に指示を出すと、あたし達の荷物を持って行かれた。
抵抗したかったが、2人を人質に取られているので動くことができない。
「ごめんなさい、ひとまずお預かりさせていただきます。では、ついて来て下さい。」
手持ちの荷物を奪い取られたため、仕方なく従うことに。
歩きながら周りの様子を探っているが、やっぱり銃弾の跡が多い気がする。
それと怪物の姿が見えない、爪痕のような傷はあるが姿が見えない。この階だけでなく下の階にも見当たらない。
代わりに各階に大きな銃を持って巡回をしている人が見えた。
何かを警戒しているようだけど…ああ、変異して怪物になった時のためか。
確かに前のフロアと違って人とすれ違う。前のところだったら隠れてこちらを伺うだけで、すれ違うなんてことはなかった。
そう考えると雰囲気はいいのかもしれない。…いや、初対面で殺そうとする奴らだ…油断できない。
考えながら歩いていると目的地についたのか蔓木が止まる。
広間へと続く道にバリケードを作っているのか、色々なものが積み上げられている。
その間に2人が通れるぐらいの隙間があり、その前には見張りなのか銃を持った人間が立っている。
「お疲れ様。…ふう…、ちょっと待っててね。…すみません、お2人は遺体の処理をお願いします。」
「わかりました。」「はい、任せてください。」
そう言われると後ろにいた2人があたし達の荷物を置いて去っていく。
多分あたしが殺したやつの処理をしに行ったんだろう。律儀なことだ。
置かれた荷物は見張りのやつが持つと、バリケードの中へ消えていった。
せめてGフォンは取り戻しておきたい。武器は最悪なくても、こいつらから奪えばいい。
見張りに目を向けている視線に気づいたのか、蔓木が話してくる。
「そう警戒しないで、危害を加えるつもりはないから。」
「それなら荷物を返してもらえませんか?」
「ごめんなさいそれはちょっと…後ろの2人はいいけど、あなたは…」
「それなら早く話をしましょう。終わったら返してください。」
「…分かったわ。ここだと少しまずいから、中に入ってくれる?」
言われた通りバリケードをくぐり中に入る。
そこには2、30人の人間がいた。いくつかのグループで楽しそうに会話しているのが見える。
ほとんどが若者で、おそらく学生だ。男子が多く、男女比は3:1ぐらい。
壁にある店にはそれぞれ物が整理して保管してある。食料だけでなく武器も並べてあり、軍隊の基地のような印象だ。
管理に店を使っているため道にいくつも布団が敷いてあり、ここで暮らしているのが伺える。
中にはカセットコンロで肉を焼いている人まで。思ったよりも平和に見えた。
…でもなんでここで暮らしているんだろう。セーフルームの中にはベッドもあるし、わざわざここで休む必要はないのに…
そのまま奥へ歩いていくと、照明が明るい店に着いた。
店内にいくつも大きな筐体が設置されているその場所は、ゲームセンターだ。
蔓木はその中へと歩みを進め、それにあたし達も続く。
店内にある筐体のほとんどが壁際に寄せられており、かなり広いスペースができている。
その一部はガラスが破られていて、おそらく中身を出そうとしたんだと思う。
さらに奥へと進むと、従業員室の前にベッドと机がいくつか設置されている。
蔓木はそこのベッドに腰をかけ一息ついたあと、
「ここならゆっくり話せるわね、3人とも座って?あっ椅子はそこに立てかけてあるのを使っていいから。」
壁に立てかけられているパイプ椅子を近く設置して座る。
あたし達が椅子に座ると会話を始める。
「それじゃあいくつか質問させてもらうね?その後、あなた達の質問に答えるから。それでいい?」
「ええ、構いません。…2人もそれでいい?」
「ああ…」「…はい。」
「ありがとう。それじゃあまず聞きたいのだけど、あなた達は扉の向こうから来た…これはあってる?」
「はい、そうです。」
「そっか、ええっと…他に来れそうな人は…」
「いません。向こうにはもう誰もいませんので。」
「それは…ごめんなさい。きっと辛い目に遭ったのね……え、えっとじゃあ…その…」
あたしの答えに困惑しているのか質問に困っている。
…先に質問してもいいかな…そう思っていると何かを思いついたように質問を続ける。
「あっそうだ!…あなた達の中で、変異…怪物になりかけた人って…いる?」
「っ…あたしだけです。」
「嘘つき♪わたしも、怪物になったじゃないですか♪」
「…………」
ニタニタと笑いながらあたしの正面に立ち、あたしの嘘を訂正してくる。
…他の人が何も反応していないということは、やっぱり幻覚なんだ。あたしは無視して会話を続ける。
「じゃああなたは覚醒者なのね?そっか…神代さんはやっぱりすごいのね…」
「?それはどういう意味ですか?それに覚醒者というのは…」
「覚醒者は変異で人間の姿を保てた人のこと。通常の人間を超えた能力を持っているから、ここだと重宝しているの。呼び方はある生徒がつけた物だから特に意味はないのだけれど。」
「あなたもそうなんですか?」
「ええ、そうよ。…変異が起こった時は辛かった。亡くなった人が見えて、おかしくなりそうだった…神代さんはどうだったの?」
「同じですね。自分のせいで死んだ人たちが夢に出て来ました。それに腕の形が変わったりもしていましたね。」
「そう…辛かったね…でももう大丈夫!ここには何人か覚醒者はいるし、私も辛さはわかってる!だからね、いくらでも相談に」
「結構です。質問は以上ですか?」
「う…うん…。それじゃあ次は神代さんたちが質問して?」
…聞きたいことが多い。
1つずつ確認していくしかない。…1番聞きたいことは最後だ。
「それじゃあまず1つ目。どうしてこんな拠点を作ったんですか?セーフルームを使わない理由は?」
「拠点はここにいる人をまとめる為とか、休む場所の確保とか色々かな……えっとごめんなさい、セーフルームって何?」
「…わかりました、では2つ目。このフロアに怪物はいないんですか?」
「いえ怪物は…います。今はみんなで協力して倒したから、怪物はいないけど…変異してしまう人がいるから、いなくなることはないの。それと…」
「それと?」
「夜になると南側の壁が開いて、そこから怪物がやってくるの。…そのせいで毎日何人か犠牲に…」
…おそらくこのフロアには外出禁止時間がない。そもそもセーフルームがないのだから当然だ。
だからその代わりに毎日怪物が送り込まれる。ただこれだけ武装できているのに死人が出る…相当危険な怪物なんだろう。
一度見ておきたい。…今日も来るはず、どんなのか確認しておかないと。
「なるほど。それじゃあ3つ目。このフロアにいる人間はここにいる人で全員ですか?」
「いえ、他の場所にもいます。…こんな状況ですから協力し合うべきなのに、それができない人はここ以外の場所に潜んでいて。そのせいで物資の奪い合いになって、最悪死傷者が出ることもあって…。だからあなた達には、このままここで協力してほしいの。」
「考えておきます、4つ目。このフロアから出る方法は?」
「………」
そう聞くと蔓木は立ち上がり、あたし達の荷物からGフォンを取り出し渡してくる。
「メールが届いていない?」
「…来てますね。これは…」
「そこに書かれていることが答えかな。一応それぞれ条件が違ってるみたいだから、後で確認してね。」
…なるほど。ただこの条件だと上に上がれる人数には限りがある、そこは前のフロアと同じだ。
後で2人の条件も確認しておかないと、場合によってはあたしが代わりに…
「…えっと質問は以上?」
「次で最後です。あなたは……」
この質問をするのは少し迷った。ここで聞けば、2人があたしに対してどう思っているかわかってしまう。
けどいつまでも聞かない振りはできない。それに聞ける時に聞いておかないと後悔する。
…あたしは意を決して質問する。
「…?どうしたの?」
「あなたは……あたしを……神代 結を知っていますか?」
最初に会った時、名乗った際にあたしの名前を聞いて妙な反応をしてた。
さっきもあたしが人間の姿を保ったまま変異したと聞いてやっぱりと…その反応はあたしのことを知ってないと出ない。
蔓木は質問を聞いて答えずらそうにしているが、何かを決めたのか話し始めた。
「ええ、知ってます。…というよりも同じ学校で知らない人の方が少ないですよ…」
「…それはいい意味でですか?それとも、悪い意味で…ですか?」
「……どちらとも言えない。私はあなたとは直接関わりがなかったから、世間話程度だけど…」
「構いません。どんな話ですか?」
「天才。…もしくは狂った天才と…」
「それはまた変な呼ばれ方を…なんでそんな話が?」
「ある事をしたの。ある難病…AIS、筋萎縮性側索硬化病。今まで症状を遅らせることしかできない難病。…その治療法をあなたが開発したの。」
「…………は?」
想定を遥かに上回る答えにあたしは困惑した。
治せない病気の治療法を作った?あたしが?
…正直信じられない。あたしはそこまで頭がいいとは思ってない。
そんなあたしが治療法を作れるなんて到底思えないしありえない。
「そんな反応になると思う。だってあなたはまだ高校2年、その年齢で…しかもたった1年で治療法を編み出したから…」
「それは…確かに天才ですね…」
「ええ。…ただ、それと同時に悪い噂もついていて、2つ目の呼び名はそれのせいだと思う。…えっと、あくまで噂なんだけど……その…」
「早く言ってください。」
「……人体実験をしているという噂があったの。それも、同級生を使って…」
「は?」「え?」
2人の困惑。直後空気が冷えるのを感じる。
…同級生を使って人体実験。もしそれが本当なら、誰だって記憶を取り戻して欲しくないと思うだろう。
あくまで噂と言うけど、あたしは真実なんじゃないかと思えてくる。
…後ろの2人は今、あたしのことをどんなふうに見ているんだろう、もしかしたら…このことを知っていたからあんな会話を…
「…実際学校の生徒が何人か行方不明になってる。…だから…」
「…………そう。」「ふふ…さすがは結さんですね♪」
「あくまで噂!本気にしないでね?」
「その噂だと、あたしが誘拐犯になっているってことですか?」
「…いえあなただけじゃなくて、お姉さんと一緒になってやっていたという噂なんだけど…」
「姉?」
「ええ、あなたのお姉さん…神代栄華さん。」
「!神代…栄華?」
その名前には聞き覚えがある。
だって前のフロアで何度もあたしの前に現れて、助言みたいなことを言っていた人物。
そっか…それで納得した。どうしてあたしのことを構うのか、そういうことだったんだ。
「ええ…OBなのだけどよく学校に来ていたから、そういう噂が立ってて…私が知っているのはこのくらいなのだけど…その、ごめんね…」
「いえ、気にしていません。それに記憶を取り戻す理由ができました、ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ!色々教えてくれてありがとう!…それでこれからどうするの?」
「まずはフロア全体を調べようと思います。ですので荷物、返してください。」
「…わかった。じゃあ荷物は入り口まで運ぶから、少し待っ」
「蔓木さん!緊急事態です!怪物が出ました!」
さっき荷物を運んでいた男性が、慌てながらそう言ってくる。
相当焦っているのか額から冷や汗を流して焦っている。
「何体ですか?!それと種類は!」
「今は1体です!ですが連れが2名いまして、そちらも変異する可能性があります!種類は人狼です!今入り口前で足止めをしています!」
「っわかりました、すぐに行きます!…神代さん、こんなこと頼めた義理じゃないのは分かってるけど…手を貸してもらえない?」
「……条件次第です。」
後ろで2人が驚いている。きっとあたしなら2つ返事で助けると思っていたのかもしれない。
けど今回はそうはいかない。こいつらはあたし達を殺そうとした…そんな奴らのためにタダで何かするなんて冗談じゃない。
「わかった。後でほしいものを教えて、必ず支払うから。」
「それなら手伝わせてもらいます。それと、2人はここにいて。」
「何言ってんだ?俺も手伝うぞ!」「わ、わたしもです!」
「ごめんなさい、あなた方は戦力になりそうにないから待っててもらえる?」
「…なんだと?俺だって怪物とは何回も戦って」
「それってあたしが倒したのがほとんどだよね?もし1人で戦うことになっても…勝てるの?」
「っ!それは…」
あたしは冷たい声で、龍之介に尋ねる。
確かに龍之介ならショットガンで牽制ぐらいはできるかもしれない。ただ、危険性が全くないわけじゃない。
けど、蔓木もそのことは分かってるはず。わざわざあたしを名指ししたってことは人狼の怪物は強い。
足手纏いを連れている余裕はないのかもしない。
「悪いけど足手纏いになる。…ごめん、死なせたくないからここにいて…」
「…結……くそ…わか…った…。」
「……それじゃあ行きましょう。」
あたしは拳銃とマチェットを持って蔓木と共に外へ向かう。
ゲームセンターから出ると、悲鳴と銃声が聞こえてくる。蔓木は準備のため途中の店に入って行った。
あたしは1人現地へと向かった。
道中には戦えない人が足を抱え震えていたり、うずくまって耳を塞ぎ現実逃避している奴もいる。
そんな何もしない奴らを見てふと思った。
…なんでこんな奴らのためにあたしが戦わないといけないんだろう。
過去のあたしなら無条件でこいつらを助けるんだろうけど、あたしにはそんなのはごめんだ。
死ぬかもしれないのに使えないやつを助けるなんてどうかしてる。過去のあたしは、名前のことがあるとはいえ嫌じゃなかったんだろうか…
まあ今回は報酬が出る。…仕方がないから助けてあげる。
バリケードの隙間から何人かが銃を撃ち続けているのが見える。
次の瞬間、そこにいた人が消えた。数秒後に聞こえる絶叫…
すぐにバリケードを抜け外に出ると、ひどい有様だった。
少し離れた場所には頭を抱え、うめいているやつが2人。そいつらの仲間が変異したのだろう。
そして変異したやつがやったであろう惨状が目の前に広がっている。
数人の男子がバラバラの状態で転がっている。バラバラになりすぎて、正確な人数がわからない。
そのせいで床は辺り一面血まみれ、綺麗な場所が全くない。所々に血だまりができており、照明を受けて光っている。
そして…バラバラになった肉片を食らうやつがそこにいた。
見た目は黒い狼。ただ狼と違ってそいつは2足歩行しており、腕を器用に使って肉を口へ運んでいる。
腕は人間のように見えるが、爪は鋭く尖って鋭利だ。地面に爪痕が付いてるが、爪が欠けていないのを見るとかなり硬い。
顔も狼で、大きな口からは鋭い牙が血に染まって真っ赤になっているのが見えた。
黒い毛が全身にびっしりと生えているそいつは、まさに人狼というのが相応しい見た目だ。
そいつはあたしの姿を確認すると、咥えていた足を吐き出し向かってくる。
…こいつが、このフロアで最初に戦う怪物。
大丈夫…どんな怪物が相手だろうと問題ない。あたしは人型を1人で倒せるほど強くなっている。
油断はしない、けど自信がある。だって、どんな怪物が相手でも……あたしという怪物に勝てるわけがないのだから。
あたしは不敵に笑いながら、怪物を迎え撃った。
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